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秋の調

作者: ゆたか

犬の散歩に出かける。玄関の戸を閉めた瞬間、私は溜息をついた。


秋はどうもいけない。むやみやたらにもの悲しくなる。


散歩道のあぜ道。収穫が終わった田んぼ。薄暗くなった風景。落ちたままの銀杏の葉。


息を深く吸い込みたくて見上げた空には 苦しい程の夕焼け。集団でグルグル回りながら飛ぶ鳥の群れに目をやると 大概上手についていけない奴がいるもんだ。


秋だからだ。日照時間のせいだ。私は地球に、日本人にやられてるだけだ。


あれだけ毎日前向きにやってるじゃないか。それとも誤魔化した膿が秋の気配に誘われて溢れ出したのか?


考えたって仕方ない。私は鬱々と家路まで歩くだけだ。


「……」


頭をグルグルと巡らせている私を軽く撫でるように誰かが囁いた。いや、何だろう この感じ。柔らかいシフォンが風になびいているような感覚。


「……」


分からない。気配はあるのに何なのか掴めない。その気配は個数であり複数な感じである。

探っているほんの間カサカサと一本の落葉樹が目に付いた。


わからない。どうしてあの木が話したように感じたのかしら。


言葉にはならない言葉を私にくれる。


優しく撫でるような言葉。


私は何故だか無性に泣きたくなった。


おかしいよ。秋のせいよ。泣きたくても泣けなかったじゃない。


でも誰にも自分でも分からないようなものを見ててくれたように感じて鼻がツンとなって身体がギュッとなった。


それからまた何にもないような顔して歩きだす。


夜になってくれて良かった。車のライトで目がキラキラしないように軽く袖で拭った。


自転車で横を通りすぎる高校生。ランニングする男の人。


鼻、赤くなってないよね。


早く暮れた夜道に紛れ込ませて 私は消えていく。







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