高炉メンテ
「刀の目利きも終わったし帰ってもいいんですよ。」
「つれないのう、暇なのだつれてけ。」
「高炉メンテなんか見て楽しいですかね。」
◆◆◆
「ふむ、多々良場かなかなかの規模よの、ここで先程の白い鋼をつくっておるのか?」
「ああ、玉鋼のインゴットは白銀ですからね、ええここで作ってましたよ。」
「作っていた?」
「愛姫と話し合った結果、在庫が捌けるまで製造しない方向です、あまり市場に流すと価格が下がりますからね。」
……すでに十年分位インゴットがあるんだが、正直置き場所に困ってきたかね。早くなんとか捌かんとね。
「変わりに今は二号棟でH鋼とかを作ってますよ。」
「H鋼?」
「建物などの鉄骨につかいます、鉄筋も前より太くなりますしね。まあ見て見れば分かります。」
「政栄様、Mo鋼の試作品が出来ております。」
「ああそうか、強度試験もするんだったな、丁度いい塚原の爺さんもいるし。」
◆◆◆
「なんじゃこの黒い鋼は。」
「ウーン、遠心分離機の精度が悪いのか不純物を完全に分離できてないんですよね。本来はもう少し鈍色なんですが」
「……というわけで、Mo鋼のボルトやナットはこれからの要ですからね炉の製作の先に強度や耐熱性の性能試験をしてるんですよ、直刀や芯鉄、槍の穂先もありますから、試してみますか?」
「説明は難しくて分からんが槍や刀ならな、見せてみい。」
「ふむ、普通の直刀よりも薄くて、見た目よりも重いな。」
「玉鋼よりは重いですが薄くしている分、軽量化はできているかなと思うんですがね。」
太めの木の角材が運ばれてくる。
「巻き藁代わりに切ってみますか?」
「ふむ、直刀じゃと反りがない分勝手が違うんじゃがな。」
軽く巻き藁を一閃……斜めに切り落とす。
「ふむ、薄いが手応えは悪くない、見た目は頼りないんじゃがな。」
「強度も粘りも玉鋼以上なんですがね、刃で受けなければ日本刀で折られることはないでしょうね。」
「まあ、腕前次第ということかの。」
軽く一閃、鉄の棒を切り落とす。
「お見事、それ鋼の棒ですよ。」
「ふむふむ、目に入れれば、岩位なら切れそうだな。」
「それができるのは達人位ですよ。」
「わし、剣聖じゃし。」
「あーそういえばそうでしたね、鉄鉱石ならありますが切ってみます?」
「いや辞めとく反りがないとやはり扱い辛い、鋳物なら反りを最初から入れてつくれば良かったのではないかな?」
「機械研ぎでないと刃を入れられないと思ってたんですがね、割と簡単に研げましたよ、次は反りを入れて作ってみましょう。」
「体の中心から手の先までで弧を描くように反りをいれるのじゃ長ければ反りは小さく、短かければ大きくな。」
「疋斬りとはまた違うんですかね?」
「そうじゃのう、まあこの薄さで折れないならただの振り払いでも骨位は断てるじゃろ、反りがあればワシなら皮鎧など無いに等しい。」
「ほーすごいすごい、後でやって貰おう。」
「少しは敬え、逆にこれだけ硬いなら棒として使えば十分武器になると思うがな。」
「棍ですか、槍の柄としては中空にしないと重過ぎるかな。」
「いずれにせよ達人ならばこの刀相手でもそれ程苦にせんがな、足軽相手なら良い武器になるだろう。」
「まあ、優位性はそんなものでしょうね、大軍で運用して効果が見えるかな?って所でしょうか。」
「足軽同士が刀で切り合う場面があればの話じゃがな。」
「なるほど、無意味ではないが重要度は全くありませんね、やはり最初の予定通り恩賞やお揃いの装備品程度かな。」
「斎藤衆にとっては良い武器になるだろう、良かったのう使い道があって、わしにも細身で薄い奴一本くれ。」
「軽く反りいれます?」
「いや直刀で良いぞ、お主が言っておった様にそれなら杖に仕込んでも重くならんのではないか?」
「……なるほど、何本か強度も含めて試作してみましょう。」
◆◆◆
「一号棟の解体は進んでいるようですね。」
工場長 「はい、点検の実習も兼ねて一度全部ばらしております。」
「熱膨張でクラックの入ってる奴は取って置いて打検のサンプルに使いましょう。」
「音の聞き分けですか?」
「入ってないのも置いておけば、聞き分けもし易いからね。」
「わかりましたそのように、それからそろそろ二号棟からの製品を八戸港に輸送をしませんと倉庫から溢れますぞ。」
「ヤレヤレあっという間に貯まるなあ、生産力がありすぎるのも考え物だな。」
「これでも最低の生産量なんですがね、年間の作業の大半が解体とメンテナンスですからな。連続操業する必要も今はありませんし。」
「まあ、技術向上を図っておいてよ、鉄鉱石やくず鉄の輸送はまだまだ先になりそうだし。」
「コークスも溜まってきております、一ヶ所に置いておくのはそろそろ安全上どうかと。」
「うーん、輸送能力を上げておく必要があるか、八戸港との間を結ぶ駅馬車を作っておくかな?スラグを使って敷石にして鉄道用線路を引く……いずれは機関車を走らせるとして広軌で設計しておけば後々……鉄道を引くなら専用の工具もいるなあ。」
「最初から直線で道を作って置いてよかったな、三キロ位なら線路をひく位の鉄もあるからな。」




