おっぱじめようぞ!
呆然自失していると、すかさずフェイがカーラから裁ちばさみを受けとり、不揃いな後ろ髪を切り揃えていく。その手さばきたるや、なんとも大胆でいて繊細。
こいつにこんな才能があったとは……。
「はーい、完成ー! せんぱいかわいいっす!」
「うむ? なんじゃ、悪くないの……」
「ジジィ、まあまあだぜ!」
「え? あ、うん。そ、そうか?」
一応褒められているのか? なんだかくすぐったいぞ。
頭の後ろに手を回してみると、長かった髪は消え上手い具合に梳いてある感触がした。頭全体も軽くなった気がする。
カーラは満足げな表情で俺を見上げると目を細めた。
「よし! ではさっそくおっぱじめようぞ!」
「なんだ? 何する気だ?」
聞こえていないのか聞いていないふりなのか、がしゃんがしゃんと音を立てながら彼女は棚から商売道具を次々と手に取っていく。白磁の皿に黄金の水晶、刻印のある石と燧。
「カーラさん、占いっすか? 占いっすか? わあぁ楽しそう! オレも何か手伝うっす!」
「うむ! 変態は下がっておれ!」
……一体何を占う気だ?
フンフンと耳に入ってくるのは興奮したカーラの鼻息の音。
「ホマン! これからおぬしの未来を占ってやろうぞ! 迷える者を髪の毛一本からでも導ける、わしはこの国一の占術師じゃからの!」
一刀両断された毛束が、拡げられた麻布の上にどさっと乱暴に置かれた。
可哀相な俺の髪だ。
「カーラさん、未来ってせんぱいの結婚相手とかっすか?」
「へっ、ジジィの未来なんてきょうみないね。ぼくは今日のよるごはんが何か知りたいぜ」
やいのやいのと騒ぐフェイとニコを、カーラの目がギロリと睨む。
「フェイよ、そんなつまらんことを占ってどうなる。まあ、そういうことを知りたがる愚者は多いがな。ニコ、今日の夕食は水魚の香草蒸しじゃ。スープはおぬしが作れ。さあ、静かにするんじゃ」
彼女は早口にそう呟くと、すぅとひとつ息を吸った。そして濡れたように艶めく数多の小石を布の上にぶちまけ、その中心に黄金の水晶を立てた。蜂たちが死にもの狂いで集める甘美な密。それはそんな色をしていた。




