常陸国 乱
不定期ですが<(_ _)>
◆◆◆
「……私の風評は知った上でのことでございますか？」
「今必要なのは武勇の将ではなく、知謀の将だと私でもわかる事だ、佐竹家存亡の瀬戸際多少の醜聞など気にしない、羽後で発揮した手腕を貸して欲しい。」
ほう、多少では済まないとかね、まあ最低な策はあるんだが。
「……条件が二つあります。」
「貴様、徳寿丸様に対して無礼であろう！」
「斯忠！よいのだ、して条件とは。」
斯忠？車斯忠かな……もう小姓として上がっていたか……ふむ。
「ではまず一つ、私は南部の臣でありますので、南部家の利益を損なう行動をする事ができません、具体的には貿易での協定のある岩城家、里見家、北条家に対する敵対行動はとれません。」
「この三家が攻めてきたら、何もせんと言う事か。」
「ええ表立ってはできません、可能性は低いですが……無いとは言い切れませんので。」
「なるほど表立ってか、南部家から将を借りる以上もっともな事、了承した。」
「では次に、私は策を具申しますがそれを採用するかは徳寿丸様の判断にお任せします、策が気に入らないならば蹴ってくれてかまいません。」
「気に入らない策は、蹴って良いと言うのか？」
「ええ、無理に納得できない策を実行しても、後悔が残るだけですから。」
「わかった、嫌ならば嫌だと言おう。」
「条件を引き受けてもらいありがたく……不肖この八戸政栄、短い間になると思いますが徳寿丸様の軍師をつとめさせていただきます。」
「よろしく頼むぞ、政栄よ。」
「ハッ！」
◆◆◆
「では早速、“泰造”！」
「ハッ！」
背後からスッーと現れる。
「忍の者か、いつの間に。」
「私の陰となって動いて貰っている泰造です。」
「貴様、忍の者を潜入させていたのか。」
「斯忠、よい！静かにしておれ。」
「グッ……」
そうだぞ、猛虎うるさい。
「では、現状の確認から始めましょう。」
「現状の確認？」
「ハイ、佐竹家の現状の確認です。現在佐竹家は常陸国最大勢力として常陸太田に居を構えております、先年常陸国南部の江戸氏を降し常陸国には小勢力が残るのみとなり治安回復と結城、千葉、岩城等の牽制のため国境近くに軍を派遣して常陸国内に展開しております。」
「そうだ、北部の兵の大部分を割いて南部に派遣しておる。」
「……この状況で、当主の義昭様が矢傷で倒れられました、情報とは漏れるもの、重要な情報であれば四、五日もあれば常陸国の諸勢力に、外の国ならば北条家、武田家等には既に一報は届いているものと考えます。」
「なんと！箝口令をしいているにもかかわらずか、城内の人の出入りも厳重にしているのだぞ。」
「泰造、おぬし昼間城下にいただろう。」
「ハイ、城下にて南部丸との連絡をとっておりました。」
「とまあそう言う事です、明日か明後日には近隣の各大名家にも情報が漏れているものとお考え下さい。」
北条と武田が異常なだけで、他家はそれほど諜報能力は無いかもしれないが最悪を考えて動くのが定石だしね。
「……わかった続きを。」
「義昭様が倒れた事で、各地での反乱が予想されます。気の早い一門衆は居城に戻り如何に動くか協議の真っ最中でしょうな。」
そういう一門衆の動きが情報漏れの原因なんだがね。
「北部太田城周辺は兵も少ない状態、国境の兵を呼び戻せば変事がありましたと宣伝するようなもので如何ともしがたく、時を無為に過ごせば太田城の周りは敵だらけと言う訳です。」
「……常陸統一目前にいきなり滅亡寸前に転落か。」
「当主の交代時には多かれ少なかれこのような事態は起こる事、今回は間が悪すぎましたな。」
実際十年後の当主病死による交代時はここまで酷い状況でなくても離反が続出したからな、滅亡寸前という徳寿丸様の判断も冗談交じりの大げさなものとはいえ、あながち間違いではないんだよね。
間が悪いか……矢傷を負わせた後、常陸に富が溢れるように画策した？……いやないな、江戸氏にそれ程先を読んで事を起こす奴がいるなら佐竹家に降るような状況にはなるまい、矢傷を知っている者で今回一番得をする者が真犯人だ！と言いたいところだが今回は偶然の要素が強すぎる、一連の流れは単なる偶然だろう。
江戸氏を攻める時に協力した小田氏の可能性は……うーんないだろうな～。
「では徳寿丸様、現状を正しく認識できたところで、今回徳寿丸様は如何に動くべきと思われますか。」
「私の考えか？」
「ハイ、軍師の策を鵜呑みにするだけでは、ロクな当主に成れませぬぞ（あのオッサンみたいにね）」
「貴様何を……」
ふん小姓連中が殺気立ってるな、だがこの程度でキレてちゃ外交の随伴なんかできないぞ。
「太田城の守りを固め、派遣した軍を引き返させる。一門衆からは義昌叔父のように太田城に兵を入れて貰う、ある程度軍勢が整った所で近場から一つ一つ反乱を静めて行く。」
「……なるほど悪くありません、堅実かつ現実的です、ですが。」
「わかっておる、反乱を静めていく過程で常陸の三分の二は失うのだろう、父上もそう仰っていた。」
「それほど現実は甘くありません、敵になった者に少し気のきいた者がいれば太田城を半包囲して、岩城、結城の兵を呼び込みますな、あとは詰め将棋と一緒です、詰んだ局面で一手一手指していては滅びを待つのと一緒ですな。」
「滅ぶ……のか……」
ありゃ刺激が強すぎたかな。
「城門を閉じた時点で負けです、あらかじめ公方に仲裁を頼んでおいた方が気が利いてますな。」
「貴様、若に恥をかかせたのか！」
「よせ、斯忠！」
小姓連中が慌てて抑えつける。
「これは説明不足でしたな申し訳ない。」
ゆっくりと手をつき頭を下げる。
「政栄よどういう事だ説明してくれ。」
「その策を取れば最悪どうなるかという話です徳寿丸様を貶める為の問答ではございません、策士とは常に最悪を想定して策を練るものですのでご容赦の程を。」
「そうか、だが守りを固めた時点で滅亡の目があることはわかった……気のきいた者とは政栄の事だろう、政栄ほどの者がそう居るとは思えんがな……ではそろそろ政栄の策を聞かせてくれ。」
