第2話.彼、彼女の昔の事情
誰かが言った。朝だと
その声で、いつの間にか太陽が昇っていたことに気が付いた
あれほど鳴り響いていた警報も、大人たちが争う音も消えていた
だけど、昨晩の悪夢はいまだに私達に色濃くこびりついていて、恐怖と疲労で誰もその場を動けなかった
なにより外に出ればどうなるか分からなかったから、私たちは誰も動けないままだった。
そのとき、呼ばれたような気がした
そう感じたのは私だけではなかったらしく、他にも何人かが不思議そうに辺りを見回している
その人数は次第に増えていって、ついにその中の一人が誘われるようにドアを開けた
まず最初に感じたのは空気が違うということだった
いつも感じていた消毒臭交じりのものではなく、かといって昨夜のような血や火薬の臭いでもない
あえて言うならば空気が濃いとでも言うべきだろうか?
次の瞬間、不思議な衝動が私の体を走った
その衝動に導かれるままに外を目指して走り出す
気が付けば他の皆も走り出していた
そして、ドアの先に広がる光景に私達は―――――
「なるほど、研究所の皆がこの世界を訪れた最初の人間だったと」
「もちろん私達の知っている範囲内で、だけど」
「とするとこの世界の人類の歴史というのはおよそ10年前からはじまったということになるんですか?」
「私達の視点からだとそうなるかな」
「なるほど」
その話を聞いて納得したという風に頷く天真。そこで美亜が疑問の声を上げる。
「ちょっと聞きたいんだけど、研究所っていうのはどういう意味?」
「ああ、そこから話さなければなりませんね」
そう言って美亜の方に向き直る。
「私達は孤児なんですよ」
「え? でもお姉さんが居るとか言ってなかった?」
「私は養子なんです。それで、義姉は私が養子に入った家―葉上―の実の子供です。家に入ったのは大体6年になりますか。それより昔の10年前、8歳の時まで私や雪を含めた皆は研究所で生活をしていたんですよ」
そこで今度はハヌマーンが疑問の声を上げる。
「孤児だったって言うのは分かったけど、研究所ってなんだ? 孤児院じゃないのか?」
「ああそれはですね、私達は実験体として秘密裏に集められた子供だったんですよ」
さらりと述べられた事実に、美亜とハヌマーンは一瞬その意味を掴みかねる。ようやく理解が追い付いた時には驚愕の声を上げていた。
「じ、実験体?」
「ええ、場所は日本のどこかということしか分からないんですが。今思いだすと、山奥の私有地を切り開いて研究のためにわざわざ街一つ作っていました」
「そ、そんな事さらりと言われても……」
「やっぱり、普通はそういうことは表に出てこないから。いきなり実験体とか聞かされたらびっくりするわよね」
唖然とする二人と、なんでもないように振舞う二人。じつに対照的な構図である。
「結構闇の奥深くに関わっていた所みたいで、魔術の実験なんかもやっていましたね」
「……元の世界の出来事なのよね?」
「はい」
「……な、なんか聞いてはいけないことを聞いている感じが」
「大丈夫よ。街ごとこっちに来た時に向こうの権力者とは縁が切れているから、もう狙われることは無いわ」
「狙われるって……」
「まあ向こうでこの話を聞いていたら消されていたでしょうね」
世界の暗部を覗いてしまった二人は言葉も出ない。
「でも、あの、嫌なら言わなくていいんだけど。実験体ってやっぱりその改造とか」
「ああ、大丈夫です。私達は漫画などにあるように切り刻まれたりはしていませんから」
「あ、そうなんだ。そうよね、いくらなんでも現実にそんな」
「せいぜい電流を流されたり、軽めの投薬を受けたりしてただけですし」
「後はいろんな検査かな?でも私達は本格的な人体実験の前にこっちに来られたから、その意味では運が良かったのかもしれないね」
((十分やばいってそれは……))
朗らかに笑いながらかなり際どいことを話し合うどこかずれた二人に、美亜とハヌマーンは沈黙することしか出来なかった。ぶっちゃけこれ以上突いて生々しい話を聞きたくなかった。
「あれ? じゃあ何で天真だけ元の世界に残っていたんだ? 二人は同じ場所にいたんだろ?」
「それはおそらく皆がこちらに来た時期に、私だけ他の場所で検査を受けていたからだと思うんですが。何分当時の記憶があいまいで」
眉間にしわを寄せて当時を思い出そうとする天真。
