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友人の存在

 まさかこんなすぐに次の働き口が見つかるとは・・・・・・。

 劇的・・・・・・とまではいかないが、久しぶりに友人と再会を果たし、しかも働き口まで見つかり思いのほか心が躍っていた。

 店を出てからというもの、特にすることも無かったので本屋に行ってみたり、CDショップに行ってみたりと適当に時間を過ごしていた。

 でも明日からどうしようかな・・・・・・。いきなり有給使わせてくれるかな。

 少し難しい気もしたが、何にしても今はどうすることも出来ないので一旦この議題は置いておく。

 携帯を見て時刻を確認する。

 17時半・・・・・・。この時間だったら沙織が丁度駅前で歌っているかもしれない。一人で帰るのも何だし、せっかくだから迎えに行くとするか。

 携帯をポケットにしまうと軽い足取りで駅前へと向かった。

 

 駅前からさほど離れていないのでそう時間はかからなかった。

 「ん~。沙織は・・・・・・あっいたいた」

 人混みの中を目を凝らして探しているとそこに見知った顔があった。



 怪しい男二人というオマケ付きで。



 「なんだ・・・・・・?あいつ等」

 何か沙織に声をかけているみたいだが、困っている沙織の表情と、男達の格好を見るからにあまり穏やかでは無さそうだった。

 茶髪にいかにもチャラチャラしてそうな格好の男と、坊主頭に柄の悪いジャケットを羽織っている男だ。

 「・・・・・・ったく。しょうがねえな」

 このまま見過ごすことは出来ない。溜息を吐きつつ拳を固める。俺だってやる時はやるさ。

 「おいお前等。何してんだよ」

 「あぁ?」

 声に気付いた二人がこちらに振り返り、不機嫌そうに煽ってくる。

 「こいつは俺の連れだ。悪いがこいつはお前等みたいな奴等と楽しくお喋り出来るほど器用じゃねえんだ。ナンパなら他を当たってくれよ」

 「何言ってんだこいつ。彼氏さんがかっこよく助けに来たってわけ?」

 いやらしく笑いながら状況を楽しんでいる。

 「それで納得してくれるならそれでいい。お互いこんな寒い中騒ぐのは嫌だろ?。だからこの辺で帰してくれねえか?」

 「んじゃあお前は帰れよ。俺等はこの子と楽しくディナーとしゃれ込ませてもらうからよ。ぎゃははははは!」

 下品に笑いながら沙織の肩に手を回す。

 「や・・・・・・やめてください!大輔君・・・・・・!」

 「おい!汚い手で触るじゃねえよ!」

 自動的に体が動いていた。茶髪の男の手を振りほどく。その隙を見て沙織が俺の後ろへと回って来た。

 「おい兄ちゃん。あんま調子のんなよ?2対1でやって無事に帰れると思うな?」

 騒ぎに気付いた周囲の人間の視線がこちらに向けられる。こういうとき助けてくれる奴とかいねえんだな。薄情な奴等だ。

 関係の無い人間にまでに苛立ちを覚える。こうなったら俺がこいつ等の相手をしている間に沙織を逃がすしかないか・・・・・・。

 臨戦態勢に入ったその時、聞き覚えのある声がした。

 「お?大輔じゃん。なーにしてんだよ」

 「何か面白そうなことしてるわね。私達も一緒にお話させてよ」

 後ろから不意に肩をポンと叩かれた。

 「えっ?」

 振り返るとそこには俺の肩を叩いた会社の同僚「高村圭介」と、にひひと笑う「黒崎巴」がいた。

 「それで、こいつは一体どうしたんだ?何か怖いお兄さん二人が俺の大事なお友達と、可愛い女の子にちょっかい出しているように見えたんだが?場合によっちゃあ黙って見過ごすわけには行かないんだが?」

