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狼少女が好きすぎた魔力最強高校生が、魔物の世界で認められるまで頑張ります。【GREENTEAR】  作者: ほしのそうこ
本編二章 不死鳥の死 【Free dragon Air=Loid】
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15話‐1 青春は川の流れ

 フェニックスが姿を現した昨日の一件で、新学期二日目にして学校は臨時休校となった。報道では魔物による宣戦布告ではないかと取りざたされ、この島に暮らす人間達は誰もが戦々恐々とこの日を過ごしていることだろう。


 しかし、俺は彼女――レッド・フェニックスであるシュゼットの炎がこの島に降臨するのは、あの一回きりであると知っていた。シュゼットは別に攻撃として不死鳥の姿を現したわけではない。無論、フェナサイトに危害を加えようという意思なんてこれっぽっちもないのだから。

 俺達のトラブルが原因で恐怖にとらわれている同胞の皆さんには申し訳ない話だが、俺はどうせ休校になるだろうと踏んで、昨日の内に急遽立てた外出の計画を実行した。


 朝、寝床に入って休んだばかりと思われる豊を置いて、俺はサクルドの宿る小瓶を首からぶら下げるだけの手ぶらで館を出た。

 シュゼットは不死鳥の姿を現してからひとまず空高く上昇し、姿を隠した。夜が明けてもまだ戻っていない。せっかく人間の島に帰ってきたのだからひとりで行動したいと思う俺には好都合だった。


 向かったのは、隣町にある墓地だ。ここには豊の墓がある。実際あいつは生きているし、納められているのは足一本だけなんだが。豊の母親が彼の墓を用意してくれたことは意外だったが、それだけで放置しているのかもしれないという懸念もあり、実際どうなっているのか確かめる必要もあった。


 ここの住職さんに教えてもらった、豊のために用意された墓の、その前。四人もの人が集まっていた。

 墓の前にうずくまって泣きじゃくる、おそらく同年代の女の子。その子を慰める年配の女性と、一心に手を合わせる同じく年配の男性。しゃがんでいるその三人の後ろに立ち、悔いるような、少女とはまた違った意味で痛ましい表情の青年。一見した印象でしかないが、両親と兄妹の四人家族なんじゃないかな、と想像した。


 目的の場所に思いがけない先客があった困惑に、その光景をただ眺めるしかない俺と、ふいにこちらを見た青年との目があった。何となく気まずいな、と思った俺の態度を察したのか、彼が歩み寄ってくる。


「もしかして、豊に用ですか」

 物腰もそうだが、話し口も大人びた人だ。

「高校の元同級生で……」

 墓参りだというのに供え物のひとつも持っていない俺は、疑いの目を向けられてもしょうがない。しかしそんな様子はこれっぽっちも見受けられず、ためらいがちに彼はこう言った。


「あの……長矢豊の、“その後”のことを知りませんか」

「え……」

 言い回し、というか、ニュアンスに妙なものを感じて俺は言葉が出なかった。普通、墓に入ったはずの人間に対して、「その後」なんて言い方をしないだろう。


 ……他の可能性がないとは言い切れないが、直感で、彼は豊がダムピールであることを知っているのではないだろうか。そう思った。向こうからしても、俺が豊の事情を知っているのではと睨んだのは直感でしかないのかもしれない。

「知っているんですね……ぶしつけだとは思いますが、よかったらお時間を頂けませんか」


 臨時休校が明けた翌日、学校で顔を合わせたマージャは、何事もなかったような顔をして過ごしていた。隙を見て、一昨日の騒ぎは何だったのか、おまえの事情っていうのは何なんだと問いつめてみたが、「今はまだいいや」と笑ってはぐらかしてくる。

 シュゼットは昨日の内に館に戻ってきて、今日は平然と登校している。そして俺とマージャとのやり取りに口を挟み、マージャに同調して「確かに、まだその時ではないかもしれん」などと言ってくる。

 当事者であるはずの俺が事情を知らされないのは腹立たしい限りだが、このふたりに抗議して口で勝てるとは到底思えなかったのでしぶしぶ引き下がるしかなかった。


 教室の、豊の使用していた席はかつてのまま残されている。そして、誰ともなくスナック菓子やキャンディの袋を机の上に供え物として置くのが毎朝の定番となっていた。供えた食べ物は無駄にしないことが何よりの供養。朝に供えたものは放課後なり休み時間なりにみんなで口にするのが、このクラスでは自然な日課となっていた。

