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一関砦攻略戦 その三

◆◆◆


破城槌


一関砦 正門前


怒号が飛び交う正門前では盾兵が破城槌と工兵を囲んで弓矢から体を張り守っている 、工兵は正門と地面に破城槌をアンカーなどで固定する作業に入っていた。


【道盛】 「破城槌を守るんだ!盾兵の影から矢や投石で応戦しろ!!」


正門裏 三ノ丸


百々隆元…… 二ノ丸からの矢が止まっただと!?矢が尽きる訳が……落ち着け、兵の前で取り乱すな、二ノ丸は柏山殿が指揮しているはず、南部を恨んでいるあの御仁が裏切るわけが、だとすると二ノ丸が落ちた?分からんどうなってるんだ!


【隆元】 「伝令!二ノ丸で何が起きたか聞いてこい!」


【伝令】 「はっ!直ちに!」


正門前


【八戸工兵】 「破城槌、アンカーよし!、正門に固定よし!、安全装置解除よし!発破準備よし!」


正門に破城槌の先端部分を楔を打ち込んで固定し、本体部分は伸びた固定用のアンカーをハンマーで地面に打ち込んで固定している。

破城槌は地面と門に固定することで爆発で起きる圧力が正門に伝わる仕組みになっている。

政栄にとって残念だったのは本来の通電発破ではなく、黒色火薬の導火線式に変更している所だ(本人談)。


【道盛】 「点火したら全員退避だぞ!」


【工兵】 「点火準備よし!」


【道盛】 「点火!!退避!!」


正門前にいた戸沢八戸兵が一斉に正門付近から離れる。


チチ……ドゴーーーーーン!!!


ガガギィーーゴオオォーーーーーン!!


大音量と共に正門が周りの壁と共に持ち上がり、ゆっくりと千切れるような音を立てて三ノ丸に倒れた!


正門が周りの壁と持ち上がり倒れてくる!

あまりのことに、硬直して動けなくなる三ノ丸の兵達。


【道盛】 「今だ!全員突撃!!捕縛しろ!」


【信浄】 「遅れるな、捕縛しろ!」


いつの間にか二ノ丸から降りてきて三ノ丸の門付近にいた大浦兵も捕縛して回っている。

取り合いというかなんというか瞬く間に三ノ丸の兵を捕縛してしまった。


【政栄】 「酷え。……こんなことなら訓練で慣らすんじゃなかったかな。」


◆◆◆


【政栄】 「信浄殿、本丸の門は?」


【信浄】 「二ノ丸と一ノ丸は聞かないのですか?」


【政栄】 「分かるからいい。」


【信浄】 「確保してあります。」


【政栄】 「降伏勧告の使者を出すからよろ!……んで何人?」


【信浄】 「大将格が二人の兵が二千程でしめて二千百石程です。」


【道盛】 「八戸兵と合わせて七百石程です。」


【政栄】 「もう単位が人ですらないのか……じゃあ残りは三百程か。」


【道盛】 「攻めますか?」


【政栄】 「まだ築館宿が残ってるからね、交渉で本丸を明け渡してもらうから、よろ!」


【道盛】【信浄】「「残念ですな。」」


【爺】 「真っ赤に染まりましたな。」


【政栄】 「ハッハッハ!うむ!道盛殿、使者よろしくね。」


【道盛】 「お任せあれ。」


◆◆◆


一関砦 本丸


葛西晴信…… 既に本丸の門まで落とされているとは、どこからともなく敵兵が現れたとか……、誰かの手引きでもあったのか?

