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第7話.白猿、舞う

 試合は順調に進み、とうとう決勝戦が行われていた。


 中央リングの上で、勝ち残ったハヌマーンは余裕の表情を見せながらも隙無く相手を観察している。


 ダークホースとして当初無名でこの大会に臨んだ彼は危なげなく試合を進め、とうとうこの決勝の舞台にまでたどり着いていた。一方そんな彼の対戦相手、予選の時から優勝候補として名前が挙がっていた、昨年準優勝のクロトという名の魔族もじっくりと見定めるようにハヌマーンを凝視している。


「……相手は魔術師タイプだけど、確かに簡単には動けないわよね」


 膠着状態に入った二人を、観覧席から美亜が見つめていた。先程の呟きの通り、相手のクロトはここまでの試合を見る限り魔術を主な攻撃手段として用いる魔術師、言ってみれば典型的な後衛タイプ。だが、主な出場者が武器で直接相手を攻撃する前衛タイプであるこの大会で、接近戦が苦手なただの魔術師が勝ち残れる訳が無い。クロトがここまで勝ち残ってきたその理由は……


「はっ!」


 ハヌマーンが裂帛の気合を吐出し、高速でクロトの懐に跳び込んで行く。構えた棍を下段から逆袈裟に振上げる。クロトはそれを冷静に見定め棍の軌跡上に自らの手を重ね合わせる。そして、棍が手に触れるか否かというところで―――



 ガキンッ!!



 金属音と共に、棍と掌の間に光が弾ける。不可視の壁にぶつかった棍は弾かれ、ハヌマーンはその勢いで姿勢を崩す。そこにクロトがもう一方の掌を向け、


「炎弾」


 呟きと同時に掌から放たれる無数の炎の弾。一つ一つの大きさは野球のボールより小さいくらいだが、その数と速度は十分に相手を捕える―――


「っとと、らあ!」


 前にハヌマーンは弾かれた勢いに逆らわず、むしろその流れに乗って体を捻りながらクロトの側面に回って炎の散弾を回避する。と、同時に唸りをあげて今度は即頭部を狙って繰り出される一撃。


 それを再び掌を使って防御するクロト。2撃目も防がれたハヌマーンはそのままバックステップで距離を置く。その様子を見て追撃を止めるクロト。再び間合いが開き、両者共に動かなくなる。


「魔術の詠唱破棄及び防御魔術と攻撃魔術の同時使用。いくら魔術の使用に特化した魔族と言っても、ここまで芸が細かいのは将軍クラス以外で聞いたこと無いわね」


 この世界で魔術を使用するためにはイメージと詠唱が重要になってくる。まず発現させたい事象を脳裏に強く思い浮かべて、その後にその事象を言葉にするのだ。例を出すと火の魔術を使いたい時には脳裏に火を思い浮かべてから火に関係する言葉を口に出せばよい。このとき単純に“火”と言うのも良いが、“燃えろ”や“発火”などでも良い。より強く内面のイメージを喚起できる言葉であればその分だけ発現する事象も大きなものとなる。そしてその言葉は、長ければ長いほど魔術は強力なものになっていくことが分かっている。


 そしてこの詠唱には定められた呪文があるわけではなく、例えば上記の例で“水”と発してもイメージが火であれば火の魔術が発動する。このような場合、通常は火のイメージが水と言う発言により阻害されて、威力は本来のものより低くなる。ただし、水と言う発言で火のイメージが阻害されない、ようするに水という発言で火をイメージできる場合には威力の低下は起きない。


 言ってみればイメージが弾丸で詠唱が銃身と言ったところか。イメージが強固であるほど弾丸も強力になり、詠唱がそのイメージに合えば弾丸と相性の良い銃身が用意され、その詠唱が長ければ銃身もより性能の良いものになる。


 そして詠唱破棄というのは詠唱無し、つまりイメージのみで魔術を発動させる方法であり、簡単に言うと銃弾をそのまま素手で相手に投げるようなものなのである。もちろん、この場合その威力は詠唱がある場合に比べれば極端に下がるどころか、ほとんどの魔術は発動すらしない。しかし、術者が一定以上のレベルであった場合、イメージだけで詠唱有りの場合と同等の威力、精度で魔術を発動できることがある。


