無表情なあの子
ただいま、ボクは。
敵意ビンビンの生徒会一行と共に、でっかい映画館にやってきています。
金持ちと言えども学生は学生、普通の映画館に足を運んだようだ。庶民には見慣れたお供のジャンクフードたちが、カウンターで美味しそうな匂いを漂わせて売られている。
「寧々さん、ポップコーン食べたいんですけど、半分こしません?」
「もちろんだよ!いつも通り塩だよね?」
「はい」
買ってくるね、と満面の笑みで言われ、断る前に寧々さんは売り場へと走り去っていった。その姿を女性が頬を染めながら見つめる。ついでに店員さんも頬を染めてぽけっとしながらオーダーをとっていた。
ッチ、世の中顔かよ。
「なんでここに人形がいんだよ、おい?」
赤キー君が吊り上がった目をより一層鋭くして舌打ちをする。
「いや、言われましても…」
そこで会長とワンコと、それから新キャラの保険医・キラキラホストさんといちゃこらしてるお嬢様のせいなんですけどねぇ。
「ホラ、お嬢様とられちゃいますよ。いけっ」
「人を犬みたいに言うんじゃねえよ!言われなくてもいくっつの」
ケ、と吐き捨ててそっちに走っていく赤キー君。なんかやたら吠える犬見てるみたいだ…。恋は盲目って言葉は本当に彼らの為にあるようだった。
「先輩も大変ですね」
ぼーっとイケメンたちを見つめていると、いつの間にか隣に立っていた眼鏡君が同情のこもった声で話しかけてきた。
「あ、えっと……。真田君、でしたっけ」
「知ってたんですか。興味ないのかと思ってました」
眼鏡君もとい真田君が、少しだけ驚いた顔をした。無表情だけど。そんなひどい女だと思ってたのか。
「どんな奴だと思ってたんですか」
「世間に興味のないかた…?」
「すごい印象ですね…」
ボクは仙人か何かか。
「大変ですね、と言うのは…」
「言葉の通りです。あの人たちに振り回されて大変でしょう」
そうため息をつく真田君の声もまた、苦労に満ちていた。彼はお嬢様に毒されているわけではないようだ。
「朔君、買ってきたよー。なんか色々おまけされて…ってあれ?……そいつ、何?」
ポップコーンやらドリンクやらを抱えた寧々さんがやってくる。明らかに前半と後半の声色が違った。大きくて黒い瞳は完全に真田君をロックオンしている。
「ああ、いえ。俺はただ世話話をしていただけなので悪しからず」
すぐさま危険を感じ取ったらしい真田君は、無表情のまま手を振って無実を主張する。空気の読める男だ。
「それに、番犬付きに手を出すほど愚かでもないので」
ついでにいうと観察眼も鋭いらしい。会って十数分でボクらの関係を見抜いたようだ。
寧々さんもこの先がいはないと判断したのか、またいつもの爽やかな笑顔に戻ってポップコーンを差し出した。
「はい!お姉さんたちからいろいろ貰ったんだ」
「お金、あとで払いますね。というかいいんでしょうか、こんなに貰ってしまって」
店長あたりに怒られないだろうか。と言うより、二人でこの量は食べきれないだろう。
「真田君、よければご一緒にどうですか?」
「えっ……」
「ボクらだと食べきれませんので。大丈夫です、寧々さんはボクが抑えてますから」
ちらりと寧々さんを見ながら、やっぱり表情はあまり変えないで「…いただきます」と小さく頭を下げた。素直でよろしい。
ぽりぽりという食感としょっぱいくらいの塩が美味しい。久々に食べたけど随分美味しくなっているものだ。
やはりお金持ちはこういったジャンクフードを嫌うのかな、とポップコーン(キャラメル味)を口にいれた真田君を観察すると。
「!!!」
「……おおう」
カッ!と開眼し、そのまま高速でポップコーン(キャラメル味)を口に入れていく。流石に上品な食べ方だが早い。噛み砕いては口にいれを無表情のまま繰り返している。
どうやらお気に召したようだ。リスのごとくその頬を膨らませる姿はかわいい。
「あっ…。すみません、その、あの…」
「よければどうぞ。ボクも寧々さんも塩派なので」
「朔君あーん」
「はいはい」
甘いものが好きなのかな?頬を少し緩ませて食べる姿は歳相応だった。
「おーい三人とも、行くぞー」
和樹君の声にそちらに目をむければ、もう生徒会一行はチケットを持って歩き始めていた。ボクらの分のチケットは和樹君が買ってくれたらしい。




