クラスメイト
「…盛大ですなぁ」
教室のドアを開けたら、水が降ってきました。おかしいな、局地的すぎる雨だな。なんて熱烈な出迎えなんだろう!皆ボクのこと好きすぎじゃないか!?
もちろん寧々さんの盗聴器から予想していたボクは、一度ドアを開けてそっとその場を離れたので、被害はなし。ただ悪戯にドア付近がびしょぬれになっただけだった。
さて、あの後どういう結論に至ったかというと、とりあえずホームルームはサボって一時間目から真面目に授業を受けることにした。ひと時も離れたくない!と叫ぶ寧々さんを説得し、前・寧々さんが設置した盗聴器により、ボクのクラスと寧々さんのクラスを特定して向かったのだ。こういう時は本当に役に立つ、寧々さんの盗聴技術。ちなみに、お嬢様と同じクラスでした。
で、教室に向かったらこうでな。
ボクが華麗に防いだことにクラス中はどよめく。ふっ……ボクがそう簡単に濡れると思ったか…?水も滴るいい男と言うが、そんな姿を見たらクラスの女性は皆ボクに惚れてしまうだろうからね…。
『おい……あの淫乱、なんかドヤ顔してっぞ…?』
『きっも!きっしょ!』
『畜生…俺が家から苦労してでかいバケツ持ってきたのに…!!』
『調子乗ってるよね…』
『マジ死ねよ!まなみんに数回も手上げるとか最低!』
…とりあえず、思った事を言おう。バケツもって来た人、ちゃんと考えてほしい。家から持ってこなくても普通にトイレとかにあるだろう、バケツくらい。お金持ちの方は頭が弱いのか?
あと前も言ったけど悪口は心を抉るからやめなさい!影で言いなさい!まったく、最近の若者は手法が雑すぎる。やるならもっと正々堂々、だけど卑怯にやりなさい。瞬間接着剤で椅子と机をくっつけるとか、教科書燃やすとか。それくらいやらないとボクの心は折れませんよ。
「…はぁ」
入り口にできてしまった水たまりをひょいっと飛び越え、寧々さんに教えてもらった自分の席に向かう。
「なんとまあテンプレな」
案の定、というかなんというか、机の上には高価そうな白磁の花瓶に挿した一輪の菊があった。机は落書きだらけで、何度も消された痕がある。
果たして前朔は、どんな思いをしながらこの塗り重ねられた悪意を消していたのだろう。無言で落書きを落としていく少女の背中を想うと、ぎゅっと胸の奥が痛んだ。
じっと机を見つめるボクを嘲笑うクラスメイトの腐った心に少し腹立ちながら、花瓶をロッカーの上に移す。支障はないから落書きはそのままでいいだろう。
そのあと椅子を引いて机の中を見ると、中には虫の死骸の山が。
「ぅわ、…うへぇ」
まずはこれを集め回った方々に同情する。死骸を求めて三千里なんて絶対に嫌だ。というよりも、彼らは死骸を追い求める時間があるほど暇なのか?
それからごめんなさい。ボク、こういうの全然大丈夫派なんだ。
掃除用具ロッカーに歩み寄ると、小さめのちりとりと箒を持って死骸を全て綺麗に回収した。亡骸をいたずらにもてあそんでしまって申し訳ない、と心の中で謝っておく。
『お、おい…なんだよあいつ』
『粛々と死骸を集めてるぞ…?』
『なんかいつもと違くない?』
『いつもはガン無視して去ってくよね…』
頑張ってたんだなぁ、過去のボク。担任はこういうのを見て何にも思わないのだろうか。それとも、生贄として見過ごしてるのだろうか。
手元に集まった虫の死骸を見つめて、とある下衆な考えが頭の奥に思いつく。
やはり、彼らには命の重みを味わってもらうべきだ。いやね、さっきからコソコソ煩い奴らがムカついたわけじゃないよ?そう言う私的な感情じゃなくて、一般論的な常識をね?学ぶ機会を与えようとね?
ちりとり(死骸トッピング)を持って、遠巻きにボクを見るクラスメイトにずんずんと近づいていく。
「ほれほれほれ、虫の死骸ですよ!?誰かさんが必死こいて探した死骸ですよ?!」
ただ、ちょっと好奇心が疼いただけだから。ちょっと、ニヤニヤしながらちりとり持ってクラスメイト追い掛け回しただけだから。
「「「「「「「「「「「うわぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!!!!」」」」」」」」」」」
校舎に予鈴と共に僕のクラスから大きな絶叫が響き渡った。