常陸国 乱 その二十四
不定期で申し訳ない<(_ _)>
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結城下野連合の陣
水谷正村は補給路への焼き討ちをかけられた事を危惧し軍議を行うべく連合各家の代表を緊急招集し決戦に臨もうとしていた。
小山氏朝(小山家嫡男)
「短期決戦すべしとの理由は理解したが、補給路の護衛を強化する事で対応出来ないのか?」
水谷正村(結城家家老、独立勢力としても小山氏並み)
「難しいな、我々は総兵力では小田勢を含めても五千程上回っているだけ、これ以上兵士を減らして長対陣しても補給路に圧力をかけられた我らが不利になるだけと思うのだが。」
「……」
多功長朝(宇都宮家重臣侍大将…最年長)
「兵の多さが不利に繋がるか、ならば目には目を敵の補給路にあたる村々に焼き打ちを行っては如何か。」
「佐竹勢の補給路は水路を主に使っていて陸路は水戸から土浦なんだが五千以上の兵で街道を守っている、襲う隙は殆どないとみていいだろう。」
「元より長期戦の構えか……手堅い事だな。」
千本資俊(那須七騎千本家当主)
「笠間は佐竹との中立姿勢を崩しておらんし、今更白河が遠回りして兵を出すことは無いだろう、真壁の手前から谷田部川を渡り小田領……筑波に侵攻するのは如何か。」
「真壁は中立姿勢だが……当然笠間と同じ様に調略の手は伸びてるだろう、後背を襲われる危険はあるが……谷田川沿いを下り鬼怒川の渡しの反対側……谷田川の渡しを押さえれば三方を囲み逃げ場を無くせられるか。」
千本資俊
「騎馬ならば夜半に真壁領を抜けて朝までに敵陣の裏に回り込めるであろう、それがしに騎馬を預けて貰えるならその役引き受けよう。」
水谷正村
(いやに積極的だな先年の汚名返上を考えてるのか、まあ主君殺しは他三家の腹黒三兄弟共にハメられた結果だろうがな、だが丁度良いかもしれんな宇都宮家は佐竹に借りがあるし単独行動はさせられん……そうだな生真面目なコイツ《千本》なら裏切る事もあるまい)
「……多くは預けられんが正面には騎馬はそれ程必要ないからな、四千程度なら各家から集めて別働隊として任せられるが如何か。」
「四千か…うむ、それならば十分だ別働隊は任せて貰おう。」
「ならば反対側の鬼怒川渡しを抑える役だが……」
小山氏朝
「それは私の所が受け持とう、二千程で川沿いを牽制すれば良いのであろう。」
水谷正村
「小山の部隊を割ってもよいのかな?」
「構わぬ……隊を割っても四千は残る、中洲での戦には私が参加するのは変わらんがな。」
「わかった、鬼怒川側の渡し場の押さえは任せる。」
多功長朝
「正面から二万七千、遊撃に騎馬四千、渡し場の押さえ蓋に二千か……(周到すぎて)敵が気の毒であるな……水谷殿正面の陣形は如何するつもりだ。」
「右翼鬼怒川寄りを小山勢を中心に一万、正面を結城勢で一万、左翼谷田川沿いを小田、宇都宮勢で一万、谷田川迂回遊撃に騎馬隊那須勢四千、鬼怒川渡し場の押さえに二千だ。」
多功長朝
「三隊での横陣…相手に合わせて陣形を変えるつもりじゃな、各陣一万程度ならそう動きも悪くならない……さすがは水谷殿じゃ。」
(奇策を使わず基本通りか相変わらず手堅い戦をするのう……結城の番頭未だ負け無しは誇張ではないと言ったところか)
小山氏朝
「敵も後背に回られる危険は承知だろう、先にこちらが兵を分けたとしてもさほど兵数の差はかわらないはず、ならば正面から打ち砕くのみ。」
水谷正村
「三方を囲んで動揺させ一気に突き崩す、不利ならば少し引き谷田部城との連携を使いジワジワ囲んで削っていく、では各陣準備に入ってくれ。」
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川に挟まれた中洲 佐竹軍の陣
「……とまあコレがだいたいの戦の流れです、味方の将兵達への説明は徳寿丸様が行って下さい。」
「私が説明するのか。軍師である政栄が説明した方が良いのではないか。」
「徳寿丸様が説明することに意味があるので、兵達の心を繋ぐのは軍師ではなく大将でなくてはなりませんから。」
「手柄を盗んでいるみたいで気がひけるのう。」
「そのお言葉だけで今は十分です、足軽大将から必ず足軽まで作戦を伝えるよう念を押して置いて下さい。」
徳寿丸と護衛の小姓が陣幕から説明の為出て行く
「やれやれ、準備もこれで終わりだな明日の今頃には決着が付きそうだしまた忙しくなるな。」
小貫頼久
「足軽まで作戦を知る意味があるのですか、知りがたきこと陰の如くでは?」
「ふむ、一部正しいが今回は足軽の心胆の強さが勝敗を左右するからね、勝って生き残れると確信があれば恩賞をもらうまで逃げる必要はないといったところか。」
