急転
「爺、旗は黒川の物だけだったのか?」
魚鱗は四枚だから、指揮官クラスは最低四人いるはずだよな。
「若、旗は、大崎、宮崎、一栗、一泊、黒川がありました。」
ふむ、この部隊は、黒川が大将だとして、副将は死んでしまったのかな?
「爺、黒川……誰だ?」
「黒川晴氏、でございます。」
「そうか、その黒川と話がしたいので、連れてきてくれ。」
◆◆◆
「黒川晴氏だ!敗れたのは大将たる俺の責任、兵は解放して欲しい。」
三十代ぐらいか、暑苦しいやつだな。
「ああ、その心配はいらないですよ、今回の小競り合いが終わったら国に返しますから。」
いつまでも、いられてたまるかうちの食料が減る。
「黒川殿も手紙を書いて貰います、身代と思って諦めてくだされ。」
「致し方なし、用事はそれだけか?」
「いえ、部隊の副将は?あと四人は指揮官がいたのではないですか。」
「宮崎殿、一泊殿は戦死された、一栗殿は負傷している。」
大崎は盟主だから旗があったのかな?あれ?盟主って伊達じゃないの?
「そうですか、爺、うちの者に手当てさせるように手配してくれ、黒川殿、次の質問ですが目的は花巻砦で合っていますか。」
「そうだ、後方拠点に襲撃をかけるのが目的だ。」
「それにしては、兵の数が少ないですね、千六百ってところですかな。」
「我々は南部ほど馬を所有していないからな。」
うーん筋は通ってるんだが、この数で花巻砦が落ちるとでも?最低四千の部隊だと予想して、九戸に援軍要請をだしたのに。
俺の戦力予想が上すぎたのかな?敵を侮るも恐れるも愚かなり実をしるべし……いやすくないよ。
カマかけてみるか。
「ふーん、残りは北上川の渡河場所に伏兵ですか。」
お、顔色がかわったね、まだ若いねえ。
「大丈夫、黒川殿が喋ったとは、いいふらしたりしませんよ。」
くくく、黒川殿には、さっさと戻ってもらうかな。(鬼)
「若、悪い顔になってますぞ。」
いかん、いかん、顔にでていたか人のことは言えんな。
「何故、わかった!」
なにゆえって、認めるの?喋っちゃったよこの人。
「黒川殿、質問は以上です、大人しくしていれば解放しますから、兵達にはきちんと言い含めておいてくださいね。」
ええ、すぐに役にたってもらいますとも。
「まて、最初の陣形あれはなんだ、なぜ縦陣から鶴翼にする手間をいれた。時間の無駄ではないか。」
鶴翼じゃないし。答える義理はないんだけどねー暴れると迷惑ですね。
「縦陣は兵の総数を誤魔化すのが一つ、正面から突っ込んで貰うのが二つ、三つ目は最初から鶴翼だと兵の総数がばれる上に左翼か右翼に突撃されるのは明白、そこからの展開は面倒の一言です、もし相双蛇になったら目も当てられない、こんなところでしょうか。」
だいたいこっちは千二百しかいないんだから薄い鶴翼なんてできるか!
「わかった……答えてくれて感謝する。」
◆◆◆
相双蛇は互いの尻尾に食いついた蛇のような状態です。
騎馬同士の戦いではよくある形で最悪どちらかが全滅するまで続くマヌケな形です。これをやった軍師は○○○という陰口をいわれるとか。
調べたら、これを得意とする将軍がいて、驚いた。
◆◆◆
さて、困ったな、晴政のおっさんが戦死するのは自己責任として、その後の跡継ぎをめぐってお家騒動は御免だね。
……仕方ない助けにいくか。
「爺、斎藤衆を周りに、腕の立つやつを集めてくれ、それから政実殿を呼んで来てくれ、面倒ごとになりそうだ。あと花巻砦に応援の早馬を出す。縄を大量に持ってくるように使者に伝えてすぐに走らせろ。」
バカボンの反応次第では押さえつけないとね、まったく、困ったおっさんだよ。
せっかく、仲よくなれた気がしたのに。
◆◆◆
「なるほど、伏兵かい、考えたねえ。」
「で、どうするんだい?捕虜の事もあるし割けても千ぐらいしか残ってないよ。」
知恵をつけるんじゃないの、まあ救援にいかないとか言い出さなくてよかった、ここで内輪もめとか洒落にならん。
まあ、信仲殿ならどう考えたかわからないけどね。
「爺、北上川の渡河の場所、恐らく地図だとこの辺りになると思う。伏兵をするならこの場所だ。我々は伏兵にばれないよう周り込まなければならない。地図だとここだ、ここにいく間道を知っている者がいるか調べてくれ。」
「はい早速!しばしお待ちください。」
「政実殿は最低限の装備、槍だけでもかまいません、それと旗を持てるだけ持って行きます。これらの準備の指揮をお願いします、行き方を確認し花巻砦から応援がきたらすぐに急行します。」
◆◆◆
北上川 渡河場所
南部晴政
「状況はまだ分からんか。」
一関砦を迂回して侵攻する策を逆手にとられるとは、花巻を潰されたら、これまでの苦労が水の泡だ。なんとしても持ちこたえていていてくれ七戸の……ワシが城代にしたんだが……大丈夫だよな。
「最初の早馬から連絡はなく、狼煙も昨日あがったきりでございます。」
「とにかく、渡河を急がせろ。」
しかし長年三陸を守ってきた北上川がこれほど足を引っ張る存在になるとはな。守りやすく攻めがたいか。格言どうりだな。
「殿、向こう岸に三千ほど渡り終えましたそろそろ本陣も移動されては。」
「うむ、わかった。本陣を移動させる。」
◆◆◆
迂回して攻め込む時点で悪手でしょ。
◆◆◆
黒川晴氏は命惜しさに全てを話したとかね。
でも黒ちゃん使い勝手良さそうだな。欲しい人材だ。