「うん。私達がこっちに来た数日前に天真は別の場所に検査に行っていたの。それで、天真だけが向こうに置き去りにされる結果になったわけだけど……」
「運が良かったのか悪かったのか分かりませんねえ」
「たぶん、良かったんじゃないかな。だってこっちに来る日の夜明け前に研究所は襲撃にあっていたから」
「襲撃!?」
物騒な単語に驚いた声を出すハヌマーン。美亜も驚いている。だが、
「ああ、やはりそちらも襲撃されていたんですか」
「じゃあ天真のほうも」
「ええ、なんだか黒ずくめの人たちが踏み込んできまして、対立陣営か何かと思いますが。おそらく関係する場所は軒並み襲われたんじゃないですかね」
「……こう言っちゃ何だけど、よく二人とも生きてたよな」
「私達は途中で研究所ごとこっちに来たから。皆ものすごく混乱して、それで人間同士で争っている場合じゃないって話になって」
「ちなみに私は隠れてやり過ごして、まあその後色々あったと言った所でしょうか」
「……あなた達、どういう人生を送ってきてるのよ」
もはや驚きを通り越して呆れた顔の美亜。ハヌマーンも同じ意見のようだ。
「ちなみに皆は元気なんですか?」
「うん。レオも花音姉さんも樹兄さんも青も龍も立派に王様をやっているし、他の皆も元気よ」
「それはぜひとも会いに行きたいですね」
「じゃあ今度皆に会いに」
「ちょっと待って」
制止の声にきょとんとする二人。見ると美亜がなにやら眉間に手を当てて悩んでいる。
「美亜、どうしたの?」
「あの、今5人くらい名前が挙がって皆王様をがんばっているとか言ってたんだけど。それにさっき私だけじゃないって言ってなかった?」
そこでいったん口を閉じ、恐る恐るといった面持ちで改めて問いかける。
「もしかして他の5人の王も天真の幼馴染なの?」
「? そうだけど。私達は同じグループの友達だったから」
あっさりとスノウ。
「……まあなんとなく予想はしていたのよ? でも実際にそうだって聞かされると」
「なんとも言えなくなるわなあ」
「「?」」
意味が分からないのかきょとんとしている天真とスノウ。まあ、こっちも何と言っていいのか分からないからしょうがないだろう。
「……まあその辺は置いておくとして少し真面目な質問をしたいんだけど」
「何かな?」
少し表情を改めてハヌマーンが問いかける。その空気に触発されて、他の3人も気を引き締め直す。
「何で、スノウちゃんたち研究所の皆はこっちの世界に来ることになったんだ?」
それはおそらく核心に繋がる質問。その問いを受けたスノウは目を閉じて沈黙。そのまま数秒。そして、己の中で何かを整理し終えて口を開く。
「まず最初に言っておきたいんだけど、私達でもなぜこちらの世界に来てしまったのかは明確には分かっていないの」
全員無言。スノウは先を続ける。
「でも私達と一緒にこっちに来た研究所の研究員さん達が何年か調査と研究を続けて、ある程度の推論は得られているわ。だからこれから話すことは真実じゃないかもしれないけど限りなくその可能性が高い推論。それだけは最初に覚えておいてほしいの」
「……分かりました。話を続けてください」
天真の言葉に頷き、ゆっくりと話し始めるスノウ。
「まず最初にこの世界は何なのかという所から話さないと先に進めないから、そこから話すわね。この世界は、元の世界より高次の次元にある。というより、元の世界の一部を切り取って今の次元に封印したといったほうが正しいかな」
「……世界を切り取るとか封印とかってそんなことできるの?」
「人間には無理だと思うわ」
美亜の当然の疑問にあっさりと否定の言葉を返すスノウ。
「じゃあ誰がやったって言うの? まさか神様がやりましたなんて事になるんじゃないでしょうね?」
「調査した人たちはその可能性が高いって言っているわ」
「そんな真顔で突拍子も無いことを言われても……」
困惑の声を上げる美亜に天真が待ったをかける。
「美亜さん、神や悪魔と呼ばれる存在は実在しているんです」
「……マジ?」
「まあ完全に伝承通りの姿ではありませんが、少なくとも闇の世界ではそう呼ばれている存在がいる事は常識です。ちなみに私も何度か会ったことがありますよ」
「いやそんなあっさり言われても」
「ついでに言うと彼らは魔力のみで構成されている高次の情報生命体で、一部を除いて天界や魔界などといわれている自分たちの世界からあまり出てきません」
「……現実がますます2次元に侵蝕されていく感じがするわ」
