転生者
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「殿、言われていた詳細はここに。」
「すまんな、聞きにくいことだし、留守がちになる爺や俺が聞いたらすぐバレるからな。」
「いえ、ではこれで。」
留守居の多い連中に調べて貰ったが、やはりというか、ねえ……
三戸城から戻ってきたら話をしてみるかね。
「悩んでおるようじゃのう。」
「剣聖の爺さん、おっともうそんな時間か。」
「掻き回すのは得意でも、収めるのは苦手かな。」
「まあね、特に女性関係はね、爺さんこそ無手勝流なんだから戦わず収めるのは得意なんだろ助言をくれ、切実だから早く。」
「この時代の男は、そう言う事で悩まんものじゃよ。」
「……なる程、忠告いたみいるねっ。」
懐から拳銃を取り出して卜伝に向ける。
「ふむ、それが拳銃と言う奴かな。」
「拳銃を知っている割に余裕ですね。」
「弾が入ってないからのう。」
「ヤレヤレ、ハッタリも効きませんか。」
拳銃を卜伝に放る。
「殺気が無いのは致命的じゃな。」
「その口ぶり転生者を知っているのでしょう。」
「まあのう、転生者と言うのかお主のように生まれながらにして知識を持っておる者は。」
「新田家が離れた事で気が抜けていたようだな、で如何したいんですか。」
「特に何も、ワシの知っている転生者と言う奴は仕官したのはよいが、農政で失敗を続けて打ち首になったのう。」
「爺さんの知り合いとなると三十年ぐらい前かな?もろ気候変動期に農政改革してもね、アフリカで失敗したNPO法人みたいな事を、気候風土が違うんだから現代日本の農業がそのまま通用するわけが無いって……わからないよね実際、ベテラン農家でもアフリカで失敗してるんだしな。」
「そ奴が死ぬ間際こんな時代とか得意分野が違うとか見苦しく叫んでいたのでな、時代と言う言葉を憶えていたのだろう。」
「農家のいうことを聞かなかったんだろうかね?山から吹き下ろす風で作物が全滅するとか小氷河期なら当たり前、戦国時代の農業は現代日本の農業より何倍も難しいのにね、合掌。」
「ふむ、転生者と言っても持っている知識に随分差があるのだな。」
「まあね、空腹の辛さを知っている者にしか食べ物のありがたみはわからないものさ。机の上の知識だけでは駄目さ、実際に汗をかいて現場で使える知識を身につけなければね。」
アフリカで一から工業プラントを立ち上げるより、南部領で小型高炉を作る方が遙かに簡単だとは思わなかったがね。
「まあそれは、それ、これは、これと言うわけで助言をくれ。」
「お気楽な奴じゃのう、あの子の好きにやらせたらよかろう、その位の度量を見せるのも領主の仕事じゃぞ。」
「巴御前化してしまう……」
「わしの地元では女武者はそれほど珍しいものではないぞ、南部だって結構おるでは無いか、現に当主の奥方など……。」
「ちょっと待て、当主の奥方がなんだと?」
「有名な女武者ではないか、畠山合戦を知らんのか。」
「生まれる前の合戦なぞしるか、まあ合戦があったのは知ってるが活躍した一人一人までは記録に残ってないではないか。」
「個人の活躍なぞ滅多に記録には残らないものよ、ただ常陸にまで噂が広がるのだからかなりの腕前なのかのう。」
「何だろうか、このやっちまった感。いやな予感がプンプンするよ。」
「ほれ、刀を見に行くのではなかったのか?」
◆◆◆
八戸領 鍛冶丁
「熊八いるか、刀を見せてくれ。」
「おお、この間の玉鋼なら二振り完成してるぜ、見本と合わせて三振りだ。」
「見本?」
「水車を使って均一に叩いた、面白味の全くない見本品かな?」
「均一に叩いた?」
「相槌を入れて炭素を飛ばす必要が無いからな、波紋の出し方の見本として作ってみた。」
「どれ……確かに綺麗に波はでているが重心の位置とかめちゃくちゃじゃのう。」
「まあ、俺作ならそんな評価だろうね。」
「お主の作か、並みの刀鍛冶でも没じゃのう、溶かしてから再生じゃな。」
「更に辛くなったか、まあ良いこちらの刀を見てくれ。」
「ていうか、この上質な鋼はなんなんじゃ。」
「玉鋼と硬鋼を芯鉄と刃に、皮鉄は粘りやしなやかさを出すために、炭素の量を調整しているがね。色は白銀になるように成分調整してある。皮鉄は濃い色にすることもできるぞ。」
「成りは見事だが、いまいちじゃな。」
「理由は?」
「作り慣れてないじゃろ迷いが多すぎる。」
「時間経過の問題かな……まあ、年間五十本も打てば一流になれるかな。」
「一流の刀鍛冶でも打てても精々年間六本程度じゃぞ、鋼が殆ど手に入らないからの、皆材料集めに必死じゃわい。」
「上質な材料は名工の元に集まるか……」
「売れない刀鍛冶を連れて来て好きなだけ打たせたら……」
「どんだけ鋼を持ってるんじゃ。」
「裏に積んであるよ、玉鋼だけであと五振りはいけるな。」
「玉鋼だけで作るなよ硬いだけで役に立たん、まあ冗談なのはわかっているがね。」
「ふむ、鋼を分けてくれるなら、刀鍛冶を紹介しても良いぞこれだけ上質な鋼なら首を縦に振るじゃろう。」
「炭も大量に付けるからうちにきてくれないかな?」
「鎌倉に確かうだつが上がらない奴がいたな二代前は見事な腕前だったのじゃが。」
「いや、紹介するなら名工にしてよ。」
「そんな奴他家が手放す訳なかろう、まあ血筋は確かじゃ。」
「うわー三代目ボンクラの法則が当てはまりそうだなー。」




