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謁見の間

1557年 春


八戸政栄は南部晴政の使者として、先日の要請の御礼をするため常陸国太田城 佐竹義昭の居城を訪ねていた。


「……以上が要請に応えていただいた礼となります。」


……久しぶりに土下座スタイルからのスタートね、同じ源氏系の守護大名とはいえ家格の差がね、本流と部下の部下ですからね~実力はともかく、儀礼上は当然の決まり事だからね。


「目録は事前に読んでいたが、軽く口を聞いただけでこの礼は……いや有難く貰っておくのが度量というものか。」


「笑納していたたければ幸いに御座います。」


その気持ちはわかるよ今回のは御礼という名前の威圧だからねぇ、真意を汲んでくれただけよし!なんだが、ここまで待たされたのは目録読んでたから遅くなったって事なのかな、まあ量はともかく品質は最高級品ばかり厳選したからね、八戸領産の目も眩まんばかりの品々ですよ。


佐竹義昭 現在数え二十七歳、従兄弟の小田氏治と共に昨年江戸氏を降し常陸統一を目前にしているなかなかにやり手の守護大名だ。若さからしたら関東に覇を唱えてもおかしくない。

ここ北関東も一年間ほど歴史の流れが早くなっている気がする、まあ雪斎のじじいが生きてる時点で気にしてもしょうが無いんだが。

この勢いならもしかしたら佐竹義昭による北関東支配体制が固まるかもしれないな。

アレ?そういえば佐竹義昭って。


パタッ


ん?なんだ?


小姓が急ぎ駆け寄っている。


「御典医を早く急げ!」


あー倒れたのか、ってヤバイ。


腰を浮かし掛けたその時。


「すみませんが、御使者殿はこちらに。」


ですよねー監禁されちゃった。


◆◆◆


佐竹義昭 病弱でたびたび寝込む事があった享年三十七歳。


「そういや佐竹義昭って病弱だったか、ここ最近の戦果が派手だったんでうっかり忘れてたよ。」


対外的に情報が漏れるのを恐れて監禁したって所か、さて義昭の意識が戻らないとこっちの命が危ないな。

彼方からのアプローチを待っていては命がピンチですから、この時点で義昭に仕えている内政系の直臣は……岡本家は証書作成で格が少し高いんだったよな?うーん和田昭為でいいかな確かまだ若手だから位とか低そうだし。


「すみませんがそこの見張りの方、和田昭為殿に話があるのですが。」


「取次は一切するなと、言われております。」


「そうですか、南部家秘伝の薬を傍の者に持たせていたので、話をしたかったのですが、さて如何しましょうかな。」


「御使者殿、内部の事情を知らずに掻き回すのはやめていただきたい、御典医の面目を潰すことになりますぞ。」


知れ渡っているな……ふん!そんなん知るか、だいたい漢方薬で治らない病で疱瘡(天然痘)じゃないなら、結核かそれ以外のペニシリンで効果のある病だからな(じゃなかったらとっくに死んでるし)、結核だったら泰造達に連絡をとって脱出だな。

この時期関東地方の当主が梅毒とか基本有り得んから(まだ西日本で猛威を振るっている段階)結核の可能性大なのが泣き所だな。


「効果のあるかも知れない薬の存在を知って黙っていたなら、お咎めを受けるかも知れませぬな。」


「くっ、拙者では判断つきかねます、上の者に伺いをたてますゆえしばしお待ちを。オイ!番を代わっくれ少し席を外す。」


ハイハイ急いでね~


◆◆◆


「和田昭為と申しますお見知りおきを、早速ですが御薬をお持ちとか、是非見せて頂きたい。」


「では護衛の者をここに、薬用が適合するようでしたら新南部丸にまだ大量に所蔵しております故、船を北側に戻す手配をお願いしたい。」


「わかりました、適合とはどのようにするのですかな?」


「本来なら血管に少量注射針で打ち込みますが、そのやり方ではあなた方には認められないでしょうから、綿にすこしふくませて舌の裏に、そのままにして飲みこまぬようにしてもらいます。」


「舌の裏ですか?」


「ええ舌下での投薬を行います、経口でも効果はありますが、胃酸で成分がほとんど無くなってしまうのでもったいないですから。」


「それで、経過を診るわけですか。」


本当内政系の人は話が早くて助かるね。


「結核以外でしたら、大抵症状が改善されますから。できれば同席して、最初の毒味役をさせて貰いたいのですが。」


「診断も同時に行うと……あなたに隠す意味は有りませんからな、病の床に坊主とか縁起が悪い事このうえないのですがね。」


「ご祈祷とでも考えてください、あと武闘派の抑えは大丈夫ですかね。」


「何の事を申しているのか分からんが現在国境の押さえで殆ど出払っている、常陸もまだまだ落ち着いた訳では無いですからな。」


武闘派の家臣は国内の威圧で出払ってるのか、状況は最悪の一歩手前か……一門衆が城から退去した時点から内乱発生って所かな。


「それでは、お付きの者を待たせてあります此方へ。」


◆◆◆


「殿!ご無事で。」


「ああ、大事ないこれから歓待を受ける故、しばし逗留するかもしれんな、泰造私の医療箱をくれ城内ですこし調子の悪い方がいてな。」


「ああそう、俺らは城下町で宿を取ればいいのか?」


よしよし、ちゃんと医と薬の暗号覚えてるな。


「そうしてくれ、あと新南部丸に大黄化薬の大徳利を五本頼むかもしれないから、書状は書いて渡すからそのつもりでな。」


「分かった、俺らは外でのんびりしてるよ、使いの人が来るまで待機で良いんだな。」


薬用箱を受け取りながら、合図を送る。


うん、結核だったらすぐに助けに来いよ。


「それでは和田殿、参りましょうか。」


◆◆◆



しばらく不定期です<(_ _)>

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