 手をボキボキと鳴らしながら二人に詰め寄る圭介。

 「くっ・・・なんでもねえよ。おい、行くぞ」

 「ああ。ったく、邪魔しやがってよぉ。」

 3人に増えて分が悪いと判断したのか、口々に不満を零しながら立ち去ってくチンピラ。助かった。正直勝てる見込みは無かったので急な増援は好都合だった。

 「悪かったな二人とも。助かったよ」

 「いいってことよ。にしても張り合いの無い奴等だな。面白くない」

 「こんなところで喧嘩しないでよね。一目を気にしなさい一目を」

 「そうは言ってもだな。って沙織?大丈夫か?」

 あっけにとられている沙織に気付いて声にかける。

 「ふぇぇ・・・・・・怖かったよぉ・・・・・・」

 安心して力が抜けたのか、その場にぺたんと座り込んでしまう。

 「ちょっとちょっと。大丈夫?」

 巴が沙織の腕を掴んで支えてあげる。

 「安心しろ沙織。もう大丈夫だ。怖い思いさせて悪かった」

 「いえ、大輔君は悪くありません。むしろ守ってくれましたし」

 「おい大輔。紹介してくれよ。この子は一体誰なんだ?」

 「え・・・・・・?あー・・・・・・」

 まあ隠す必要は無いのだが、自分から言うのは少し照れくさい。

 「もしかして、上倉君の奥さん?」

 「んなっ!」

 「ふぇぇっ!」

 予想外の発言に、俺も沙織も驚きの声をあげる。

 「馬鹿!そんなわけねえだろ!」

 「そ・・・・・・そうです!そりゃあ将来的には大輔君のお嫁さんになって、毎日ご飯を作ってあげて、あーんしたりしてもらったり、一緒に寝たり、朝起こしてあげたり、ネクタイを締めて送り出してあげたり・・・・・・ぐへへっ」

 「おーい。戻ってこーい」

 先ほどの青ざめた顔とは裏腹に、だらしなく頬を緩めて妄想に浸っている沙織の目の前で手のひらを振ってみたり、頬を叩いてみるも中々戻ってこない。

 「だ・・・・・・大丈夫か?この子?」

 「ああ。まあいつもの事って言えばいつもの事なんだ」

 「ぐへへ・・・・・・はっ!すいません!私ってば何てお恥ずかしいところを!」

 「いいのよ別に。それよりあなたとっても可愛いわね。このサラサラの黒髪に小さい顔。それに小柄な体に控えめの胸。ああ・・・・・・食べちゃいたいわぁ・・・・・・ねえ?抱きしめてもいいかしら?」

 「え・・・・・いや、あの・・・・・・ちょっと・・・・・・」

 巴は沙織の返事も待たずに沙織に抱きついては、頭を撫でたり、スーハースーハーと沙織の匂いをこれでもかと嗅いでみたり。まーた悪い癖が出たなこいつ。

 「おい、いい加減にしておけ巴。この子が怯えてるじゃねえか」

 「何よもう。邪魔しないでよね」

 沙織に抱きつく巴を引き剥がす圭介。

 巴の見た目は、沙織にも負けないくらい綺麗な黒髪のストレートヘアーに、女性にしては高身長。しかも、無駄な肉など一切付いておらず、立派に育った豊満な胸を携えている。通り過ぎる男が皆振り返って二度見をするであろう最高のプロポーションを持っているにも関らず女好き。特に沙織のような大人しい奴何かはきっと大好物のはずだ。

 圭介はというと、スラっとした身長に引き締まった体。学生時代はスポーツに熱を入れていたらしく、その頃の努力の賜物らしい。黒縁のメガネをした爽やかな奴だ。二人とも会社の同僚で、良く3人で飯を食ったり、休みの日に出掛けたりと、数少ない俺の友人だ。こいつらがいなかったらとっくに今の会社を辞めていたかもしれない。