門付近を制圧されたが攻めてくる気配はない、というかなんだこの殺気の無さは。


【伝令】 「晴信様、敵が使者を送ってきました。」


【晴信】 「分かった、会おう広間に通してくれ。」


晴信…… 覚悟は決まっているが、話を聞く位はいいだろう、南部は捕虜を殺したり、非道を行う連中ではないからな。


◆◆◆


一関砦 本丸 広間


【戸沢道盛】 「交渉の使者の戸沢道盛です。」


【葛西晴信】 「葛西晴信だ、交渉?降伏ではないのか?既に本丸の門まで制圧して置いて、今更交渉とは。」


【道盛】 「こちらの希望は砦の引き渡し、条件は将兵全員の解放、少し遅れますが大崎や援軍で入っていた将兵も順次解放を約束しましょう。理由は取り調べなどを行って情報収集する予定ですから。」


【晴信】 「断ったら?」


【道盛】 「攻め落とすだけです、本丸は焼け落ちる、我々は再建するのに手間と費用がかかる、そんな感じですかな。」


晴信…… 断る理由はないな、命が助かるだけでも拾い物だ、直接落とされたのならともかく、本丸を維持して交渉による開城……まあ実質降伏みたいな物だがこの違いは大きい。


【晴信】 「分かった。砦の引き渡しを受け入れよう。」


刀を外し、頭を下げる葛西晴信。


【道盛】 「では、葛西殿はこちらへ、政栄殿から細かい説明があるそうです。」


【葛西晴信】 「……交渉に来たから戸沢殿が大将でないのは分かっていたが、大将はまさか……」


【道盛】 「…………」


晴信…… やはりあの黒坊主が黒幕か九戸の副将だったりあえて表舞台に出ないつもりなのか?

一昨年一度会ったが、あの時はただの小坊主だった……ただの坊主がこれだけの事を出来る訳がない、俺の目が曇っていたのか。

どれ本当の八戸政栄とはどんな人物か曇りの取れた目で見るとしようか。


【晴信】 「分かった、行こうか戸沢殿。」


◆◆◆


一関砦での戦いは、両軍合わせて死者が百人に満たなかったため、葛西晴信が裏切った、柏山明吉が敵兵を引き込んだなどの噂が巷に広がることとなった。

噂を裏づけるかのように、捕縛された葛西兵、葛西晴信、柏山明吉はすぐに解放された。

百々隆元と数名の大崎兵は一週間程監禁されてから、全員解放の約束通り戦の終わりとともに解放された。


◆◆◆


一関砦 一ノ丸


降伏して、武装解除した兵士が集められていた。


【小笠原信浄】 「では、これより取り調べを行う。おっとそうだった葛西家とは約条があるから葛西兵はすぐに解放するので申告するように、大崎兵などはきつい取り調べを行うからそのつもりでいろ!では一人ずつ連れていけ。」


