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せんぱい、愛想が大事っす

 俺には面倒をみている部下が他にも何人かいるが、フェイとはコガリオオグモ駆除の班を組んでいるせいか顔を合わせることが多い。

 

 座学の成績はビリケツだが、戦闘能力の高さは二等兵の頃から群を抜いていたこいつを選んだのは、まぎれもない

「俺だったか……」


「なんなんすかぁ、さっきからぁ。ここへ来るのなんて女の子を恋に落とすことより簡単っすよ。見張りのマルクスとはもうダチっすから、オレ」

 

 犬のようにあちこちで愛想をふりまきやがって。それにマルクスはお前より上の上等兵だぞ。だいたい女を落とすのが簡単なら俺がこの歳まで独身なわけないだろうが。


 心の中で思いっきり悪態をつきながら、ヘラヘラしているフェイをギロリと睨んだ。


 フェイが頻繁に俺の個室に出入りしているせいで、最近ではおかしな噂まで立ちはじめているのだ。今年で三十になる俺の婚期はますます遠のくばかりだ。


「そういえば、カーラが話したいことがあるとかないとか言ってたな」


「どっちっすか。話ってオレにですかね? って、せんぱい! もうこんな時間っすよ! またアイザック准尉の雷が落ちるっす!」


 あたふたと取り乱すフェイにつられて、机上に散乱している資料をかき集める。


 ふと一瞬、その中に違和感のようなものを感じたが、小姑准尉と影で呼ばれているアイザック准尉のつり上がった目が頭によぎって、その違和感はすぐにどこかへ消えてしまった。


 *


 翌日の夕刻。

 相変わらず今にもはずれそうなカーラの家の扉を開けた俺たちの前には、なんとも異様な光景が広がっていた。


「……なぁ、フェイ、嵐が来たなんて誰か言っていたか?」

「聞いてないっすねぇ。ここ数日は天気がよかったっす」

「そうだよな――――」


 二間続きの造り、その奥の炊事場からドタンドタンと複数の足音が響いてきた。


「待たんかあぁぁぁ!! こんのクソガキがあぁぁ!!」


 右手にほうきを握りしめ、顔を真っ赤にして飛び出してきたのはカーラ。櫛通りのいいはずの髪はぼさぼさに、魅力的なはずの大きな目は獣の如くぎらぎらと光っている。余裕がないのかこちらに気づく様子もなく、ぜぇぜぇと肩で息をしている。


「やーい! クソババァ! こっちだよーだ!」


 カーラの後ろからひょいと体をのぞかせて叫んだのは小さな男の子。


 カーラは「おのれえぇぇぇ!」と叫びながらほうきを振り回し、また炊事場の方へと姿を消した。


「なぁ、フェイ」

「はい」

「あの子供は、おとつい天使みたいに眠ってた子だよな」

「はい、そのようです。まるで派手な姉弟喧嘩を見ているようですね」

「なぁ、フェイ」

「はい」

「……お前、驚くと敬語になるんだな」

「えぇ、そのようですね」





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