 「それで、この子はあれか?お前の彼女さんか?」

 「まぁそういうことだ。」

 「あっ!えっと、今中沙織です!」

 頬を染めながらぺこりと頭を下げる。

 「俺は高村圭介。大輔の同僚です」

 「黒崎巴よ。私も上倉君と高村君の同僚なの。よろしくね」

 すっと差し出された巴の手を、恐る恐る握り返す沙織。こいつらのこういうフランクなところが人見知りな奴にはかなり助かる。俺も初めは戸惑ったけどな。

 「でもお前にこんな知り合いいたのか?少なくとも初耳だぞ?」

 「最近知り合ったんだよ。こないだたまたま駅前でな」

 「ふぅん。沙織ちゃんは地元の人なの?」

 「いえ。実は私今旅をしてるんです。色んなところを転々として、色んなところで色んな人に私の歌を聴いてもらうっていう・・・・・・。それでこの街に来て駅前で歌ってるときに大輔君が私の歌を聴いてくれて。ふふっ。大輔君。私の歌を聴いて泣いちゃったんですよ?」

 「こら。わざわざその話をするんじゃない」

 「えへへ。ごめんなさいっ」

 てへへと笑う沙織に俺は軽く小突く。

 「旅してるんだ!若いのにすごいねぇ!それで、息が合って付き合い始めたと?」

 「まあそんなとこだ。つか根掘り葉掘り聞きすぎだ。少しは察しろ」

 「だっって無愛想で人付き合いが苦手なお前に彼女が出来るとは思わなくて。なあ巴。悔しくないか?俺等はいつまで経っても独り身なのにこいつ一人で抜け駆けしやがってさ」

 「確かに。納得いかないわ」

 「そうだろ?だからさ、この際だから俺達も付き合わないか?それで、その魅力的なおっぱいを俺に・・・・・・ぐへぁ!!」

 手をいやらしく動かしながら思わず本音を漏らす圭介を、巴は渾身の右ストレートで一発KO。前言撤回。全くもって爽やかではない。

 「でも納得いかないわ。こんな可愛い子が上倉君の彼女だなんて。もったいなさすぎる。ねえ沙織ちゃん?こんな冴えない男じゃなくて、私と付き合わない?そうすれば私があなたを絶対に退屈させないわ。あなたの好きな所へ連れて行ってあげるし、好きなもの何でも作ってあげるし、私に体を任せてくれたら3分で天国に連れてってあげる自信もあるわ」

 何の自信だそれは。あと、冴えなくて悪かったな。

 「ふぇぇ・・・・・・・。あの・・・・・・私は大輔君が一番好きなんです!だから黒崎さんとは付き合えません!ごめんなさい!」

 「あっ・・・・・・」

 ポカンと口を開ける俺達三人。

 「ふっ・・・・・・あははははは!!。振られたなぁ巴。お前はお呼びじゃねえんだってよ」

 「えぇ~?ん~しょうがないわねぇ。今日はこの辺にしておくわ。でも私諦めないから。あと、私のことは巴でいいわよ」

 「あっじゃあ俺も圭介でいいよ」

 「わ・・・・・・わかりました!よろしくお願いします!巴さん!圭介さん!」

 にこっと笑う笑顔に圭介は思わず「うおっ」っとよろめき、巴に至っては顔を真っ赤にして「ああ・・・・・・可愛い・・・・・・沙織ちゃん・・・・・・ペロペロしたい・・・・・・・」と本音を丸出しにしているのでそろそろ俺達も家に帰るとしよう。

 「んじゃ沙織。俺等も行くぞ」

 「はいっ!それじゃあまた!」

 「またねー!沙織ちゃーん!愛してるわぁー!」

 人目をはばからずとんでもないことを口走る巴に沙織は苦笑いをしつつもちゃんと手を振る。俺達のことを見送ってくれる圭介達と別れ家へと共に向かった。





 夕飯と入浴を済ませた俺は、自室のデスクに向かっていた。



 

 「退職届」



 まあクビを言い渡されたとはいえ、こういう形で会社を去ったほうが後味も悪くないと思う気がした。ただ色々と面倒だ。仕事の引継ぎやら、辞めるに当たっての手続きやら。明日一日で全て終える為には早めに出勤したほうが良さそうだな。

