第二章 この変態どもめが
滑らかな額に浮き出た青スジ。
それはカーラに気づかれずにワンピースを返すことをしくじった証拠だ。
「どうりで探しても見つからんかったわけじゃ」
「このへんたいどもめが」
「しかも何の収穫もなしとは」
「ほんとうにおまえらやくたたずだな」
俺は眉をピクリと動かす。
「ちょっと待てニコ、変態はそこにいるフェイだろうが。カーラ、収穫だってあったぞ! 言っただろう大変な目に合ったって! って言うかいつの間にお前ら仲良くなってんだ」
腕組みをして仁王立ちしている子供が二人。そしてそれに怖気づく大人が二人の情けない図が出来上がっている。
「カーラさん、カーラさん、オレは変態なんかじゃありませんよ! ちょっとせんぱい、変なこと言わないで下さいよ。せんぱいだって匂い嗅いでたじゃないすか」
「はぁ? 誰がだ! 大体お前がゲロ吐いたのが悪いんだろ? それ洗濯したのだって俺だし、お前のせいで軍服一着ダメになったんだからな!」
カーラの表情が一瞬にして固まる。
「……匂い? 嗅ぐ? ゲロ……?」
その直後、俺とフェイはすねを押さえてうずくまる羽目になったのだが、カーラの復讐はこれだけで終わらなかった。
「なぁ、ホマンよ。おぬし頭が重そうじゃの……。どうじゃ、そろそろさっぱりしてみんか?」
まずい。これは非常にまずい……。
思わず後ろに束ねた髪に手をやり、二歩後ずさったところでニタついているフェイにぶつかった。
「うふふ。せんぱぁい、今どきそんな髪型モテないっすよ。絶対にヨクなるっすから、カーラさんヤッちまいましょう!」
「なっ……! 元はと言えばお前がっ、やめろ! 痛っ!」
フェイは俺の両手首を掴むとひねり上げ、流れるような身のこなしで背中に馬乗りになると、
「さあ! カーラさん! どうぞ!」
と茶目っ気たっぷりに叫んだ。
まずい。カーラが見たこともないような悪い顔になっている……!
きらりと光ったのは彼女の手に収まっている大きな裁ちばさみ。
「あぁああぁぁぁぁぁ――――――!!」
断末魔の叫びと、歯切れのいい音が部屋中に響き渡った。