 そして、術者が転化後の人間の中でも特に魔術の扱いに長ける魔族の場合には、詠唱破棄を用いて通常の人間が詠唱有りで使用するのと同程度の威力の魔術を発動させることが出来る。ただ、魔族でも全てのものが詠唱破棄をできると言うわけではないし、あまり高度な魔術では成功しない。


 一方、魔術の同時使用と言うのは読んで字のごとく、発動時に異なる効果の2つの魔術を扱うことである。これも詠唱破棄と同様に使用できる者は限られている。この場合に必要なのは2つの同程度に確固たるイメージであり、どちらか一方のイメージがもう一方よりあやふやであった場合、そちらは発動しない。こちらも使いこなすのにセンスと多大な努力が必要となり、いくら魔族でもこの2つを扱えるものはほとんどいないだろう。


 そして、美亜の目の前ではその希少な例がハヌマーンと戦っている。


「でも詠唱破棄の場合には魔術自体の威力も落ちるから、その範囲を掌に限定させて効果を上げるって言うのは分かるんだけど、それであのエロ猿の攻撃を受けきるなんて……。」


 素早いハヌマーンの攻撃を見切り、面積の小さい防御壁で的確に防いでいる。それはつまり、接近戦もそれなりのレベルであると言う事だ。しかも見たところそれは“魔術師としては”と言うレベルではなく“戦士としても”と言ったレベルだ。つまり、


「前衛で戦えるほどに接近戦に長けた、言わば接近戦専用の魔術師と言った所かしら」


 実際クロトが扱う魔術は、詠唱破棄の防御魔術以外は全て詠唱が短く出が早いものだ。ほぼ完全に近接戦闘に念を置いた、前衛タイプの魔術師である。そしてハヌマーンは、そのスタイルの前に苦戦を強いられているようだ。得意の手数で押す戦法も防御と攻撃を同時に行う相手だと連続攻撃をつなぐことが出来ずに途中で割り込まれてしまう。更に……


「氷針」

「っと!?」


 硬直状態を破ったのはクロトの魔術であった。接近戦しか出来ないハヌマーンとは違い、元来魔術師であるクロトは遠距離攻撃も可能なのだ。攻撃力よりもスピードと範囲攻撃に特化したクロトの魔術をかわすハヌマーンには、これまでのような余裕は無い。広範囲に降り注ぐ氷の針をあるものはかわし、あるものは棍で砕いてやり過ごす。


「痛っ」


 だが完全にはかわすことができなかったのか、何本かが体に突き刺さる。氷の針自体はごく小さな物なのでダメージそのものはたいしたことはないが、思わず動きを止めてしまうハヌマーン。


「爆炎砲」


 そこにすかさずクロトの一撃。今度は威力を重視した巨大な火の玉が動きを止めたハヌマーンに襲い掛かる。


「こなくそっ」


 迫る火球を横目に体を投げ出すようにして回避を行うハヌマーン。何とか直撃は避けたその直後―――



 ドゴォンッ!



 リングの床に触れると同時に火球が大爆発を起こす。


「ハヌマーン!」


 爆風に吹き飛ばされるハヌマーンの姿に思わず立ち上がって声を上げる美亜。その姿はすぐに爆煙に包まれ安否は確認できない。これはさすがに不味いかもしれないと、吹き飛ばされた姿を必死になって探す。しかし、徐々に煙は晴れていくが見える範囲にはハヌマーンの姿はない。


「まさか、今の衝撃でリングの外に?」


 もちろん、ルールではリングアウトも負けとなっている。だがそれよりもあの爆心地近くで直撃を受けたら、例え体の頑丈な獣人族でもただではすまないだろう。美亜は顔に焦燥を浮かべてハヌマーンの姿を探す。だが、煙が晴れてきているというのにその姿はどこにも見当たらない。リング上のクロトも困惑の表情で爆心地の周囲を見回している。まさかリングの反対側まで吹き飛ばされたのかと考え始めたその時、美亜の視線があるものを捕らえる。


