絶景ノ、地
ああ、と俺は肩を落とし果ての見えない赤黒い大地を見渡した。
どうやら勘違いをしていたようだ。一年にスカーフの幅所じゃない、腐人沼はものすごい速さで広がっている。湖のように突然現れるわけでなく、少しずつ大地が変質していくんだ。
俺が幻覚を見たのも、小男が飲み込まれたのも、ここに『意思』が存在しているから。腐人沼はもう俺たちを認識しているんだ。
俺たちはすでに腐人沼の上にいるんだ……!
「うっひょおーっ! 絶景っすよおぉ!」
明る過ぎる声に振り向くと、頂を制覇した登山家さながらに登りきった泥の上でフェイが深呼吸をしていた。そのまま敷物を広げて弁当でも頬張りそうな勢いだ。
し、信じられない。こんな悪臭の中であんなことしたら肺が爆発しちまうぞ。
「うっっ! む、無念……」
ほら、やっぱりな。
「何やってるんだお前は」
まとわりつく泥の斜面を勢い任せに登ると、ベチャっと音を立てて倒れた命知らずに呆れ返る。
「いやね、出発する時に旅を楽しみましょうってオレ言ったでしょ? 初心を忘れちゃいけないと思って。てへ」
「舌の先まで真っ青になる奴は初めて見たぞ。でもまあ、こいつはある意味絶景かもな」
穴だらけの大地に目を見張る。どうやら落ちた隕石は一つどころではなかったらしい。巨大な窪みはそこかしこに散らばり、腐人沼を一層奇怪な景観にしている。表面の泥はゆったりと移動し、溶け始めた骨や臓腑の切れ端を少しずつ少しずつ内側に取り込んでいる。
「あれあれ? この絶景を楽しんでる人が他にもいるみたいっすねぇ」
フェイが指をさした先に黒い人影が見えた。ひとつ、ふたつ…いや、幾つも見える。
ゲテモノ好きってやつは意外に多いのかもしれない。それとも人間ではなくて小男のような謎めいた生き物なのだろうか。
しかし俺の目はちょっとばかりおかしくなってしまったようだ。