「それに、敵に知れる頃には戦は終わっているですか。」
「意地が悪いぞ、まあその通りなんだがね。」
「ところでこの陣の名前は。」
「亜流南蛮方陣。」
「南蛮の戦術でしたか、動く城の様ですな。」
「兵は石垣、兵は壁ってね、歩兵の正しい使い方なんだがね。」
「勝てるなら、兵達も喜んで従います問題ありませんよ。」
「まあ、そう思うことにするさ。」
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会戦の前日 下野国 宇都宮城
昨年、宇都宮広綱は壬生綱房を宇都宮城から追い出し長年の悲願である宇都宮家再興をはたしている。
宇都宮家再興の陰には、五歳で家督を継いだ広綱を支え分裂した家中を(口八丁手八丁で)纏め上げ、北条、佐竹、結城を含む巨大な親族包囲網を形成し壬生討伐の兵を出す密約を取り付け、那須家等に謀略の限りを尽くし先君の敵討を行い、遂に壬生綱房を宇都宮城から追い出し宇都宮家を再興させる……名宰相もかくあらんというそれまでの評判や噂からは考えられない活躍を見せた益子のやる気のない三男坊こと、広綱から宇都宮家宿老の家名を頂いた芳賀(益子)高定の姿があった。
「いえ、そんなにやる気は無かったんですがね、広綱様が駄々をこねるので仕方なく……ああ早く隠居して京にでも遊びに行きたい。」
「御家老様!独り言は後にしてください政務が滞っております、早く書状を確認して指示をお願いします。」
「おかしいな?なんでこうなった、家老になれば左団扇で楽ができるはずが?……こんなことなら俺が多功の脳筋一族の代わりに戦に出向けばよかったかな。」
「家老様は頭はともかく武芸はからっきしでしょうが、戦のことは多功家に任せて早く書状の返事を、この後もまだまだ政務が残ってますぞ。」
「広綱……じゃなかった広綱様はどうしたこの位の政務は出来るよう仕込ん……じゃなくて教育したはずだが。」
「……御家老様が接客は任すと言ったのでひっきりなしに来る直訴の対応に追われておりますが、なにか?」
「……宇都宮城なんか落とすんじゃなかった。」
史実では翌年、謙信、蘆名の連合軍を多功ヶ原にて打ち破る影の立役者の……まあそんな姿があった。
そして、史実では多功ヶ原にて後の世で戦国最強と唄われる軍勢を打ち破る主役はいま谷田部の合戦に臨もうとしていた。
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「へぇっくしょい!」
「どうした房朝、風邪か軟弱な奴めが、鍛え方が足りんから風邪などひくのだ、ワシや綱継を見習え、お前といい秀朝といい軟弱に育ちおってからに。」
「親父や綱継が異常なんだよ、俺は頭脳労働担当なのそれよりなんで小田と組まなきゃならないんだよ家格的にうちら(宇都宮家)が下なんだから指揮権が無くなるつーの。」
「仕方あるまい、総大将の水谷殿の決めた事、宇都宮家は結城家や佐竹家に再興時兵を出して貰った借りがあるからのう、これで結城家には借りを返したが、佐竹家には恩を仇で返す事になったのう。」
「戦国の倣いだ、倒れた義昭殿の運が悪いのさ……と言いたいところだがこれは無いよな……ウチ(宇都宮家)みたいに滅亡しかかるハズが常陸を統一する勢いだぜ、高定のボケでもお家再興に何年も掛かったのにほんの半月でコレとはどんな化け物なんだよ。」
「高定めをみておれば、佐竹の裏に居る敵の恐ろしさがわかるということか。」
「極め付けは目の前光景だよ、親父もわかるだろ不利な地形に陣を張ってるのに兵に動揺が感じられない、空気が静かで澄んでいるって奴だな。」
「当然じゃ、那須の先代が戦場ではあんな感じでな……尚綱様をとられたのは不覚じゃったな。」
「……悪かったよ御家の滅亡を思い出させてさ、目の前の敵はその位嫌な感じがするんだよ。」
「感じ?お前はそういう曖昧な事で状況を判断せぬのでは無かったか。」
「理屈に合わないのは理解しているんだが、敵があそこに罠を張っているハズってのが状況から有り有りだからな。」
「……仕方あるまい罠なら食い破るのみよ。」
「親父と綱継なら其れで良いんだろうけどね、とりあえず任せるよ。」
「フン、宇都宮城攻略の手柄で家督を譲ってやったというに覇気の無いことじゃのう。」
(本当にどうなってやがる、あり得ないなんてあり得ない何か仕掛けが在るはずなんだが……ヤベー全く思いつかねえ……死ぬかも知れんな)
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次は谷田部の戦い最後までかいてる……といいなー。(無理ですすいません)