 次の学年になるまで、言い換えればこのクラスである限りは、豊をクラスの一員として供養していこうと決めたんだ。もっとも、豊が殺されたのは新学年になったばかりだったから、昨年同じクラスでなく豊と面識の薄い連中との温度差はやはり感じないわけにはいかないけれど。


 昨日出会った人は、豊とその母がこの町に引っ越すまで住んでいた町の友人だった。名前を東 浩一(あずま ひろかず)といって、妹の二葉さんと三人で幼なじみのような関係だという。東さんが俺や豊の一学年上、二葉さんが一学年下だという。

 東さんは一旦家族と別れ、俺を連れて喫茶店へ入った。そこで色々と事情を聞かせてもらえたのだが、彼と出会ったこと、ここで知った事実を豊に伝えるか否かは俺に任せたい、とのことだった。


「俺に頼むっていうのは別にかまわないけど、せっかくだから豊に顔見せてやればいいのに」

「豊に合わせる顔なんてありませんよ、僕には」

 そう言って、豊にあんなにも惨いことをしてしまったのに、と彼は呻いた。あんなこと、というのがそこで聞かされた話の主軸だった。

 確かに、当時の豊にとっては惨いことであったのは間違いないだろう。だけど、今の豊がそれを気にしているとは限らないと俺は思う。最後にそう伝えて、東さんとは別れた。そのまま森の奥の館に帰り、夜、起き出してきた豊と顔を合わせたが、東さんのことは伝えなかった。


 東さんの話は豊との過去の出来事だけでなく、そのつながりで現在の東さんがどうしているかというのもあった。俺はどちらかというと後者の方に問題を感じて、豊へ報告しないことに決めた。

 豊に対して罪の意識を感じている東さんは、自覚はしていないようだが心の底では豊に贖罪したい気持が多大にあるはずだ。だったら俺がこの件を伝えないことには始まらない。しかし、豊の件があって東さんが選んだ道は、豊にとって重荷になりかねないものだった。


 こう言っては何だが、東さんが豊にしてしまったことを悔いて進路を決めたのは、彼の自己満足でしかない。豊がそんなことをして欲しいと望んでいるはずがないんだから。その自己満足のために豊が苦い思いをするのは、ましてその手伝いを俺がさせられるのは気分が良くない。

 しかしながら、そんな東さんの存在は救いであるということも俺はわかっていた。両親から見捨てられた豊をこんなにも気にかけてくれる人達がいること。クラスメイトや東さん一家。魔物に殺され、失われた豊の存在を惜しんで今も弔ってくれる人がこんなにもいるんだという事実が、不謹慎だが俺は嬉しかった。


 フェニックスが姿を現して、しかし何の音沙汰もないまま一週間が過ぎた。こうなってくると世間の熱気も冷めてしまうもので、人間の島は一応の平穏を取り戻した。……それにしたって報道されなくなったくらいで不安もあとかたなくできるなんて、人間ってつくづく、喉元すぎれば熱さを忘れてしまうよなぁ。


 通学する以外はエメラードにいた頃と変わらず森の生活をする俺だったが、学校での昼食時まで獣やら魚やら丸ごと持ち込むわけにはいかない。朝食を実家で 厄介になるのは、母が用意してくれている弁当を受け取るためでもあるのだ。せっかく実家を出て暮らしているというのに、俺は親からま~ったく自立していないんだよな。


 学校に復帰してからというもの、昼食を共にするのはもっぱら、シュゼットとマージャだった。シュゼットはともかくマージャはいちいち騒がしいので、彼らの言う「その時」とやらが訪れるまでは放っておいて欲しいと思うのだが。

 どうせ、その時が来たら、ごく普通で平和な人間の学生生活なんて、消えてなくなってしまうのだろうから。


「あーつーしー君っ」

 弁当を片付けて一息ついたところで、廊下側の窓から名指しで呼びかけられた。見ると、ウェーブがかって色の薄い長髪に、豊満な胸を窓のさんに休ませ、どこをとっても柔らかそうな美しい女生徒がそこにいた。老けているというわけではなく健康的に大人びていて、上下共に白のセーラー服があまり似合っていない。  


「キネ先輩、お久しぶりです」

「はぁい、元気にしてた? ……ようには見えないね」

 などと呟いてから、俺の耳に口を近づけてそっと囁く。本当に慎重に、クラスメイトに聞かれないようにという配慮だろう。


 ――ちょっとだけ、付き合ってもらえる? 例えばティアーや豊のこと、積もる話もあるだろうし。

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