レッツゴー食堂
やけにノリのいいクラスメイツと決死の攻防戦をしつつ、午前の授業が終了した。ちなみに授業は全くと言って分からなかった。仕方ない。
ボクの周りには、攻撃を仕掛けてきて逆にボクの毒牙に掛かった哀れなクラスメイツの死屍累々が折り重なっている。
丁度さっき鐘が鳴った瞬間に、男子諸君がいっせいに飛び掛ってきたので咄嗟にしゃがんで事なきを得た。男子諸君は頭同士ごっちんこをしていたが。とても痛そうだったが。まあざまぁってことで。
「朔君、ごはん食べよ!」
授業終了の合図の鐘と共にボクの教室に飛び込んでくる寧々さんにももう慣れた。
あれ?前朔と同じ扱いしろって言ったのになぁ?寧々さんは時々頭いいのに馬鹿なときがある。ま、そんなところも可愛いんですけどね!
「?朔君?」
こてんと首をかしげて遠くを見るボクの顔を覗きこむイケメン。
「「「「「「「「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」」」」
はいイケメンパワーいただきましたー。
キョトンとした顔が眩しすぎます。周りの女子生徒の皆さんは絶叫して倒れてます。無自覚って怖い。
「寧々様が微笑まれているわ!!!」
「何故?!いつもの無愛想なお顔も素敵だけどあの笑顔も……ときめきがとまらない!」
「「「「1000%ラヴ!!!」」」」
あらやだノリいい。なんなんですかこの学校、ボンボン校ですよね?なんなんでしょうね、このノリ。俗世に塗れすぎじゃないでしょうか。
「しかもあの氷雨に微笑むなんてッ………」
「ムカツク、死ねばいいのにッ…!」
「愛美ちゃんが居るのに平然と教室に居座んなっつー話」
「ああ、愛美様と寧々様の微笑ましい交友が見られるのね…」
「田中さぁぁぁあぁぁぁん!!今気を失ったら妖精達のお戯れを見れなくってよ!!」
ボクへの憎悪が1000%ラヴ☆
「とりあえず、ここじゃゆっくり食べれそうも無いので移動しましょうか。こら、威嚇しない」
ぐるぐる、と喉を鳴らして女子生徒たちを見る寧々さんの首根っこを掴み、廊下へ引きずり出そうとしたとき。
「よーぉ、サッちゃん!昼飯いこーぜー」
廊下からひょっこりと顔を出した、いつぞやのハイスペック臭の漂う爽やか君がこちらへ声をかけていた。確か、朝霧和樹君。ボクを男と思っているアホの子だ。
「あっれー……?サッちゃんと寧々が一緒にいるのって珍しいなー」
きゃっきゃと手を振る麗しい女性陣に、爽やかスマイルで手を振り返しながら呟く和樹君。サービス精神旺盛なようで、キラキラスマイルをふりまいてこちらへ歩いてくる。
ほら早速怪しまれてるじゃないですかー。
「ま、いいや。食堂行くぞ!今日こそはカツ丼を俺の胃袋に収めるつもりだから!!急がないと売り切れちゃうぜ~」
そういってボクの腕を引っ張り、明るい笑顔で廊下へ歩き出そうとする和樹君。
「はぁ゛??」
を、人を殺しそうな目で睨む寧々さん。
寧々さん、顔ヤヴァイです。イケメンとしてあるまじき顔をしています。
瞳孔が開いた真っ黒な目は焦点が合わず、笑顔のまま和樹君の手首をギリギリと握っている。目が笑ってない。
和樹君の骨、きしんでる。ギシギシいうとる。
「何でお前なんかが朔君の腕を掴んでいて一緒に昼食をとって同じ空気を吸おうとなんておこがましいこと考えてるの?朔君嫌がってるじゃん離せよ綺麗な肌に痕がつくだろカスが朔君に触れるな近寄るな喋りかけr」「寧々さん、抑えて抑えて」
ヤンデレゲージが今朝からたまりまくっているようで、ノンストップで黒い笑顔を携えたまま和樹君を威嚇した。
会話が聞こえたクラスメイツたちが徐々にざわつき始める。
「寧々様が氷雨朔を庇ってる…?」
「どういうこと…?」
「………っち…!」
どうにもこの空気で、こちらに割りいれなくなったお嬢様が小さく舌打ちをする。ボクを睨む顔は般若のようだ。赤キー君は気づいていないようだが、ボクへの殺意が隠しきれていない。
おお、こわ。ボクが憎いのか、それとも和樹君や寧々さんと話すボクが憎いのか。お嬢様の心理は測りかねない。
「とりあえず、食堂行きましょうか。ボクはお腹がすきました」
第一回、『ヤンデレVS爽やか ~言葉で勝つのはどちらか~』が開催される予感がした。