 色々と思考を重ねていると、ノックする音が聞こえる

 「どうぞ」

 ドアの向こうの人間を招き入れると、まぁ当たり前だが沙織が入って来た。

 「大輔君・・・・・・。私もう眠いですぅ・・・・・・」

 「おっと。もうこんな時間か。じゃあそろそろ寝るか」

 退職届をそっと鞄にしまい、既にベットに潜り込んでいる沙織の横に自分の体を入れる。

 「なんかもうこれが当たり前になってきてるな」

 「なんです?私と一緒に寝るのが嫌なんですか?」

 「いんや。そういうわけじゃねえよ」

 「ならいいじゃないですか。沙織ちゃんの良い匂いを嗅ぎながら寝れるなんて大輔君は幸せ者ですよ?」

 「はいはい。ありがたき幸せでございます」

 「もう。そうやって適当に聞き流そうとするんだから。・・・・・・あっ大輔君。明日はお仕事ですか?」

 「そうだけど。あー、そういえば言ってなかったな。俺新しい働き口見つかったんだ」

 「あら。もう決まったんですか?良かったじゃないですか!」

 まるで自分のことのように喜んでくれる。こういうところが愛らしい。

 「次はどんなところ何ですか?」

 「駅の近くにある洋食屋なんだけどな。そこの店学生時代の知り合いの家だったんだよ。それでな、なんかあっという間に話が進んで、そこで働かせてもらえるみたいだ。面接とかしたわけじゃないのに『娘の知り合いなら大丈夫だろう』ってさ」

 「ふふっ。大輔君信用されてるんですね。じゃあ今度私も遊びに行きますね。大輔君の働く姿みたいです」

 「来てもいいけど邪魔だけはすんなよ?」

 「はーい。あっそういえば今日会社の同僚さんに会いましたね。あの人達と仲良いんですか?」

 「まあな。良く飯食ったり会社帰りに寄り道したりとかしてるぞ。俺の数少ない友達だ」

 「そうなんですか。あの巴さんって人。積極的な人でちょっと慌てちゃいました」

 「あいつはああいう奴だから真面目に相手する必要ないぞ」

 巴の女好きにはいささか問題があると思うし。男に興味ないみたいな感じがある。

 「はい。何となくそんな気はしました。好意を持ってくれたのは嬉しいですけど」

 すっかり癖になった沙織の頭を撫でながら言う。そういえば・・・・・・。

 「そういうお前は今日どこに行ってたんだ?」

 「えっ?ああ、ちょっと具合が悪くて。病院に行ってました」

 「おいおい。大丈夫なのか?」

 「大丈夫ですよ。暖かくして安静にしていれば大丈夫でしょうってお医者さんも言ってましたし」

 「ならいいんだけどさ。お前見た感じあんま体強そうじゃないからさ。心配なんだよ」

 「えへへ。心配してくれてありがとうございます。そういう優しいところ、私好きですよ」

 「・・・・・・照れるからやめろ」

 「んもう。可愛いですねぇ大輔くんは。ちゅーしてあげましょうか?」

 「・・・・・・。いいから寝ろ」

 赤くなった顔を見られないように沙織に背を向ける。思いのほか鼓動が早くなってきた。

 「あーん。もう冷たいんだからぁ。ふふっおやすみなさい。大輔君」

 「・・・・・・おやすみ」


 何だかんだ言ってこうやって冗談言い合ったり出来ることがすごく嬉しかった。今度圭介と巴、何だったら帆乃夏も呼んで5人で飯食ったりするのもいいかもしれない。明日にでも声をかけてみよう。

 自分は一人じゃない。少ないながらも仲間と思える人間がいることを再確認できた。実際今日も助けてくれた。ありがたいもんだな。友人ってのも。

 沙織と出会う前まではこんなに人の暖かさを知ることは無かった。自分は一人だって感じていた。でも、そんな孤独感を沙織が全部吹き飛ばしてくれた気がしたんだ。それくらい俺の中での沙織の存在がとても大きくなっていた。


 目を閉じて数分。段々と夢の世界へと誘われていった。



正直今展開の進め方に詰まってます。

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