「まあ気持ちは分かります。ここではそういうものがいるということだけ覚えておいてください」
告げられた事実にもういっぱいいっぱいの美亜は、必死になってその情報を消化しようとしている。
「しかし、今の天界がそれほど大それた行動を起こすはずもありませんから、この世界が封印されたのは何千年も前だということになりますね」
「うん。調査でもそういう結果が出ているって」
「そうすると中央のあれは本当にバベルの塔でこの世界は正真正銘、聖書に記述されているシナルの地なのですか」
「さっきも言った通り、確証は無いけどそうかも知れないって調査した人達が」
神話に語られている世界に自分がいる。なんとも不思議な感慨があるなあと天真は思った。
「まあ色々言いたいことは有るけど、この世界が聖書に記述されている場所かもしれないって言うのは分かった。それとスノウ達がここに来た原因とどう繋がるの?」
「ここは数千年の昔から当時のままだったから、古い力に満ちている。言い換えると大気に魔力が満ちていた時代のままなの」
「つまりこの世界は金の時代、銀の時代のままであると。確かに、いやに大気が濃いと思っていたんですよ」
「金? 銀? 何のことだ?」
「あー私もあまり詳しいことは知らないので専門的なことを省きますと、要するに地上で神様などが真面目に働いていたのが金の時代、その後神様が引きこもって魔法使いが幅を利かせたのが銀の時代です」
「な、なんかものすごく乱暴な解説の気がするけど。えっと、つまりこの世界はものすごく昔のままの状態なわけね?」
「端的に言えば」
そう言われてもあまりぴんと来ない美亜とハヌマーン。ここが神代の時代からそのままなのは分かったが、それがいったい何だと言うのだろう。
「で、そんな大昔は大気に魔力と呼ばれるエネルギーが満ちていたんですよ。それこそ言葉一つで何かしらの現象が起こせるほどに」
「え? じゃあそういう昔の環境だから、ここではただの人間である私達でも簡単に魔術が使えるということ?」
「半分正解」
「半分?」
スノウの言葉に首をかしげる美亜。魔術が使えることにまだ何か理由があるのだろうか。
「もう半分は後で説明するわ。それで私達がこの世界に来られた理由だけど、この地が魔力に満ちていたことがその原因の一つなの」
「それはどう言う事なんだ?スノウちゃん」
「研究所に集められた子供達はその殆どが魔術的な素養に恵まれていたの。言い換えれば実験体って言うのは皆何らかの魔術的な力を持っていた。そしてあの襲撃の夜、命の危険に直面した皆の意識は一つの思いに集約した」
ゆっくりと当時を思い出すように語られるスノウの言葉はただひたすらに重かった。
「逃げたい、ここではない何処かに。自分達に痛みしか与えない世界から、別のやさしい世界へ。何百何千という子供の命がけの純粋な願いは大きな力となり、世界の境界を越えてこの封印された地に届き、それが呼び水となって研究所ごと転移した。それが現在の私達の結論」
朝「二刀武器だと手数が多い分攻撃力が下がるんだが、攻撃重視にしたほうがよいだろうか。後命中、回避も上げておいた方が……」
天「勉強しなさい」
朝「抜き身を首に当てないで!? わかったから、ちゃんと勉強するから」
天「よろしい」
朝「ふう。あ、ところで先週からネット小説ランキング様に登録したんだけど」
天「その日からアクセス数が1日1000件を軽く超えましたよね。感想、評価もたくさんいただきました。読んでくださっている皆様、ありがとうございます」
朝「うん、それはいいんだけど……」
天「ついでに文章の書き方や、誤字脱字に関するご意見がかなり送られてきましたよね」
朝「うん。自分の文の汚さに首をくくろうかと思った」
天「完結させてからくくってください」
朝「……」
天「ああ、もう。そんな隅で膝を抱えない。読者の皆さんはあなたのためを思って言ってくれているんですよ」
朝「それはわかってるんだけど。3月は色々とあるから文章修正に時間を回せないのが心苦しくて」
天「ああ、そっちで悩んでいたんですか」
朝「せっかく指摘してくださっているのに、手を付けられなくてすみません」
天「まあ色々と忙しい時期でもありますしね」
朝「いずれ時間を作ってまとめて修正いたしますので。それまでお見苦しい文章ですが、どうか堪忍してください。」
天「ちゃんとやってくださいね?」
朝「休日が取れれば。さて、今回はこのあたりで」
天「それでは皆様また次回」




