もしも僕が居なかったら
目が覚めると、僕はこの世界を傍観していた。
いつもと視点が完全に違うのだ。上からこの世界を見下ろしている様な、そんな感覚。
いつもと同じ世界。同じ世界なはずなのに、どこかが違う世界。何かがおかしい。そんな世界。僕がいつも見ている風景に、違和感を感じるような、そんな世界。
僕は何を見ているのか。僕はこの世界の、彼女を見ていた。僕には付き合っている彼女がいる。それはそれは大切な彼女だ。そんな彼女を、今世界の上から傍観している。
彼女は誰かを待っている様だ。先ほどからずっと時計をチェックしている。
そんな彼女が、ハッとした様に顔を上げた。待ち合わせの相手が来たのだろう。
男だった。彼女が駆け寄って、腕を組んだのは、僕では無い、他の男だった。お揃いの指輪を身に付けた、僕の知らない男だった。
この世界には、きっと僕は居ない。何となく、そう思えた。
僕がもし居なかったら、彼女はこの男と付き合っていたのか。こんなルックスのあまり良くない男なんかと。なんて可哀想なんだ。きっと彼女も望んでいないはずだ。
そう、思うのに。
なぜ、彼女はあんなにも幸せそうなんだ。僕と居る時よりも、楽しそうじゃないか。幸せそうじゃないか。僕ならお金も持っているし、そこそこルックスも良いというのに。僕に、何が足りないんだ。どこがいけないんだ。
「高慢さじゃ、ないかな」
僕の声がした。どこからかは分からないけれど、確実に僕の声でそう聞こえた。
僕が、彼女に対して高慢。確かに、僕はいつも偉いと思う。彼女の要望には応えているし、何でもしてあげているし、完璧な彼氏だっていつも自負している。彼女にもそう言っているし、それを彼女も認めているはずだ。そうやって恋人関係を保ってきた。
それが、間違っているというのか。
もしかしたら、僕は居ないほうが、彼女にとっては――。
僕はそこで、目が覚めた。どうやら夢を見ていたらしい。
あれが僕の夢なら、僕はどこかで彼女への態度に後悔の念を抱いていたのかもしれない。
僕は彼女の電話番号に電話をかけた。話したかった。反省を伝えたかった。僕が彼女を幸せにしてあげたかった。変わろうって、そう思えた。
「もしもし、僕だけど」
「あ、久しぶり。丁度良いし何も聞きたくないから、先に言うね。もう、別れようよ」
「は? いや、まず話聞けよ」
「ごめん、そういう態度やっぱ無理だし。それに、好きな人出来たから、他に」
その彼女の言葉を残して、電話は切れた。
――なんだ、あれはちょっとした予知夢だったのか。