常陸国 乱 その十二
土浦城 小田家側
……火矢での攻撃に変わったか、正門でもう少し嵌まってくれると思っていたが、佐竹家の知恵者は中々の者であるな。
三の丸は火の海になってもさほど困らんが少し驚かしてやるか。
「二の丸の貯水槽を解放して三の丸を泥沼にせよ、油が浮いて火の海が広がったら三の丸の水抜きをして火を流してしまえ。」
「ハッ!」
この土浦城、三十年程前に改修を終え今は数々の罠を備えた最強の水城となっておるのだ、この城と罠があれあるのだ最低でも一万はこの老骨の道連れにしてくれる。
◆◆◆
土浦城 佐竹家側
「よし、三の丸に火が回った様だな、梯子を用意!正門を乗り越え三の丸を制圧する!」
ヤレヤレ、力攻めとはなまあ三の丸を制圧したらってえ?
「オオオ!!、三の丸の火が消えていく?」
「そんな馬鹿な?大量の油を使ってるんだぞ水をかけたくらいで火が消えるハズは……」
三の丸全体に燃えさかっていた火の勢いが弱くなり、徐々に鎮火していく。
「見ろ、霞ヶ浦が燃えているぞ!!」
土浦城の裏手の霞ヶ浦が何故か燃え始め、湖面に火が広がっていた。
「政栄よこれは一体。」
水に油を浮かせて排除したのか?そんな馬鹿な西洋の城でも滅多にみないカラクリだぞ日本の城にあるなど聞いた事も無い。
「……政栄殿、如何しますか。」
「……読めん。」
「読めん?」
「攻略の道筋がなくなりました、徳寿丸様一旦軍を後退させましょう、今日の攻撃はここまでです。」
◆◆◆
初日の攻撃で正門すら落とせずに引いた事で、僅かだが軍全体に動揺がはしっていた。
「……軍師殿何故城攻めの途中で引いたのか説明をしてくだされ、皆意味が分からず納得出来ていません。」
「そうですなまず三の丸に放った火が、霞ヶ浦に流れた事については三の丸に二の丸か本丸にある貯水池から水を流し入れ油を浮かしておき、三の丸の排水設備恐らく本丸との間に水門があるのでしょうそこから水を霞ヶ浦に排出したものと考えます。」
「油を水に浮かす?油は水に浮くのか……」
「そういえば、猪の油は桶の水に浮いていたような。」
「火の消えたカラクリはまあ分かったそれで何故火の消えた三の丸に攻め込まなかったのだ。」
「正門の裏に土を盛り水が外に漏れないようにしていたのは火攻めで油を使われた時の為でしょう、それとは別に三の丸を水で浸すことにより泥沼にするための機構であると考えました。」
「泥沼?田んぼの様にするという事か。」
「恐らく滑りやすく足を取られる極めの細かい泥を乾かして敷き詰めていたものと考えています。」
「では三の丸に兵を進めていたら。」
「足の止まった所に矢を射掛けられて全滅したものと思われます、予想では三の丸の排水設備は二の丸か本丸から動かせるものと考えますと三の丸を攻略するにはそれなりの準備をしませんと泥沼から二の丸を攻め落とす必要がありますから。」
とは言っても、そんな準備するどころか普通の物資も無いんだがな。城内に泥の海を造るとか秀吉の小田原征伐で生き残った忍城みたいだな、まああれは湖沼を利用した天然の要害の中にある城なんだが、こちらは霞ヶ浦を利用しているとはいえ明らかに人工の建造物の中にある沼だからな。
「……なるほど、一旦軍を引いた理由はわかりました、皆納得したと思います、それで明日からの作戦は如何しますか。」
「斎藤衆に中の構造を調べさせておりますが、予想通りならかなり面倒な事になりますね、取りあえず方針は早朝の軍議で今日はここまでといたしましょう。」
◆◆◆
さて、ああは言ったモノの策か……
泥沼なら干潟スキーとかで移動?狙い撃ちだろそんなもん二の丸が三の丸より高台に有る以上敵が圧倒的に有利だ、勿論泥沼だろうが損害無視して力押しすれば確かになんとかなるが、人の死体を積み上げて勝利?そこまでして土浦城を攻め落とす必要があるのか?
もう一度戦略の大前提からだ、檄文を使って常陸を佐竹家でまとめる、鉱山開発などをさせて銅の産出量を上げて、腐食耐性の有る鋼材を使った帆船を大量生産する。生産させないと経験からの技術向上も無いからな。
こんなところで大事な労働力を消耗してどうする、どうせ使い捨てる命なら敵も味方も鉱山で死んでくれ。
敵を全部捕虜にして鉱山で強制労働だな……捕虜か城ごとまとめて、とにかくまだ小田方の城は残ってるんだ、霞ヶ浦の水路を利用出来るところまではきたんだから今はは補給路の確保が優先のはずだ、常陸南部の佐竹軍との合流、常陸全土の掌握が大事であり、土浦城の攻略は小事だ、小田氏治が土浦城にいたとしても逃げられないようにしておけば問題ないじゃないか。
その間にサッサと常陸を掌握すればいいんだ。
要は佐竹家で常陸を統一するために必要な事の優先順位だそこを間違わない様にしないとな……なら土浦城は。
◆◆◆
「三十数年前に改修されたときは何の役にたつのかと思っていたがあの頃のワシは不明でモノを見る目がなかったのだな、改修を任された者は確か……ああ、既に亡くなっていたかまああれだけ予算を使ってよく分からんものを造ってはそうなるか……そのお陰で助かっているんだから不思議なものよな、もう直ぐあの世であったら詫びをいれておかんとな。」
……このジジイ何を言ってるんだか、しかし変な城だな本丸の背中に貯水池があって二ノ丸、三ノ丸に流せる用に水路が造られてるぜ、本丸と二のノ丸間にはどこに繋がっているのか分からない縦穴と水路が幾つもあるしこんな変な城初めてみたぜ、取りあえず小田の殿様はいないみたいだしお宝も無かったから帰って政栄になんか作らせて食べよう。




