狩りを知れ
お座り状態で、膝小僧までの身体は今は尾てい骨辺り。中央寄りの愛嬌溢れた子犬の顔ではなく、精悍な狼に近づいた顔。
未だに理解はしてないがどうやら俺の魔力を受け取ったグランツ。
蛇っぽいやつにひっくり返されては起き上がるを繰り返すグランツの姿は中々に情けない。
弱いと自称していたがこれほどとは…。
目の前の光景にため息をつきたい、つけないが。
ここは洞窟内にある巣穴だ。
腹が減った俺はグランツを伴い気ままに歩き回り、目にする奴を片っ端から摘まんでいた。
腹が減ったと自己申告してきたから自分で狩りをすると思っていたが、後ろからチョロチョロ着いてくるだけの子犬。
獲物に目星を付けているようにも見えない。
『……お前さ、腹減ってるんだろ?』
「そうだ」
『そうか…狩りとかしろよ一応狼だろ』
「一応じゃない!れっきとした戦大狼だ」
そういうことじゃ無くてだな。
『……おいまさか、』
「僕は狩りはできない!したこともないしな!」
『何でそんなに自慢気なんだよ』
胸を張る子犬に、布を巻いてない左手をかざすと後ずさる。
食えないからそんなに怯えんなよ、どうなるか知らんがな。
『飯はどうするつもりだったんだ…』
「お前の残りを食べるつもりだった」
『結構情けないぞお前』
「生きるためには恥を捨てよ、誇りは胸に有りと母さんは言っていた」
『マジかよお前の母さん逞しいわ』
とはいっても俺の食事はカスや食べ残しは発生しない。全部食ってしまう。
残そうにも、どうしたらいいかわからない。
『見ての通り残りは、出ないけど』
「そうだな、内心どうしようかと思っていたんだ」
『あー…何にもできないのか?お前の母さんは狩りの方法を教えてくれなかったのか』
「知っていることには知っている。でも僕は実践できないほど弱いんだよ!」
どんだけ弱いのコイツ。でも知識があるなら何とか行けるんじゃ…っと、思っていた時期も俺にはありました。
ちょうど現れた蛇っぽい奴にその知識を試してこいっとけしかけたはいいが、冒頭のアレである。
足を絡み取られてはひっくり返り、うなり声と共に起き上がってまた転ぶ。
大きくなった分情けなさも倍だ。
ちょっかいをかけるだけの蛇っぽい奴に完全に遊ばれてら。
side:グランツ
腹が減ったとふらふら歩き出した奇妙な死霊骨、もといシックザール。
母さんが帰ってこなくなってからまともにご飯にありついてない僕はその後ろから着いていく。残りかすでもありつけるだろ。
僕の気配につられた奴等やシックザールの歪さのわからない奴等はゴロゴロいた。
シックザールは目につくものをすべて左手で引っ付かみ喰っていた。
それこそ強い弱い関係なく。
そこでシックザールの言う“喰う”とはそのものを丸ごと吸収してしまうことがわかった。食べ残しなど発生しようがない。
どうしよう…。
あきれ顔で僕を見下ろすシックザール。顔はないけど。眼球のないはずの眼窩は不可思議な灯りが宿り揺らめき感情を伝えてくる。
奴の顔をポケッと眺めていたら何かを決心したらしく、安全な右手で僕の首根っこをひっつかみちょうど横穴から顔を出した蛇型の魔物の前に放り出した。
慌てて振り返るとしゃがみこんだ姿勢。
『とりあえず、やれ』
温度のこもらない声に決して怖気ついたわけじゃない。そうじゃないけど、僕は急いで前方の目の前の餌(予定)に向き直った。
とりあえずとびかかってみた、けど尻尾であしらわれた。
大きくなった体は思うように動かず転がされる。相手からすれば僕は大した脅威ではないのだろうと思うと情けなくなってきた。
弱いから、未熟だから、おなかが空いてるから、母さんがいないから。
言い訳はいくらでも浮かんできたけど。それでも、
ついにひっくり返され続けて倒れこんでしまって体制を戻そうとした僕が見たのは右手で蛇の鎌首を押さえつけたシックザールだった。
『お前、ほんっとに弱いんだな』
気にもならなかった突き刺さる言葉。
「言っただろう」
弱いって。何もできないって。
なんとなく目を合わせることが躊躇われて下を向く。
次はなにを言われれるのだろう。
もしかしたら、見捨てられるかもしれない。家族以外は簡単に裏切るのだと。
契約があってもいくらでも見捨てる方法はあるのだから。
けれど、シックザールはやっぱり変な奴だ。
『わかった。お前に足らないのはあれだ、飯と経験だ』
「は…」
『まーいろいろいるからこれからやってきゃいい。幸い布巻いてる手だったら掴んでも食べれねえことが今わかったしな。とりあえずこれ喰っとけ』
「喰え、って…なんか言いたいこと無いの、」
『…あー、あんなに弱いとは思わなったけどな』
「……」
『ついこないだまで子犬だった奴にごちゃごちゃいわねえよ。これからやってけばいい』
どうせやることなんてないから付き合ってやる。
偉そうに。変な奴のくせに。
イラッとしたから唸ってやろうと思い上を向くと頭が指圧でつぶされた魔物が突き出されていた。
唸るのはやめとこうと尻尾をまたに引っ込また。
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