教えて、エロい人
「ほんなら……。お前は今までの“氷雨朔”やのうて、前世で大往生をした六十五歳の爺で、昨日までの記憶がない。また、“柚月寧々”も同じように、ニュー朔のストーカーもどきで、同じ時期に転生みたいなんして、今ここに至る、と……」
「まあそんなトコですね」
「信じられんな」
「でしょうね」
そういうもんです、人間。そもそも科学的にあり得ない。ボクだって前世なら、転生なんてどこのネット小説だと笑い飛ばしてしまっただろう。それでも今この身に起きている。飲み込まなくてはいけないのだ。
難しい顔をしながら頭をガリガリ掻く玖奈目さんを見て、少し悪戯心がわいてくる。
「ですから、ボクはもうアナタの好きな“氷雨朔”ではありません」
「?!」
「なんで知ってるんだ、みたいな顔ですね。実はニュー朔のほうは他人の恋愛感情に聡い物で。細かく上げるとすれば、ボクを見るときの目に熱が篭っています。名前を呼ぶ声が甘いです。ボクの、乗り変わったと言う事実に少なからず憤慨しています。先ほどから脚が小刻みに揺れています。あとは…」
「わぁーったわぁーった!それ以上俺の恥ずかしいこと晒さんといてな!認めるで、俺は少なからず朔のこと好きやった!…けどな、違うねん。俺は朔やのうて…。いや、なんでもない。ええで、自分に協力したる」
「…?ありがとうございます」
最後の方はもごもごと言っていて聞こえなかったけれど、弱みも握れたのでよしとする。
はぁ、とため息をついて椅子に腰掛けるその姿は、女性を魅了するオーラをかもし出していた。モテるんだろうな、コイツも。どいつもこいつもイケメンにだけは優しいなぁおい!
チクショウ…と前世のボクを憂いながら、必要な分の質問を始めた。
「ええと、まずは。敵……げふんげふん、お嬢様の金魚のフンの情報をおねげーしやす」
まずは情報がないと対策もなんもできませんからね。
「今敵とか言わへんかった?…せやな、主な取り巻きは生徒会の連中や。
結構長くなるから手短に。
一人目、二年、鷲尾志信、書記ポジやな。んで、自分と同じクラスや。
赤髪のめっちゃ目立つ奴、いたやろ?一番自分につっかかってくる奴。
生徒会の荒事専門、喧嘩っぱやくて有名なんやけど、今はこの学校のほとんどの不良仕切ってる。
有能な警察一族の息子で、正義感は人一倍強い奴や。まあ、家の関係で色々苦労してるけどな。
良くも悪くも人を疑わない真っ直ぐな心しとる。あとは情に厚いな。あいつに言われて道を正したって言う不良も少なくはないで。
ただ、一度信じると疑えない気質でなぁ。女は守る物やと思うてる。
面倒くさいけど、一番生徒会で単純な構造しとる奴やで。あとツンデレや」
覚えとる?と言われて、あの舌打ちを連発してくる赤キー君を思い浮かべる。あれが将来警察官になるのだと思うと笑うしかない。若さゆえの過ちってやつだろうか?
「彼はツンデレですか…。不良デレですか。あれですね、雨の中猫とか拾っちゃうタイプの男子ですね。凄いです、絶滅危惧種だと思ってました」
是非『べ、別にお前のためじゃないんだからな、ばか!』と言う台詞を言って欲しい。
まあ、正義感が強いのは良いことだと思う。彼が本物の正義を見失っていなければ、の話だけれど。
「次。犬だな、犬。
二年、桐生堅正、会計や。俺は勝手に犬ってあだ名をつけとる。
身長が馬鹿でかくて、ぼそぼそとしか話さん野郎だ。あいつもオジョーサマに首ったけやんなぁ。
昔色々あって、自分の意見を言うことというか、言葉を発することに抵抗を覚えてるようなんや。
これで一生懸命なおす努力しとったら、俺もここまで嫌いにはならへんのやけど。
こいつはな、兎に角芯が無い。言われたほうに、自分が受け入れられるほうへと流されてるだけや。だから「そのままでいいよ」って言う売り文句のオジョーサマにだけ懐いとる。
弱い、弱いなあ。…おっと、私情混ぜすぎたな、堪忍なぁ。
まあ、朔に手ぇ上げてたんは、実質会計と書記や。あとは知らん振りか高みの見物、またはきったない手で貶める、とかそんなもん」
先生は結構辛らつだった。進む意志のない奴に示す道はないってか。確かに先生も神様じゃないもんな。
「まあ、人は依存しなければ生きていけませんし、若さゆえと思えば」
「…婆くさいのぉ…」
「爺くさい、の間違いです。これでもアナタより年上なんですから」
真面目な顔でそう言えば、玖奈目さんはなんだか難しい顔をした。