八戸兵が駈け寄り一人ずつ五人程をつれていく。


とある一室


バシ!バシ!、ムチの音が外にまで漏れている。


【草】 「痛い!たすけてくれーわあいたいー。」


【爺】小声「もう少し、真剣に声を上げなさい、棒読みですよ。」


ムチを何度も何度も岩に叩きつける。


【草】 「ギャー、たすけてくれー!!」


爺…… まあ、真面目にやれといってもこれでは仕方有りませんか。ノリノリでやってるほうがヘンなのですし。


とある一室


【?】 「うわっハッハッハ、この○○○め、うぜえんだよ!ハッハッハ○○○様とおよぴ。」


誰かストレスが溜まっていた人がいたようです。


【草】 「ちょっと、あたってる、そこの人止めて止めて!!」


【?】 「ウワッハッハッハ!!てえい!」


【草】 「ギャー!!」


【斎藤衆】 「○○様、当たってます、止めて下さい。」


【?】 「てえい!」


【斎藤衆】 「ギャー!!」


とある一室


【八戸兵】 「お前は葛西兵か?」


【大崎兵】 「違います、葛西家の足軽です。」


【八戸兵】 「そうか、葛西家とは約条があるから解放する、二ノ丸で旅費と炊き出しを貰ってから村へ帰るように。」


【大崎兵】 「ハイ!ありがとうございます。」


【八戸兵】 「よし、次!」


一人の兵士が連れてこられる。


【八戸兵】 「お前は葛西兵か?」


【大崎兵】 「あっしは、古川の生まれでただの百姓です。たすけてくだせえ。」


【八戸兵】 「お前は葛西晴信の指揮で戦っていたのか?」


【大崎兵】 「は、はいそうでごぜえますが。」


【八戸兵】 「ならば葛西兵だな、葛西家とは約条があるから解放する、二ノ丸で旅費と炊き出しを受け取って村へ帰るように。」


【大崎兵】 「あ、ありがとうごぜえます。」


八戸兵…… 大崎兵だと言っちゃう奴が何故かいるんだよな、バカ正直というか、なんというか。


【八戸兵】 「よし!次!」


◆◆◆


一関砦 本丸の館の一室


【八戸政栄】 「お待たせしたようですね、申し訳ない葛西殿、八戸政栄でございます。」


【葛西晴信】 「葛西晴信です、久しぶりですね八戸殿。」


【政栄】 「まずは、交渉の受入ありがとうございます、約束通り砦の兵士は順次解放していますので。」


【晴信】 「そうですか、さっそく約束を実行していただきありがたく、それで私に話しとは何ですか。」


【政栄】 「今回私は、晴政様より和平交渉も任されておりまして、単刀直入に申しますが南部家と何年か不戦の取り決めをしませんか。」


【晴信】 「……やはり噂を仕掛けたのは貴方でしたか、残念ながら私は次男で葛西家の家督を次いでいませんし、今回の敗戦です、家内の発言力も落ちてますよ。」


【政栄】 「謙遜はいけませんね、家督を次いだ兄は病弱で戦は貴方がとり仕切っているのでしょう、この戦の後、南部家を敵に回して葛西家は生き残っていけますかな?」


晴信…… 逃げ道をふさいでおいてよく言うよ。


【晴信】 「伊達を始めとして各家に、葛西家が裏切ったと認識させるのでしょう、この先援軍には応じますまいな。」


【政栄】 「晴信殿は不戦の期間を利用して家内をまとめればいい、その後南部家を敵にするのも、味方するのもそれは自由です。」


晴信…… ただの脅しではなく私の利益もあると、たしかに砦の主将をやっていたのも家内の排斥派のせいだからな、南部家の威を借りて家内をまとめる時間もあるか。


【晴信】 「……いつから、この計画を練っていましたか?」


【政栄】 「いずれは伊達を中心とした連合を相手にすることはわかってましたからね、かなり前から調べてましたよ、大崎との仲の悪さ、病弱な当主、砦の主将だったのはかなり不都合でしたが、でなければもっと早く接触していたんですがね。」


晴信…… なるほどすべて手の平の上ですか、この歳でたいしたものだ。

                            

【晴信】 「選択の余地は無いですな。」


【政栄】 「勝手ながら、恨んでくれて構いませんよ。」


【晴信】 「恨む?」


葛西晴信がニヤリと笑い話しだす。


【晴信】 「誤解しておられる、私はこんな機会を得られて感謝していますよ。私とてこの戦の時代に生きる者、平和な時代ならもっと不遇を託っていたでしょうからね、それに良い知己を得ましたし。」


政栄…… 誠実そうに見えてまさかのタヌキ(策士)かよ、まあ提案に乗ってくれるのはありがたいんだが。


【政栄】 「利用するのはお互い様ということでよろしいかな?」


【晴信】 「今は水面下で戦が一段落したら正式に、それまでに葛西家の意見をまとめる(排斥派を粛清)としましょう。南部家は葛西家に攻め込む事はないのでしょう。」


【政栄】 「誓って、葛西家の城は攻めないよう念を押してあります。」


【晴信】 「それで十分です、葛西晴信の名前で南部家からの不戦の取り決めを受入ましょう。」


◆◆◆










破城槌はとある土木工事用の器具が原型モデルとなっています。火薬ではなく、圧縮空気だけどね。

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