第1話 運命?
「え、な、何これ...!?」
私が「この姿」になって初めて起床したのは、股に違和感を覚えた時だった。
股に無かったはずの「ある突起物」があり、胸にあった質量は無かった。
私は森純 桜月、正真正銘健全な普通の女子中学生...のはず。
そんな私が、何故こんな姿に...?日頃の行いが悪いせい?いや、そんなはずは...
「桜月〜?起きてるんでしょ〜?」
母の声だ。いくら隠れようと空腹やら登校やらで出なければ行けなくなる。
ゆっくりとした足運びで階段を降りる。
いつもより重くなった体は、足で支えるので精一杯だ。
フラフラしながら、階段を下りた。
「やっと起きてきたわね、早くご飯食べちゃいなさい」
私の姿を見た母は、混乱することもなく、当たり前かのように台所へ戻り、母と父が既に済ませた朝ご飯の片付けを始めた。
「え...何か不思議な事無いの?」
「うーん、強いて言うなら、あんたが不思議な質問をしてきた事かしら?」
くすくすと笑いながら母が答えた。
おかしい、確実に。
でも、母は確かに私を「桜月」と呼んだ。
某映画の様に誰かと入れ替わっている、という訳では無いようだ。
そういえば、お腹が空いている事を思い出した。
席についた私は、野太くなった声で「いただきます」と小さく呟いた。
不運な事に今日は平日。
この状態で仕方無く学校に行くしかなかった。
あれ..?まさか制服...
いつも制服をかけるハンガーには、男物の制服がかかっていた。
脳では着方が分からないと思っていても、体が覚えているようである。
何の問題もなく制服を着替え終わると、いつもの時間にチャイムが鳴る。
「さーつき、学校行こー♪」
彼女は南 志織、小学校時代からずっと一緒に学校に行っている、所謂幼馴染みというやつだ。
そうだ...母親が驚かなかったという事は皆大丈夫だよね?
「お、おまたせ」
「えっ...桜月だよね?」
「そ、そうだよ?」
おかしい、おかしい、母は驚かなかったというのに何故...?
「私の好きなもの」
志織が問う。
「味の付いていない海苔」
咄嗟に私が答える。朝、何でもない日も毎日確かめている所謂合言葉のようなものだ。
誰にも聞かれない様にして言っているので、これを言えるのは偶然か私しか居ない。
「そう...これを言えるという事は本当なのね...」
志織は理解をしたようだった。
「そうなのよ...全く困ったもんだわ」
「って、そんな声で女口調は似合わないよ」
「そんな事言われたって、ずっとこうだったんだから今頃変えられないよ...」
意識して口調を変えたいものだけど...あまり男口調が分からない。
「まぁ取り敢えず、行こっか」
姿が変わっても志織は躊躇いなく私に話しかけてきた。
私も、躊躇いなく答えた。
それは周りから見れば、「カップル」としても見える状態だった.....
学校に着いた。
1学年12クラスもあるこの学校、学年全員の顔を覚えている者などほとんど居なく、私を「あいつ誰だ」みたいに凝視する者はいなかった。
しかし、下駄箱で事態は急変する。
「ちょ、お前、なんで森純の上履き履いてんだ?」
「って、お前見たことない顔だな、誰だ?」
そんなのは考えに無かった...どう切り抜けるか...
「さぁーどいたどいた!!」
ぷわぁーんという何か変な音と共に、志織が叫んだ。
皆耳を抑え、下を向いている。
(さ、行くよ!)
志織が私の手を引いた。