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新八戸領 その三

◆◆◆


「ハッハッハなんとか生き残ったな。」


爺 「若、今日は新井田城へ向かいますので、支度の方を。」


「爺、朝ごはんは?おーい。」


◆◆◆


新井田城


この城に来るのも久しぶりだな、何だかんだで父上にはお世話に成りっぱなしな訳だし、遠野に移ってしまわれるとなると、おちおち八戸を留守にするわけにもいかなくなるな。


◆◆◆


「陸前への遠征ご苦労だった、私が八戸領を預かるのもコレで最期になった訳だ。」


「はい、遠征の度に領の内政を任せて申し訳なく思っています。」


「それは、それほど気にしなくても良いんだが、お前は内政に外交に戦にと代わる者がいないほどの才を見せている、私が遠野に移ったら誰が留守を守るのか心配でな。」


それなのよね、俺の体は一つキリだしね、俺の代わりが出来るのはヤンデレ位のもんだしな、ハーまじで有能な文官が欲しいんだよね出来れば石田三成みたいな奴を五人ばかし。


「さて政栄、独り立ちするお前に渡しておく物がある、物は既に根城の空き倉庫に運んで置いた、これがそれらの目録だ。」


「はあ、では失礼して………塩とか乾物はともかくこの金額、真ですか?」


「ああ、五年前から少しづつのつもりが、二年位前から異常な程貯まってきてな、実は田中与四郎殿の所にもこれと同じだけ銭が貯まっている。」


「あー薄々とは気付いてましたがまさかこれ程とは。」


「いずれ独り立ちする時にまとめて渡そうと思っていたのだが、まあある意味目論見は成功したのだがな。」


「最初の塩で失敗してますからな、私は商売には向いて無いのでしょう、それに田中殿がいなければこれ程の儲けはでてはおりますまい。」


まあ、あの人的交流網が無ければ商品を捌くのは不可能だし、斎藤衆は俺より親父の命令を優先するからね。

イマイチこの時代の価値観が分からない時があるからな、餅は餅屋、出来る奴に任せるのが一番、俺がやるよりもいい結果を産むはず。


「客観的に自分が見えているなら大丈夫だろう、田中殿には私が頼んだのだ恨まぬようにな。」


「はい、分かっております。」


◆◆◆


「政栄には爺と呼ばれているんだったな、お前に守り役を任せてよかった。」


「いえ、勿体ない私には過ぎたる事です。」


「始めは身内の刺客から政栄を護る為だったのだがな、今や他の家から狙われているか。」


「あらゆる所から狙われてますからな、護衛も大変です。」


「すまぬが政栄を頼んだぞ、何だかんだ言ってもまだまだ甘い所があるからな。」


「はっ!この命に替えましても必ず。」


◆◆◆


「兄上お土産は?」


「政盛か……大きくなったな、縦にも横にも。」


まじで七つでこれだからな、まさにじじいの隔世遺伝だな。


「お土産一式は預けてあるから後で女中から受け取るといい。」


「ありがとう。兄上は泊まっていくの?」


「いや、仕事が忙しいからな視察がてら今から港に行くところだ。」


「ふーん、また何か作るの?」


「そうだなあ、実のところ急ぎ開発しなければならない物は特に予定してないしな、高炉も計画表通りの進行具合だし。船も時間をかけてジックリやってるし、冬前にクジラを捕りたかった位かな。」


「クジラ?」


「政盛はクジラを見たことが無かったか、あれの肉は旨いらしいから穫れたら食べさせてやるからな。」


「分かった、待ってるね。じゃあねー。」


ふう、デカくなったな正直羨ましいね、確実に体格は俺を超えるだろうな、まあ新田家は安泰ってところかな。

怖い怖い、もし俺がなにもしてなかったら確実に廃嫡だな。


南部の良血である晴継くんが生まれたら、政盛の成長記録は役に立つかな?出来ればもう二、三人データを取りたかったところなんだがな。

ただ如何しても血の濃い部分は否定出来ないから、遺伝的な病気だと手の打ちようが無いんだよな。

なんとか、後継者争いだけは避けたいんだが、俺が介入し過ぎて明らかに九戸の勢力が増大してるしなー。

まあ、なるようにしかならないか、中立姿勢は最悪の結果を産むだけだし、結局来年あたり元服する信直の器量次第なんだよね。

器量次第だと最悪の選択肢もでてくるんだろうしなー。

桑原桑原、十年後、天文の乱の数倍の規模の後継者争いとか冗談じゃないぜ。


◆◆◆


港区画 


「棟梁、クジラ捕獲用の、双胴船はこれか。」


「ああ、まだ接合部とクジラを引き上げる部分、要するに鉄骨がはいって来ないからな、完成までは一息で止まってるな。」


「バリスタは合金炉に送ってH鋼材に加工してるから、もう少しあれば届く予定、引き上げる部分に関しては銅を混ぜた腐食耐性のある鋼材で先に作ってるから、もう完成してるかな?結構重いから運ぶのも一苦労だな。」


「そうか、いよいよ完成だな、まあ接合してから浮力を計ったりしないといかんから、造船所を出るのは来年以降かな。」


「まあ、急がないから安全第一で頼むよ、工員が増えれば事故も増えるものだし、講習は何度も徹底してやらせるからよろしくね。」


「まあ、あんな工具類使ったことのある奴がそもそも居るわけ無いからな、基本の一から教えんと、まあ教官役に向いてる奴もその内でてくるだろ。」


「八戸領も拡大するから、今までより人の補充はし易くなるんだが、その分事故も増えるだろうからな防災教育は徹底してやらせよう。」


「南部丸を造り始めた頃が懐かしいよ、人もいまの十分の一以下だったからな。」


「あースマン、最終的にいまの四倍位の人数になる予定だから、覚悟しておいてくれ。」


「ヤレヤレ、まあこの楽しさを知っちまうとな、誰も辞めようとは思わないだろ。」


「なにあと十年もすれば、自分達で船を設計したいとか言い出すから、それまでは頼んだよ。」


「本当、人使いが荒い奴だよ全く。」


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