「……影?」


 それは徐々にクロトのほうに移動しつつある小さな影であった。なぜそんなものがあるのかと首を傾げかけた瞬間―――


「……まさか!?」


 あわてて視線を上に持っていく。一瞬陽の光が視界を遮るが目を細めてそれをやり過ごす。そこには―――


「うおりゃああああっ!!」

「なっ!?」


 太陽を背にしてクロトの頭上から強襲をかけるハヌマーンの姿が。美亜に遅れること数秒、クロトも自らに襲い掛かる影を認識しあわてて防御の体制に入る。だが、


「遅いっ!!」


 大上段に構えた棍を相手を叩き潰す勢いで振り下ろす。クロトはぎりぎり両腕を頭上へと滑り込ませることはできたが、突然の奇襲にイメージを乱され魔力を十分に乗せて防ぐことができず、不十分な防御壁で攻撃を受けることになる。逆にハヌマーンの棍は自身の体重と落下の勢いも加え、周囲にもはっきりと聞こえるほどの唸りを上げて、まるで大槌のごとく敵の頭上に叩き込まれる。



 ドゴンッ!!!



 拮抗は一瞬。防御壁を砕きながら、割り込んだ両手ごと相手の頭を叩き潰す。その勢いに、顔面から派手にリングに叩き付けられるクロト。そのままピクリとも動かなくなる。着地と同時に距離をとったハヌマーンはその姿を見ながらも油断なく武器を構えて、敵の不意打ちに備える。


 そんな両者の間に恐る恐るといった様子で審判が近づき、叩きつけられたクロトを覗き込む。そのまま様子を見ること十数秒、


「クロト選手戦闘不能。よって、今大会優勝者はハヌマーン選手!」


 その声が響き渡ると同時に大歓声が辺りを包む。その段にいたってようやく緊張を解き武器を下ろすハヌマーン。と、お約束のように観客席へと愛想を振りまき始める。というか、彼自身も興奮しているのか、パフォーマンスが派手になっている。3回転半を披露したり、バク転を連続で決めたりして。


『今大会の試合はこれにてすべて終了しました。これより15分の休憩の後に優勝者への表彰式を行います。その後―』


「いやっほほほほほう、美亜ちゅわーーーん!! 見ててくれた俺様の華麗なる勇姿をーー!!!」

「あーはいはい。素直にすごいと思ってるんだからちょっとはそのテンションを下げなさい。暑苦しいから」


 リングの上から飛び降りて自分の周りを駆け回るハヌマーンに、溜息を吐きながら声をかける美亜。


「まったく、試合の最後のほうは結構かっこ良かったのに」

「つまり俺様に惚れたんだね! OK、ハネムーンは海の見えるリゾートに……」

「黙れエロザル」


 どすっ、と言う音とともにリバーに突き刺さる腰の入ったフック。


「ところで最後、どうやって相手の頭上に移動したの?」

「俺様への暴力行為はスルーですか……」


 ハヌマーンは腹に手を当ててうめき声とともに泣き言を絞りだす。


「えーっと、別に大した事はしてないんだけど。あの火球の爆風に乗って上空に移動しただけだから」

「……無理があるわよそれ」


 先ほどの爆発シーンを思い出しながら美亜が呟く。直撃を避けたとはいえかなり真近で爆風を受けていたはずである。そんな器用な真似ができたとも思えないし、できたとしても相手のはるか上空まで飛ぶとは思えない。


