助言(書状付)
◆◆◆
食事の後、鈴と話をしてみた。
戦場に出たいなら、最低でも自身の身を守れる事以外にも、立場上俺が居ない時は、最高指揮官になるわけだから領内の全てのことを把握していなければならない。
……求めるモノが高すぎるかな?
八戸領は櫛引氏の襲撃で極端に武官文官の数が少ないから、はっきりいって今居る文官連中は俺の薫陶をうけて全員使えるレベルに達しているが……八戸領が広くなったせいで元の木阿弥と化してきるわけだ。
鈴を支えてカバーする家臣団が無いほうが本当は問題なんだがな。
とにかく、一定のレベルに達するまでは戦場には出さない、今まではやらなかった領地経営から兵法まで勉強する。ということになった。
これでもかなり抵抗したのよ……葵の方からの書状がなければ……
というわけで現在俺は、領地経営(初心者編)と孫子他の軍略書をまとめた兵法書(初心者編)の執筆に大忙しだ。教科書を作ってしまうのが簡単で良いからね。
この決断がのちのーーーを産み出すこととなろうとは。
◆◆◆
「なあ、塚原の爺さん。」
「ん?なんじゃ。」
「鈴って武術の才能どの位あるんだ。」
「少なくとも御主よりはあるじゃろうな。」
「俺はいいんだよ諦めているんだから、あそこのバカ程じゃ無くても良いから、才能があれば少しは安心できるんだが。」
「ワシも槍はある程度できるが薙刀は範囲外じゃぞ、足運びや舞は結局は師匠譲りの物になるからのう。」
「師しだいか、ふむ。」
「ほれ、南部にだって腕の立つ女武者の一人や二人いるんじゃろ、取り立てて師に据えたらよかろう。」
「……調べたら、主君の奥方だった場合はどうすればいい?」
「しらんわい!まあ噂が本当なら学びに行けばよかろう、決心したのじゃろう。」
「そうだな、気に入られたみたいだし武芸は任せるか、兵法は俺が教えればいいんだし。」
「ところで爺さん、泰造のやってるあれ無間か?」
現代武術の震脚や縮地は衝撃音がうるさいため雷(ゴロゴロという音の意)の字が付いた雷光なんて技名がついたんだが、泰造のやっているアレは足音が全くしない。
「あれは無間では無いのう、御主は鳴足と縮地を同時にだせなんだが、同時に出すのが無間じゃ。」
「俺の体重じゃ同時に出せないんだよ、じゃあ泰造のやってるのは何なんだ。」
「鳴足(震脚)を忍足(消音歩法)で音を消しておるのう、無間の実践型とでも言ったところかの。」
ちっ、無間は既に出来ているのか。縮地を一見しただけなのにね。
「爺さんもできるのか?」
「ワシも忍足は使ったことがないが軽身功なら使えるぞ、音をたてず無間する位造作もないわ。」
「チート爺め!これだから武才のある奴らは。」
「うらやましいかのう?」
「ない物ねだりはせん、出来ることをするだけだ。」
「しかし泰造といい斎藤殿といい、御主の所の忍はなかなかの凄腕ばかりじゃのう。」
「ああ、俺なんかには勿体ないぐらいだよ。」
やはり泰造も京の都へつれて行くかな。人数制限がなければ厳選せずに護衛を増やすんだがな。
◆◆◆
予防接種
「うう、若?本当に大丈夫なんですよね?」
「俺が率先してやって見せただろ大丈夫だ、軽く発熱する程度だから。これをやらんと京の都に連れて行くわけにはいかんのよ。」
戦国時代の京都近辺では度々二つの流行病が猛威を振るっている、梅毒と天然痘である。梅毒は鉄砲伝来より早く日本に上陸しており猛威を振るっていた、天然痘は現代日本では絶滅しており世界でもアフリカの一部地域を除いてほぼ世界から駆逐された病と言って良いだろう。
天然痘の予防法は十八世紀にエドワードジェンナーによって確立されていて、簡単にいえば牛痘(人間には弱毒性)の牛の膿を人体に埋めることで近接種の天然痘の免疫がえられるのだ。
でもね、奥州の片田舎で牛痘のの牛を見つけるまでに何年かかったことか、しかもその牛を隔離しながらも同じ牛舎に牛をいれて感染させ続けるとか……見たまんま殿乱心?または気が狂ったとしか言いようがないよなーしかもこれワクチン接種は五年毎にやらないといけないのよね。
クスリも梅毒や破傷風菌用にペニシリンとかなら、ギリギリなんとか作れるだろうけど天然痘の治療薬は正直不可能だからね、シッカリ予防しておかんとね。
と言うわけで京都に連れて行く奴と斎藤衆のみのワクチン接種となったわけだが。
うん、わかるよ牛の膿を肌に植え付けるって俺も大丈夫だって知っててもいやだもん、ジェンナーの奧さんは大した人だったのね、夫を信じて自分から志願したんだから。
「ほーい、と言うわけで皆で逃げた泰造を縛ってでも連れてくるように後は奴だけだからな。」
「「はっ、必ず!」」
ウサギの睾丸でワクチンを作る方法もあるらしい、そちらの方がコスパも良さそうなんだが、やり方が全く解らん。できれば八戸領の子供達にワクチン接種したいんだが、牛の数も維持する財力もちと足りないのよね牛痘の牛はさすがに食えないし高価なワクチンになっちゃたな。俺は選民思想とかは全く持って無いんだが牛痘の牛の数がそろえられん、しばらくは身内優先でやらせて貰うしかないかね。牧場計画進めんといかんな。
「殿!捕らえましたぞ!」「いやだ!離せー!!」
「よし、よくやった!早く泰造にワクチン接種して帰ろう。」
「はなせー、おのれ政栄ぶっ飛ばすぞー!」
「ハイハイ、さっさと改造しましょうね。ほーら痛くないよー。」
それにしてもこんな山の中に秘密の牛痘の牛舎を作らないといかんとはな。隔離施設だからしょうが無いんだが。
この時代猛威を振るっていた流行病の天然痘と梅毒は対策を知ってても財力や権力が無いとどうにもならないからな、この時代農村地域に転生者がいたとしてもこの二つが蔓延してれば成長できる確率はかなり低くなるよな……考えてみると俺は相当運が良かったんだな。
さて、帰ったら、梅毒対策を皆に徹底させないとな、夜鷹は買わない、病人の体液には触れない、手洗い、焼酎消毒を徹底させるか……後はインフルエンザ対策に簡易マスクはするけど基本は加湿しかないのが怖いな、乾燥する冬は要注意ですな。後は堺や京都に造る屋敷では猫を飼いましょうかね、ネズミ駆除に一役買ってくれるかもだし。癒し効果(俺用)も期待できるな。




