放課後ムービータイム
放課後。
さようならの挨拶をした途端に教室へ飛び込みボクのもとへひざまずいたのはもちろん寧々さん。この間2秒である。
「朔君朔君やっと邪魔ものがなくなってすっきりしたね!これからは二人だけの時間だよ、楽しいことしよう、朔君の好きなことしよう!でも俺デートとかしてみたいなぁ、あ、でも大丈夫、ちゃんと朔君の言うこと聞くからね!それからそれから」
「はい、一旦落ち付きましょうしんこきゅー」
ボクが寧々さんの手をとって立ち上がらせると、すーはーと素直に深呼吸してから、無言でボクのカバンを手に取った。
「ああ、大丈夫ですよ。自分で持てます。それに重いでしょう?」
「俺が持ちたいの!ね、いいでしょ?」
ボクより幾分か背が高いため、見下ろされる形で頭を撫でられた。なんだかドンドンイケメンになっていくぞ。悪い虫がつかないか心配になってきた…。
それを見ていたクラスメイトに動揺の波紋はじわじわと広がっていく。まあそりゃそうだろうな。
「どういうことだ…?」
「今日の寧々様、どうかしたのかしら…」
「何で悪女と寧々が仲よさげにしてるんだ……?」
どよどよとどよめく民衆。
誰も見てないことをいいことに、チッと舌打ちをし顔を歪めるお嬢様。
「ああ、でも。今日は護衛があるとかなんとか、和樹君言ってませんでした?」
「…絶対行きたくない」
「まあまあそう言わずに。ここで敵情視察とでもいきましょう」
それでもむううとほっぺを膨らませて、不機嫌そうにボクを見下ろすので。
「…はあ、ではこうしましょう。キミが今日我慢してくれたら、今週末にボクとデートを」「我慢します!!!」
即答である。よくもまあ、この何もない男とデートして嬉しいものか。本当、愛されてるなぁということをしみじみ思い、いちゃいちゃしてると。
「愛美は居るかな?」
「……早く、会いたい」
ドアががらりと開けられ、生徒会一行がきらびやかオーラを放ちそこに立っていた。
教室内がピンク色に染まる。黄色い悲鳴が狭い部屋の中にこだました。
まあまあ、全員集合とはお暇な人たちですこと。
「月形先輩…!どうしてこちらに?」
「藜でいい、って言ってるよね、愛美」
ぱたぱたと天使兼悪女のお嬢様が、ドアに駆け寄って生徒会たちと会話し始める。それに当然といった風に赤キーくんもついていく。
確かにこうやって、性格などの部分を差し引いて見てみると、美男美女の集団だ。いくら生徒会の誰かを好きだとしても、お嬢様が敵だと知ったら女性はきっと諦めがつくだろう。それほどまでに美しく清らかな少女なのだ。何がどうなってあの湾曲した正確になったのかは知らないが。
人目もはばからずいちゃつく生徒会一行に、前の席のメガネ巨乳美人さんが顔をしかめて、
「うるっさ……」
とつぶやき席を立った。帰るらしい。
「あ、さよなら」
ボクが声をかけると、振り返った彼女は驚いたように眉を上げ、そして小さな声で「サヨナラ」と挨拶してくれた。
おおおおお!!美人と会話!した!!はじめてまともな会話を異性(見た目は同性)とできた!!
「何あの女」
「前の席のお方です。どうやら中立派らしいですよぉー」
初めてといってもいい異性(体面的には同姓だが)との比較的仲のいい交流にうれしさを爆発させていると。
「妬けちゃうぜ、伊都歌ちゃん。サッちゃんにこんなに喜ばれるとかー」
「殺ス」
なぜかそれを見ていた二人がちょっと怖くなる。どうしたの?!
「寧々君!和樹君!ついてきてもらってもいかなぁ?」
とてとてとかわいらしい足取りで寧々さんと和樹君の前まで来たお嬢様は、申し訳なさそうに形の良い眉をハの字にして、こてんと首を傾けて上目づかいで(羨ましい)お願いしていた。なにあれ天使。ちなみにボクのことはアウトオブ眼中だった。ゴミは視界にいれないってか。
「……ッチ」
「まあ、仕事ダシ。ツイテイキマスヨオジョーサマ」
うんざりといった風な顔で和樹君が距離を置いてぺこりと頭を下げる。隠し切れない嫌悪感が片言になって表れてるぜ!
「とーぜんサッちゃんも行くよな?!な?」
がばっと手のひらを握って『逃さねーぜ』とでも言いそうなくらい必死の彼の説得に、首を横に振ることもできずに。
結局ボクは、生徒会一行と楽しくもない映画鑑賞へとでかけることになった。寝るだろうな、多分。




