敗戦
花巻砦
夜になったが、かがり火を焚き、煌煌と夜空を照らしている、敗残兵の収容がまだまだ続くだろうから。
砦の中は負傷者であふれ返っている、渡河途中を伏兵されたため渡河していた四千の兵の約三千が戦死、残りのほとんどが負傷者となってしまった。
渡河前の兵は花巻の渡しまで移動させてから、あらためて渡河させ、負傷者や遺体の収容を行わせている、早くても二日はかかるだろう。
怪我の功名というか上納用にもってきた。麦焼酎が消毒液代わりになるから(馬の小便をかけようとしてたので仕方なく)助かる兵もいるだろう。
「あれだけ活躍したのになにも褒美はもらえそうにありませんね。せめて、ろ獲した馬は九戸に渡るように交渉しますから。」
活躍はしたが領地を分捕ったわけではないからね、防衛戦のつらいところだよ。
九戸政実
「気にしなくていいさ、十二分に僕らの名前は売れただろうからね。」
まあ、大将として、騎馬別働隊を破り、主君の危機を救ったわけだから名声は上がるだろうね、一銭にもならんが。
「そう言ってもらえると、ありがたいです。」
「ところで政栄クン、彼らはなんで裸で戦っていたんだい?」
おお、バカボンが治った!
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南部晴政
春に続けて二度目の敗戦か、西も東もダメでは一関砦を抜けん以上どうにもならんではないか。これでは一方的に我が国内で戦闘が続くことになる、なんとかせんと、だがもう予算はいっぱいいっぱいだしのう。……そういえば八戸の小僧戻って来ていたんだな、九戸の援軍を呼んだのも奴だと報告にあった。ふん、勝手しおって、まあ助かったからお咎めはなしにしてやるがな。
……あやつにやらせてみるか。
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一関砦
大崎義直
黒川の婿殿を始め多数の帰らぬ者をだして、晴政を逃がすとは、無念だ!!
九戸の嫡男はボンクラだと聞いていたが、噂とは当てにならん物だな、あれほどの武者ぶりを見せつけられるとは……ワシにもあのような息子がおればな……。
……葛西には悪いがいったん城へ戻り、力を回復させ。再起を計るとしよう。まだまだ負けた訳ではない。南部め次こそは倒してくれる。
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山形城
最上義守
「大魚を逃したか……しかし白寿の薄気味悪いことよ、全てを見通してるつもりか、はぁ奴を見ていると、己の無能さを思いしらされるようだ。なぜわしの息子なのだ……」
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二日後
不来方城 大広間
今回の小競り合い(敗戦)の評定がおこなわれた。
ハッキリ言うが、死者と負傷者のお見舞い金や一時金をだしたらもうなにも残らない(もちろん物資を渡すんだがね)。
何を話したかといえば、ろ獲した馬と、捕虜の処遇だけ。だが俺は強く所有権を主張した(当然)。
「戦で奪った物に関しては所有を認められているはず。」
石亀信房
「だがなあ、八戸の春のツケ(未払分)もあるさすがに今回もとなるとな……。」
なにー!ツケで戦争してたのか?まったくどいつもこいつも、経済観念とかは無いのか。
「はぁ、わかりました、独断で九戸に救援要請をだしたのは私ですからね、私の権利は放棄します。ただし現物で馬は九戸に渡して下さい。それで手を打ちましょう。」
信房
「晴政様、この辺が落としどころかと。」
晴政
「捕虜の処遇だが、これについてはどうする、八戸の、大人しくしていれば返すと約束したのではないか?」
「いても無駄飯をくらうのみ、返してしまうのが後腐れありません、ここは南部の寛大さをみせるべきかと。」
晴政
「黒川と一栗はなんとする、ただで返すのか?」
「交渉で交換といきたいところですが、こちらの将で捕まった者はおりませんから。金銭での交換を交渉すべきかと。」
殺したって一銭にもならないしね。
晴政
「交渉場所は一関砦になるか。」
信房
「そうなるかと。」
晴政
「ならば八戸の、使者となり交渉してこい、半分はやる。」
「良いのですか?戦費(ツケの返済)に回さなくても。」
晴政
「構わん、ジックリと砦を見てくるのだぞ。」
「ジックリとですか。」
晴政
「ジックリとだ。」
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ジックリと見てこいって偵察しろってことだよな。
まあ、言われんでもキッチリ見てくるけどね。
それよりも交渉だな、半分ならやる気がでるってもんだぜ。
あ、そうそう、政美殿もいましたよ評定の場に、置物になってもらいましたがね。
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