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精神年齢六十五歳のボク♂が悪女さんに転生したようです。  作者: Rin
第一章 突発的スタートダッシュ
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作戦会議 ~in 空き教室~




「気に喰わない」

ボクの頭にごつごつとした指を這わせ、ぼそりと寧々さんは呟く。椅子に座った寧々さんのお腹に背を預けて座るという、リア充感が駄々漏れの状態である。

「何がですか?」

「あの男の臭いがする」

ギリッと歯軋りをして、ボクの肩に細い顎を乗せる寧々さんの声は冷ややかだ。心なしかボクの腹にまわった逞しい腕にも、ぎゅっと力がこもっている。痛い痛い、内臓出るって。

「臭いって……鼻がいいんですね、全然分からないですけど」

くんくん、と自分の制服の袖の匂いをかいで見る。確かに接触は多かった気もするが、この短時間で他人の匂いがそこまで移るとは思えない。そもそも彼は、煙草を吸っているのにヤニ臭くはなかったんだよなぁ…。むしろいい匂いさえした。

「グッチのフローラバイグッチガーデングラマスマグノリア。それと少しの煙草の臭い。朔君にこんな匂いつけるとか何様」

 よくもまあ星の数ほどある香水の中から言い当てるものだ。彼女…いや彼の知識量には毎度のこと乍ら脱帽する。

呻くように呟いた後、形の良い歯をすり合わせてギリギリと鳴らすと、寧々さんは「ちょっと我慢しててね」と呟いて。

「ちゅっ」

ボクの髪に、小さく口づけをした。

「?!」

「ごめんね、うざいかもだけど消毒だから。動かないで」

腹にまわった手により一層力が籠められ、ボクが逃げないように固定される。髪越しに伝わる彼の吐息に、柄にもなく慌ててしまった。

「あ、うぁ、……ぁぁぁ」

 ボクが恥ずかしさのあまり顔を覆っている間も、寧々さんは許してくれずにボクの髪や項にキスの雨を降らしていく。ちゅっという軽いリップ音と、触れるだけの体温が毒だ。これなんてギャルゲーですか!?

 生徒たちのざわめきをバックに、リップ音とボクの奇声だけが響く。

「ね、ねねねねねさにゅっ!」

「ごめんね、ごめん」

怖かったんだ、と小さく零してボクの貧相な肩を強く抱きしめる。何度もごめんと謝るその声は震えていた。

ああ、悪いことをしてしまった。(心は)女性に心配をかけるなんて(心は)男として恥ずべきことだ。

「…ボクはどこにも行きませんし、ずっとキミの隣に居ます。そうですね。このままでいいですから、ボクの質問に答えてください」

「ん」

こくん、と大きな幼児のように頷く寧々さん。年甲斐もなく可愛いなぁと思うのは、やはり恋は盲目と言うものだろうか。

「ええと。ボクと寧々さんがお借りしているこの身体の元の方々、どうなったんですか?」

「前の寧々と朔君?」

「はい。犬猿の仲だった寧々&朔」

ボクのダークブラウンの髪を一房掬っては、ちゅっと口付ける寧々さん。

ああああああああ恥ずか死ぬううううううううううう!!

「……。あのね。この世界の柚月寧々と氷雨朔はね、今日の朝に死んだんだ。…ううん、死ぬはずだった、って感じかな?

寧々がヤンデレなのは知ってるよね?

今日の朝に朔ちゃんは寧々に登校中に呼び止められて、口論になって、朔ちゃんが飛び出しちゃって。

大型トラックがタイミング悪く来ちゃって、寧々が引っ張って抱きしめたんだけど、二人とも打ち所が悪くて即死しちゃったんだ、ってクソジジ…神様が。

…朔ちゃんは、私達が居たほうの世界へ転生したとかなんとか言ってたよ」

だから心配しないで、朔君は他人のことばっかり心配しすぎだよ、と言ってボクの身体を放した。

そうか…。しかし、なんだか腑に落ちない。前寧々さんは死ぬほど前朔を嫌っていたはずだ。それなのに、咄嗟とはいえ庇うだろうか。少なくとも大嫌いな人の為に命を投げうつような行為をするだろうか。少なくともボクはしないだろう。

ではなぜ、と考える。もしかしたら情報に誤差があるかもしれない。本当は仲が良かったのでは…?

まあ、それはおいおい。あとに回しておこう。

「そう、ですか…。じゃあ今後の方針でも決めましょうか」

 ボクと寧々さんが、安全に幸せに青春できるように。

「まずは、そうですね。お嬢様とその取り巻き、どうします?」

「ぶっ潰す!!」

「はいですよねー。どんな感じでですか?」

「うーんと、裏の顔を着実に集めて、今年の三年の卒業式に全部バラすの!その前に徐々に取り巻き共を丸め込んで、惨めな思いを晒させたい。朔君を虐めたやつには死よりも凄惨な鉄槌を」

寧々さん、目がマジです。本気と書いてマジと読みます。

「では、まず。寧々さんは、これまで通り、ボクを前朔と同じ扱いをしてください。つまり、冷たくあしらえと言うことです」

「?!な、なんで?!朔君とラヴラヴ学園生活を楽しみたいのに!?」

ガーンッと今にも効果音が響きそうな悲壮な顔をする寧々さん。そりゃあそうですよね、ボクも本当は寧々さんとラブラブ♡スクールライフ楽しみたいです。でも、寧々さんが急に掌クルーでボクにべったりになったとしよう。ボクどころか寧々さんにまで被害がいきかねない。彼女が傷付くことだけは絶対に在ってはならない。今世こそ、護ると決めたのだ。

「それはボクもですが…。やはり急に態度が変わると疑われますしね。そのかわり、あれです。ら、らいん?とか言うやつに入ってこまめに連絡しますし、土日はキミの自由にしていいです。その代わり、ボクとはなるべく関わらず、情報集めに徹してください。いいですか?」

「………分か、った。俺、我慢するよ」

なんだか寧々さんが自分のことを「俺」と呼ぶことに抵抗が無いようでボクは不安。

「じゃ、次の授業から頑張りますか。行きましょう」

「ん」

ちょっとだけ大きくなった彼の手を取って、空き教室から足を踏み出した。






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