飲んでも飲まれるなじゃ!
「ぎゃはははは!! そいで? そいであんちゃん言ってやったわけだ!」
「ああ! 俺ぁ言ってやったさ! この役立たずのウスノロってな!」
安くて妙に臭い酒が喉を潤していく。目の前の髭もじゃのオヤジは不揃いな歯を丸出しにして豪快に笑うと、何の肉だか分からない塊をその口に放り込んだ。
「ちょ、ちょっとせんぱい! 飲みすぎっすよ。こんなことしてたらカーラさんに怒られちゃいますよ」
「あ? カーラ? なんでここであのババァが出てくんだよっ! あんな奴……あんな奴知るか! いっつも俺に命令ばっかりしやがって! 畜生、俺だってな、俺だってなぁ! フェイ、酒だ! もう一杯頼め! とびきりキツイやつをだぞ!」
こんなに気分がいいのは久しぶりだ。船の上に立っているように視界が揺れているのもまたいい。
しかし隣の金髪美少年はなんでこんなに困った顔をしているんだか。
「もう! これ以上はダメっすよ。それにカーラさんはババァなんかじゃないっす。せんぱいはカーラさんのこと気にならないんすか?」
「何言ってんだかまーったく分かんねぇな! お前、あのババァに惚れたってどうしようもねぇぞ。はははぁ!」
「そういうことじゃないっすよ。あの人がこの先どうなるか心配じゃないんすか?」
心配? 何を心配するってんだ。
グラスの底に残っている酒をぐいっと飲み干す。ぬるくなったのか、それとも最初から冷えてなどいなかったのか。
「カーラさんの命っすよ。あの人は不安だからせんぱいを頼って……」
「命? 頼る? はははぁ! お前なに言ってんだ。ほら、これでも食えっ!」
「むぐっ!? な、なんすかこれ? 肉? すっごく硬い……ん? ねぇせんぱい、あの人見てくださいよ。あーんなに沢山食べ物持って。 やっぱり体の大きい人はよく食べるんすねぇ」
フェイの指差した先を目で追ったが、天秤のように揺れ動く視界の中でマトモに特定の人物を捉えられるはずもなかった。
酔った男達の幸せそうな顔が飛び込んでくる。
こんな国でもああいう表情は存在してるもんなんだな。……なんだ? 俺は安堵してるのか?
猛烈な眠気が襲ってくる。
「あっ! せんぱい!? こんなとこで寝ちゃダメっすよ!」
フェイの声が遠くで聞こえ始めた。
「ぎゃはは!! あんちゃんもう潰れちまったのかい。金髪のにいちゃん、宿はあんのか?」
「はい! 安くてなかなかキレイなところ見つけたっす。しかも美人さんもいるんすよ」
「へぇ、そりゃよかったな。あんちゃんが起きたら楽しかったって言っといてくれ! ところで何て宿だい? 俺もその美人を見てみてぇもんだ」
フン……あんな女のどこがいいんだ……。あれに比べりゃまだカーラの方が可愛げがあるってもんだ……。
「えっと、あ、『水魚の楽園』て宿っす。四本目の角を折れたところの」
「へぇ、聞いたことねぇなぁ。俺も今度覗きに行ってみるぜ」
フェイと髭もじゃオヤジの声は、これを最後に聞こえなくなった。




