ガトーショコラの行方(夏視点)
「夏さん、これ、昨日作ったんですが、よかったら食べてもらえませんか?」
親友の京香と愛華と、いつものように中庭で昼御飯を食べていたら、京香がおずおずと可愛らしくラッピングした袋を渡してきた。
京香はお菓子作りが得意で、シスコン兄弟共にねだられたりしたときなんかに、よくお菓子を作る。
そのたびに、おすそ分けをくれるのだが、京香のお菓子は美味しいので、礼を言いながら受けとる。
普段家では、和菓子しか出ないので、甘味好きの私としては、とても有難い。
ラッピングを開けると、中からチョコの匂いが立ち上ってくる。
「ガトーショコラ?」
「はい。そうなんです。」
横を見ると、愛華にも同じように渡していた。
私は愛華のように、見ただけで菓子の名前は分からないが、見た目と今までの経験上美味しいだろうことは分かる。
なので早速かぶりついた。
「美味しい。くるみ入りか?」
「はい。この間食べていただいたとき、くるみのを一番おきに召していただいたようだったので。」
この間食べたときは、プレーンにくるみ入り、オレンジピール入り、チョコチップ入り等いろんな種類のものがあった。
もちろん全部美味しかったし、京香にもそう伝えた。
なのに、どうして分かったんだろう。
京香のこういったところに、どんどん惹かれていく。
1日1日、ふれ合うたびに、京香への好きの気持ちが増えていく。
溢れるほどたまり、これ以上増えないだろうと思うのに、次会うと、やっぱり好きが増えていく。
……なんだか、異性に対する告白みたいだな……。
まあ、同性だからこそ、変な感情がないからこそ、京香とやっていけているんだろう。
まず、異性だったら、あの幼馴染みたちやシスコン兄弟に、『好き』が増える前に排除されるんだろうしな。
異性でなくとも、排除されそうだったしな。
……というか、たまたまタイミングがよかっただけで、あいつらは、排除する気満々だったんだろうな……。
京香の幼馴染みを見ていると、京香のことを好きな気持ちが増えて増えて増えて、狂いそうになっているのが分かる。
……もしかしたら、もうおかしくなっているのかもしれないが……。
京香の『性悪女になるための協力』を断ろうなんて、微塵も思わず、受け入れる辺りがなあ……。
まあ、私もあいつらのことは言えないか。
京香が望むんなら、できうる限り協力してやりたいからな。
ああ、協力を始めないとな。
計画通り、幸村が校舎がわからやって来た。
「アキラッ!」
京香が、幸村を呼び、近くへ駆けていく。
「なんだい?」
「あのですね、昨日ガトーショコラを作ったんですが、よかったら食べてくれませんか?」
「京香が作ったのか?食べれるんだろうね?」
「む~……。アキラヒドイです。」
「ジョーダンだって。ちゃんと食べるよ。」
「約束ですよ?」
「分かった。約束な?」
「はいっ!じゃあまたあとで!!」
京香……すごいな……。
はたから見ていると、立派な性悪女だ。
幸村は、『王子様』の名に相応しく、中性的な美貌と、柔和な物腰や物言いで人気だ。
そのくせ、京香だけには、意地悪な物言いをしてからかうこともある。
潔癖症で、人や物に触れない。
いつも、黒い手袋をし、人には決して自分に触らせない。
だが、京香だけには、手袋なしで触れ、自分にも触らせている。
食べ物も、自分で作ったものか、京香が作ったものしか口にしようとしない。
現に、京香は気が付いていなかったようだが、そこの角で、女からの可愛らしい包みを断っている。
そこへ、手作りのものを渡し、相手が受けとると……
(姿を見ると、嬉しそうに笑い、駆け寄り、見上げて相手に『自分に会えて嬉しいんだ』と思わせ)
「あのですね、昨日ガトーショコラを作ったんですが、よかったら食べてくれませんか?」
(上目遣い+小首傾げの最強コンボで、相手の心拍数をあげ)
「む~……。アキラヒドイです。」
(意地悪な物言いに、少し唇を尖らせ、瞳を潤ませながら見上げて、更に動揺させ)
「約束ですよ?」
(『約束』に、嬉しそうに微笑み、指切りの小首を、おずおずと差し出し、可愛らしさをアピール)
「はいっ!じゃあまたあとで!!」
(満面の笑みを相手に見せ、振り向いたら、ほかの女たちに、優越感たっっぷりの、勝ち誇った笑みを、相手に見えないようにする)
……自分だけが、相手にとって、『特別』だということをアピールしているのがよく伝わる。
愛華との打ち合わせでは、最後の
(満面の笑みを相手に見せ、振り向いたら、ほかの女たちに、優越感たっっぷりの、勝ち誇った笑みを、相手に見えないようにする)
だけだったんだがな。
無意識に相手を、更に自分に夢中にさせている。
京香としては、幼馴染み相手で、甘えているだけで、特別な感情はないんだろうがな。
それすらも、周りには、最後のやつで、わざとに見えるんだからな。
完璧な性悪女だ。
今後は、嫉妬に狂った周囲と、京香に狂った奴らに注意を払って、京香を守っていかなくちゃいけないな。