「そこはほら、これを使って」


 そういいながらハヌマーンは背負っていた棍を美亜に差し出す。


「こいつは結構貴重な金属でできていて、硬度はもちろんその最大の特徴は“しなり”にあるんだ。ほら、こんな風に」


 そう言いながら棍の両端を掴むようにして持ち、力を加える。すると棍はその太さの金属で出来ているとは思えない位に柔らかく弧を描く。


「うわ柔らかい!? そんなので武器になるの?」

「もちろん。こう見えても頑丈だし、普通に使っても問題は無い。実は魔力を通すことによって硬化と柔化をある程度制御できるから、慣れればかなり融通の利く武器になる」


今度は一方の先端を地面に突き立てて逆の先端に力を加える。すると、先ほど金属とは思えないくらいの柔軟性を表した棍は、今度は全くしならない。


「こいつを利用して俺様は棒高跳びの要領で爆発を上空へと回避。そのまま爆風に乗って相手の頭上まで移動してそこから奇襲を加えたってわけさ」

「へえー」


 感心した表情でハヌマーンの手の中の武器を見つめる美亜。


「まあこれがかなり珍しい魔術道具(マジックアイテム)だって言うのは分かったけど、それでもあの滞空時間はおかしくない?」

「そこは俺様の天才的な体捌きと、この美しいボディーに備わったしなやかなバネを駆使したことによるまさに……」

「あー、はいはい分かったから」


 いつものように暴走を始めたハヌマーンに頭痛でもしたのか額に手を当てておざなりな対応をする。だからこの時、ハヌマーンが呟いた言葉は美亜の耳に届かなかった。


「結構いい勘してるなあ」

「え? なんか言った」

「あー別に何も、しかし結局あいつは間に合わなかったなあ」

「……そうね」


 ふと思いついたようなハヌマーンの指摘に、心持ち表情を曇らせて美亜が相槌を打つ。


「まあ俺様の試合運びが予想以上に速かったって事だろうけど。そんな俺様はやっぱり天才と言っても……」

「戯言は良いから、もうすぐ表彰式じゃないの?」

「うおっ。そうだった!」


 あわてたハヌマーンがリングを振り返ると、そこでは試合後のリングの片付けが終了して何人かの人影が集まってきているところだった。


 この大会のフィナーレは、優勝者から第3位までの者達がリングの中央で毎年のゲストに表彰の盾と記念品の剣を授与されることになっている。しかし、試合の激しさから上位3人が全員そろうことは少なく、毎年一人か二人は欠員が出る。


 今年は準決勝で負けた二人がそれぞれかなりの深手を負っていたので3位決定戦は行われていない。そういうわけで今年リングの上に上がるのは優勝者と準優勝者のみだが、先ほどの様子を見るに準優勝のクロトも出席は無理だろう。


「今年は俺様のみが表彰式か。ふっ、俺様オンリー劇場の幕開けというわけだな」

「ハヌマーン、ちょっと良いかしら」

「ん?」


 呼びかけられて振り向いたハヌマーンの目の前にあったのは、ひどく思いつめた表情の美亜の姿だった。


「あなたにお願いがあるのだけど……」


 そう言って美亜は、その“お願い”の内容を口に出した。

作「この小説も読者数10000人を突破したので2章終了と同時に新たなステージに立とうと思う」

天「ほう。何をお考えで?」

作「その前に貴様よくも前回の最後、断末摩奥義で俺を真っ二つにしてくれたな」

天「いやー、さすがに必殺技シリーズは食傷気味かと思いまして」

作「じゃあ切るなよ。縦に両断されて大変だったんだぞ。神酒もないから元に戻るの大変だったし」

天「う○おととらは最近の若い人はさすがに分からないんじゃないかと」

作「ほっとけ」

天「後ここで切らないのは太陽が西から昇るのと同じくらいありえません」

作「すでに物理法則の域かよ」

天「そんなことより、2章が終わったらどうするんです?」

作「(そんなことって)あーえっとまあランキングサイトに登録してみようかと」

天「……ランキング最下位になったら書き続けられる自信あります?」

作「不吉な想像をするなっ。目標だってちゃんと決めてるんだぞ」

天「ほう、何です」

作「目指せ!超えろ!!カ○…」

天「ジャンルが違う上に何大御所に喧嘩売ってるんですか!」

作「えっとじゃあ、まよ…」

天「寸刻みにして川に捨てますよ」

作「うう、ちょっとくらい夢に見ても」

天「まあ目標を高く持つことに関しては否定しませんが、もう少し確固たる地位を築いてからにしなさい」

作「分かりました。地道にこつこつやりますよーだ」

天「まあランキングサイトに行けば今よりも読者が増えるでしょうし、あなたももう少し身を入れて書いてくださいよ」

作「努力します」

天「頑張ってください。じゃあ今日は一刀流居合いで締めますか」

作「って言うかやっぱりそんな終わり……」

天「獅○歌○」


しばらくお待ちください


天「それでは皆様また次回」

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