田中与四郎
田中与四郎
千利休、詫び寂び、黒好み、一期一会、2メートル、魚魚魚、筋肉質、やば爺(有楽斎命名)。
全国の大名に知り合いがいたり、弟子がいたり、秀吉に腹を切らされたり、茶の湯で有名だけど、黒い噂の絶えないこの人。
うん、浅いお付き合いをしたい人ですね、できればビジネスだけの関係で。
堺港
港に入って改めて俺の船が一番大きい、というか悪目立ちしすぎだね、人だかりができちゃってるよ。
巨大ガレオンとかは瀬戸内海に入りたがらないし、九州地方に行かんと見れないだろうな。
下田、津島、に続き岸に直接船を着けることができたのは三港目だね。
着岸の作業を指示しているところに、その人は現れた。
「初めまして八戸様、田中与四郎と申します、ここ、堺で商いなどを営んでおります。」
田中与四郎、……千利休か!、なる程信長の茶道頭のころが千宗易、秀吉のあたりが千利休だったな、出世魚か。
まわりと比べてもすごくデカイヒトだなぁ、180位かな?
ただ商人と言うよりは、今までに出会った達人と同じ雰囲気を感じるのは俺の先入観かな?
「これは、丁寧な挨拶ありがたく、南部家の八戸です。」
爺に目配せして、紹介状をもってこさせる。
「雪斎殿からの、書状です。どうぞ。」
「はい確かに、ふふ…いやこれは失礼を、読みますか?」
田中殿から雪斎の紹介状を受け取り、中身を読むと、
“ かなりふざけたガキだが、能力はある、力を貸してやってくれ。 太原雪斎”
ちっ、あの黒じじい、なんて紹介をしやがる。
「ははは、雪斎殿らしいです。」
「そうですね、病の方も良くなったようで安心しました。」
おいおい、この人雪斎が病だったっていったぜ、軽い一言にどれだけの意味をこめてるのよ、怖いねどうも。
「それでは、堺の私の屋敷で話を伺わせてくださいませ。」
どうぞ、こちらですと、ゆっくり歩き出す。
バケモノ屋敷へご案内ってか。
◆◆◆
田中与四郎の屋敷
「まずは、あらためて挨拶から、南部家家臣八戸政栄でござる。」
手をつき頭を下げる、礼を尽くしているように見えるが、実際はこれから話すことを断ったら殺るよ、というアピールだ。
「話を伺いましょう。」
俺の妄想か勘違いなら、ここで、顔色も変えず話を伺うなんて言うはずないんだ。
まず、奴は書状の中を見せて、病気のことが書かれてないことを俺に確認させた。その後であの一言だ。
雪斎の病気のこと、回復のこと、おそらく俺が関わったことを知っている。つまり、話を伺うとは、俺の頼みごとをある程度予想した上で、本音を語れと言ってきたわけだ。
頭を下げるぐらいなら安いものなんだがね、それでこの陰険クソじじいが手を貸してくれるならね。…だがここは現代日本じゃないんだ、俺の本当の計画を聞いたうえで断るのなら殺さないといけないな。
◆◆◆
はじめに今の南部家の支配地域の現状を話す。物々交換が一般的で貨幣が流通していないことを、そこで、米を貨幣の代わりとして使い経済を成長させる、米貨案を話した。
モチロン、農家などが躍起になって米をつくる可能性もあるが、麦と米を同等に交換できる法と交換できる店を八戸領につくるつもりだ。
わかりやすく言うと、漆の椀の値段に米一合とつけるわけだ。
そう、減る貨幣だ、貯め込んでもあまり意味は無く、使うか、食うかしなければならない、無くなれば働いて手にする。
勤労感謝な法だ、ただし、充分な米が存在するのが絶対条件だがね。
「なる程、貨幣を持って帰っても、貯め込まれたら流通しませんからね。そのための米ですか。」
別に日本のどこでも、米となにかを交換することはやっているが、経済を回すために、米=麦、米=貨幣、八戸領の店だけ、という法をつくるのだ!(南部家内?なんのことかわからないな)
「米と交換した麦はどうなるのです?」
「飢饉対策に蔵で貯めこむ、過剰量は放出して貧困対策にもなる。」
「私に、頼むことは、米を集めるということですか?」
「米を集めるのは、二流の商人で十分だろ、堺の豪商のあなたに頼む程の事ではないさ。
頼みとは、領内の相場を動かして、領内の流れを開発に傾けて欲しい。できるだろ、相場を動かして豪商になったあなたなら。」
「そこまで理解しておられるなら、御自身でおやりになればいかがかな。」
「考えて無かった訳ではないが、俺はそういうの素人だからな、だいたい、領主の俺がやったらそれはただの命令であって、不公平感や不満が広がるだろうが、相場は天の定めでなくてはならない。少なくとも領民にはそう思ってもらわんとな。」
「なる程、雪斎殿が気に入るわけですね、田中与四郎、協力させていただきます。」
田中与四郎が頭をさげる。
ふう、殺らずにすんだようだな。
「それで、米と小麦の相場は、小麦の回収量で食料の全体量を調整するやり方を取るのでしょう。」
「ああ、働いただけ、米を支払う形だな。食料が不足すれば躍起となって働いてくれるさ。」
「鬼のような人ですな、あなたは。」
「理解している、アンタもたいがいだからね。」
ふん、まあいい鬼でけっこう、これは始まりで、次に続く策の土台作りにすぎないのだから。
「ところで、一つ聞いていいか?」
「なんでございましょう。」
「今川でも、似たような手を使ったんだろ、雪斎と組んで。」
「お話することはできませんな、秘密を守るのも一流の商人の条件と言う物で御座いますよ。」
いやそれ、やったって言ってるようなもんだし。ブラックコンビめ。




