部下をわすれるな
「……まずい、フェイを早く探さないと!」
蜘蛛の子やラスティンのことで頭がいっぱいで、ちょっと忘れてたなんて言えやしない。
座り込んだままの俺の前に小さな手がすっと差し出された。
「フェイお兄さんを探しに行こ。ボクも手伝うよ」
この世に天使というものが存在するのならば、ラスティンがそうなのかもしれない。
遥か頭上の水面から降り注ぐ柔らかい光を受けて、水魚が銀色に舞う。その中で満面の笑みを携え佇む男の子は水世界の天使。ああ、少なくとも俺にとってはそうなんだ。
ふと、ラスティンの背中に可愛らしい小さな翼が見えた気がした。
彼の手をとることはできない。それでもその手に被さるように腕を伸ばし、俺は立ち上がった。
人の多い場所から探してみようと言ったラスティンの後をついていくと、飲食店や雑貨屋がひしめき合う大通りに出た。その喧騒は地上と大差ないのだが、人々は誰もが穏やかで柔らかな笑みを含んでいる。
罵声が飛び交うことも、下品な笑い声が響き渡ることもない。
" 平和"という言葉がぴったりと当てはまる。そんな空間だ。
地上の粗野な雰囲気の方が人間臭くて俺は好きだな……。
そんなことを考えていると、ラスティンがこちらを見上げて口を開いた。
「ここは楽園だよ。戦争も飢えもない。でもね、ボク、本当は旅がしたいんだ。宇宙を泳いでこの星を気が済むまで眺めてからいろんな星を巡るんだ。宇宙の果てのそのまたずっとずっと果てまで行けたら気持ちいいだろうなって!」
ラスティンの瞳は星のように輝いている。
「……ここが嫌いなのか?」
「そんなことないよ。お父さんもお母さんもいるし、友達だってたくさんできた。でも、ずっとここに居ちゃいけない気がするの。みんなに言うと馬鹿にされるけどね」
「そうか……。ラスティン、シュタイラは星の国だ。お前が心から望めばいつだって、星の方から呼びかけてくるさ」
青い瞳はもう一度、きらりと輝いた。




