常陸国 乱 その四十一 谷田部の戦い
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多功の逃げ
葦の抜け道を抜け少し小高い丘を鎧を脱ぎ捨てた半裸の集団が駆け登っていた。
多功綱継
右手には筑波山の稜線が見える、おそらくこのまま森を抜け真岡家の領地を抜け宇都宮に戻る流れなんだろうな、この頃は勝利続きで負け戦は初久しぶりだったがこんなに悔しいモノだったとは、初陣から着ていた鎧も置いて来ちまったまあ弓矢で平垂れもなにもボロボロになっちまってたが……クソあの櫓の射手め次に会ったら槍の錆にかえてやるからな。
「親父どうした足が止まってるぞ、このまま北に向かって真岡を抜けるんだろ。」
「……真岡はうちとは隣同士で関係性はどちらかと言うと良好だ、だが今回は趨勢を日和って見てやがるからな、少し面倒だが里や街道には近寄らないで迂回して宇都宮を目指したほうが良いかもしれん手土産に狩られたらたまらんからな。」
「あの剛毅で実直な当主がか?考え過ぎじゃないのか。」
「甘いぞ!真岡を通って下野の那須や俺達は合流進軍してきた訳だが行きはよいよい帰りは怖いってなケツまくってる時なら尚更だぞ、俺達の敗戦を知れば城に詰めてない連中にも召集がかかる、那須か宇都宮かそれともあえて混乱の谷田部を目指して筑西(筑波山西の平野部)に出てくるか、当主が腰を上げないとしても次に向けて少し気の利いた奴なら落ち武者狩りをして戦力を減らしておこうとしてもおかしくないんだからな。」
……それに俺が佐竹だったら背後をとれる真岡に後詰めを要請しておく佐竹にしてみれば手紙一つで手間もかからないし戦後には真岡が味方になる状況をつくれるからな。
真岡を通るのには訳がある下野へ逃げるのに追っ手を撒くため筑波山を迂回し山中の間道を抜けて逃げるとしたら時間がかかり過ぎて地元で日和ってる奴らに無防備の土地をかすめ取られちまうからだ。
特に那須に残った七家の連中は信用ならない……谷田部に向かわないなら下野の連中は真岡の街道を使って急いで本拠地を目指すだろう、だが行く時は通してくれたから味方と錯覚してしまいがちだが奴らにしてみれば大軍で行軍してたから手を出さなかっただけで敗残兵を通すほどお人好し……ま、まああの当主はお人好しではあるが濡れ手に粟なこの状況……周りがはやるとも限らんからな……無駄に危険な場所を通る必要もあるまい俺達は真岡を迂回しても宇都宮までは二日掛からんからな。
「先行している連中に真岡を迂回すると伝えろ、それで通じるから。」
……さて、当主が亡くなった佐竹家の暴発だと思っていたがこれはもしかしたら大乱の切っ掛けになるかもしれんな、急いで宇都宮に戻ってアイツに今後如何するか相談……丸投げだな面倒くさい、それにあれから半隠居状態で仕事してないんだからこれまでの分も合わせて仕事させてやれ。




