オーク村虐殺事件
今回から殺戮紀行です。でもロードムービー風ラブロマンスです。一応。
「……というわけよ」
私は婚約破棄に至る経緯を王子に告白した。
あー、思い出すだけでも腹たつ! なによチチョリーヌ。
ていうか、パウエルもパウエルよ。なにが巨乳が好きよ。
死ねばいいのに。
あれ? もしかして、私の願いって、それ?
パウエルの死?
「おい、フレイア。俺のドラゴンで一気に宝のある山に行くぞ。準備しろ」
「山?」
「ああ、そうだ。草原を越え、オークの村を越え、死霊の森を越え、ダンジョンを抜け、なんてのは全部省略だ。最終目的地の山まで行くぞ。どの山だ?」
あー。この王子馬鹿だわ。
それがわかれば苦労しないっての。
「あのね、王子さん。後ろ見て」
王子が後ろを振り返る。
「そっち、北なんだけど、ずーっと向こうの方、とにかく山しか見えないでしょ」
「ああ」
「あのどれかなわけ。草原を越え、オークの村を越え、死霊の森を越え、ダンジョンを抜けないと、どの山かわからないの」
王子が困惑した表情で私をみた。
「その地図見ると、まっすぐ北に行くように見えるが……」
「あんまりあてにしないでよ、長老の地図」
王子がこめかみをヒクヒクさせ出した。器用なのね。
「草原を越え、オークの村を越え、死霊の森を越え、ダンジョンを抜けないと、どの山かわからないんだな?」
「そう」
「せめて、ダンジョンの場所くらいわかるだろう」
「ええ」
「よし、だったらそこに直接行く」
はあ。ほんとバカね、この人。
「あのね、ダンジョンの入り口には魔法の鍵がかかっているの。その鍵は死霊の森のピラミッドの奥深くにあるのよ」
「聞いてないぞ、そんな話」
あたりまえじゃない。
「言ってないもん」
「な……!」
王子が何か言いたげな視線を私によこした。
「でさ、次は『じゃあ、そのピラミッドに直行しよう』なんて言うんでしょ」
王子がゆっくりうなづいた。「ああ」と言って。
「だと思ったの。ダメなのよね、それじゃ。ピラミッドに入るのに、これまた鍵が必要で、それはオークの村長が首からぶら下げているわ」
「はああああ? なんだ、そのめんどくさい手順は?」
まったく、短気ね、この王子。
「仕方ないじゃん。そうなってんだから」
王子は歯を食いしばって、何かに耐えている。
怒ってんの?
「わかった。オークの村だな。そこに行って、オークの村長の首にぶら下がっている、鍵を取ればいいんだな」
「そうね」
意外と物分かりがいいじゃない。
「ドラ太郎、カモン!」
王子がいきなり大声で空に向かって叫んだ。すると、先ほどのドラゴンがやって来た。
ドラ太郎っていうのね。名前は可愛いけど、すんごい怖い顔つきなんですけど。めちゃでかいし。
「おい、フレイア。乗れ。行くぞ、オークの村に」
「これで? 荷物は?」
「乗せて行く。『働き者の小人』頼むぞ」
あら、さっきの小人さん、こんにちは。またまた「ほほーい」と言いながら、あっという間に荷物をドラゴンの背中のカゴに乗せてくれたわ。いい人たちね。
「おい、フレイア。乗れ」
ドラ太郎が首を下げてくれた。まあ、親切。王子とは大違いね。
ドラ太郎の頭の部分には鞍が設置してあって、さらにツノにつかまることができて、安全そう。シートベルトもあるし。
「いくぞ、オークの村へ!」
ドラ太郎が「オオーン」と声をあげ、翼をバッサバッサ言わせて飛び立った。
「はやーい! すごいねドラ太郎!」
「もちろんだ、ドラ太郎は帝国一のドラゴンだからな」
へー。そーなんだ。
そんなドラ太郎のおかげで、あっという間に、眼下にオークの村が見えた。
「で、どうするの? ここから」
「村長の家はどれだ?」
「えーと、確か、村の中央の一番でかい屋敷よ」
「そうか」
王子はドラ太郎に合図を送る。すると、ドラ太郎は村長の屋敷の真ん前に着陸した。
「ちょ、ちょっと、死ぬ気? オークは少なくとも一万はいるのよ? どうするの? いくらドラゴンがいても、勝てないわよ?」
王子は無言。
あ、オークが出て来た。「おい、なんだあれ?」「人間じゃね?」「ドラゴンかよ、あれ」って口々に言っている。
あっという間にオークに囲まれた。
「ねぇ、ねぇったら! オークに殺されるよ! 逃げなきゃ! ね、ドラ太郎もそう思うでしょ?」
ドラ太郎は「クエー」と言うだけだった。
「うるさいな、このクソ娘。いいか、俺はライバック帝国一強いんだ。黙ってみてろ」
王子がドラゴンから降りた。
え? 一人で相手にする気?
「おい、貴様、何しに来た」
村長と思しきオークが王子に問いかけた。首から鍵をぶら下げている。
「単刀直入に言おう、その鍵をくれ」
あのバカ、そんなんでもらえるわけないじゃない!
「お前、バカか? そう簡単にこの鍵をだな……」
オークの言葉をさえぎって、王子が「大地の裁き!」と叫んだ。
すると、村長の後ろの地面が裂けた。
「ぎゃああ!」「おちるう!」
百人ほどのオークが裂け目に落ちていった。
「き、貴様、魔法使いか!」
「そんなチンケなものではない。魔導師だ」
そうなんだ。私の望み通りではあるのね。
「ふざけるなああっ!」
オークの集団が王子に襲いかかって来た。その数数千。ちょっと、これは無理でしょ?
「雷神の怒り!」
王子が叫ぶと、無数の雷がオークの上に落ちた。
「うがああ」「ぎゅえええ」
またまた、数千のオークが即死。
「貴様らオークは学習ということを知らないようだな。ライバック帝国拳奥義、天昇流!」
王子が変なポーズをしたかと思うと、いきなり、地面を拳で叩いた。
すると、王子はどひゅーんと真上に飛び上がり、上空十メートルくらいで止まった。
「喰らえ、地獄の火焔フルパワー!」
王子の掌からものすごい炎が出た。
「薙ぎ払え!」
オークの村を舐めるように炎が走って行く。
「ぎゃあ!」「助けてお母さん」「ぼうや、ぼうや、あうっ!」「ぬぐわああ!」
至る所から叫び声が聞こえて、まさに地獄なんですけど。
ちょっと、これ、マジでこの村、全滅するんじゃない?
結局、王子は村長以外のオークを全員焼きつくしてしまった。
「おい、わかったか。鍵だ鍵」
「き、貴様村をよくも……」
「あーうぜー。もう終わりなんだよ、この村は」
王子はものすごい速さでロングソードを抜き、オークの心臓を一差しにした。
「ぐは!」
オークの村長が倒れた。
「……ったく、手間とらせやがって」
王子は村長の死体から鍵をもぎ取った。
「おい、行くぞ、フレイア」




