せんぱい、軽蔑します
あんな所へ持って行ったら何をされるかわかったもんじゃない。ハイエナのような研究者たちが涎を垂らして待っているだけだ。
「……報告書には適当に書いておけ」
暫し押し黙った後、大きな深緑色の目をさらに大きくしたフェイに言った。
「う、うそでしょ? ……え、せんぱい、も、もも、もしかして――――」
「カーラのババァんとこへ行く。この先だ。それよりフェイ、お前臭いぞ」
「ふぇっ? おかしいな、ちゃんと下着で拭いたのに……」
森の北。そのはずれに古びた家がある。
家というよりも小屋に近い。板葺の屋根は所々修理された形跡がうかがえるが、明らかに素人によるものと分かる程。同じく不恰好な板を張り合わせてできている壁では、コケやツタやらが緑色の陣取り争いを繰り広げている。
「ババァ、いるか?」
小さな木の扉を足で乱暴に開け放ちながら、一応形式的に在宅を問う。まあ、挨拶がわりだ。
今にも外れそうな錆びた蝶番が、ミシミシと鳴いた。
「ん? お孫さんですかねぇ? ……あっ、えっ? ちょっ、ちょっちょっちょっとせんぱい!」
「なんだ。あ! おい! ひっぱるな!」
「ちょっとせんぱい! いくら年下が好きだからってこれは犯罪っす! せんぱいにこんな趣味があったなんて……しかも男も女も見境なく! オレ、せんぱいのこと尊敬してたけど、今残念な気持ちっす!」
フェイの指差す先には、幾何学模様の絨毯の中心にちょこんと座った幼女の後姿があった。
「はぁ?」
「いやね、確かに年下はいいっすよ! ピチピチしてて何してもかわいい……。だけどこれは行き過ぎっす! だからせんぱいはいつまで経っても嫁も貰わずにいたんすね。こんなことなら手遅れになる前にオレが女の子紹介しときゃよかったっす。いっぱいいたのに……」
「……このバカ野郎! お前さっきから何カン違いしてるんだ! だいたいなぁ、俺の好みは年下じゃない。年上の……俺をちゃんと叱ってくれるのが好みだ!」
「ええっ!? 年上!? それはまたーーーー」
「うるさいのぉ。扉の前でごちゃごちゃと。開けたら閉める。基本じゃろう」
甲高いがドスの効いた声が突然投げつけられ、フェイはびくりと体を強ばらせた。
「は、はい! すみません! しかしおばあ様、お姿が見当たらないのですが……」
妙に改まる部下に冷えた視線を注ぎながら、俺は大きな紫色の瞳でこちらを睨んでいる幼女を指差した。
「フェイよ、あれがカーラのババァだ」
「……えっ?」