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狼少女が好きすぎた魔力最強高校生が、魔物の世界で認められるまで頑張ります。【GREENTEAR】  作者: ほしのそうこ
本編二章 不死鳥の死 【Free dragon Air=Loid】
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14話‐1 土の骸

 八月の半ば。人間の島の学生は、夏休みの真っ只中だ。

 直射日光を遮ってくれる木々の屋根のないフェナサイトの夏の光は、ある意味、常夏のエメラード以上に強くも感じられる。そりゃあそうだろう。夏の日差しが主張出来るのは、一年の四分の一であるこの季節だけなのだから。毎日が同じような気候を繰り返し、神話時代から変わらない姿を保っているエメラードと違って、人間の島は日々変化していくのだから……。


「ただいまー」

 がちゃり、古さびた団地の扉を開けるなつかしい音を鳴らして、久方ぶりのわが家に足を入れる。


 居間にいたのは姉ひとりだった。すすりかけのそうめんを口から垂らしたまま、俺から視線を外さずに硬直している。まったく、そんな死人でも見るような目をするなって。

「あっ、んた、もう帰ってきたの!?」

「なんだよ、帰って来ちゃ悪いのかよ」


 家族には、魔物と一人前に戦える力を得るまでは戻れないだろう……そう言った。そんな息子、あるいは弟がちょうど三ヶ月で帰ってきたのだから、まあ拍子抜けされてしまうのも無理からぬことではある。

 身も蓋もないことを言ってしまえば、俺が魔物を退ける上で必要だったのは、攻撃、防御共に最低限の魔術。それで十分なのだそうで。それだけ、一般的な魔物とソースの間に横たわる、魔力量の差は絶対的なものだった。人の身に堕ちても、神竜の力は伊達ではない。


「悪かないけどっ、そうだ、涙は? あの子も帰ってきたの?」

 そう訊ねるアネキの目は、彼女と喧嘩別れをしたのが嘘のような――言い換えれば、そのことを後悔して真剣に彼女に謝罪しようと思っているのだろうとわかる、すがるようなものだった。だから俺は、涙さんの親友であった姉に真実を伝えるべきかと迷った。


「彼女なら死んだよ。エメラードで」

 しかし、俺は言ってしまった。いささか投げやりな気持ちが、言葉尻に表れているような気がした。


「これ、お土産。森のアイスっていうんだ。冷やしとくから、後で母さん達と食べてくれ」

 当然ながら呆然と立ち尽くすアネキを残し、俺はさっさと自室に引き込んでしまう。

 そして、そのままベッドに倒れ込もうと思っていた。しかしながら、ベッドの上は布団が片づけられていてその流れに身を任せるのはあきらめるしかなかった。


 ああ、めんどくさいな。そう思いながら押入から布団を出してベッドに敷く。

 どのみち、人間の島に帰還したとはいえ、俺はこの家で暮らすつもりはなかった。やはり俺がいることで家族に危険の降り懸かる可能性は高まる。両親に諸々の報告をしておこうと思って寄っただけだ。

 ふたりが帰ってくる夜まで、ひさしぶりの、自分のベッドの寝心地を堪能するとしよう。


 確かに、腕のひとつ切り落とされたところで、魔物にとって致命傷とはなりえない。ヴァンパイアとなった豊が、切断された足をものの数分で再生させた――と、そこまではいかなくてもほとんどの魔物はダメージの再生速度が人間のそれとは桁違いだから。


 ただし、ヴァンパイアと似て真逆の性質を持つワー・ウルフは、数少ない例外だった。死んだ人間が魔物になって蘇るのがヴァンパイア、死んだ獣が人間の姿 で生き返るのがワー・ウルフ。前者が新しい生き物として完全復活するのに対し、後者はあくまで死体が息を吹き返しただけだから、自ずと寿命も短くなる。


 切り落とされたワー・ウルフの……ティアーの腕は、他の魔物の場合と違ってあっという間に腐ってしまい、元に戻すことなど出来なかった。切り傷というレベルではなく切断面のような重傷になると、そこから魔力は盛大に漏れだしていく。包帯の下には、アッキーが透に与えた土の肉体を応用した、土の義手が隠されていただけだった。


 結局のところ、ティアーはとっくの昔に致命傷を負っていて、それこそを俺に隠していたんだ。仲間達が俺にそのことを教えてくれなかったのは、単純に、彼女がそれを望まなかったからだそうだ。

 誰ひとり、嘘をついてはいなかった。ただ、隠し事をされていただけで。

 今にして思えば、忠告してくれた者だっていた。セレナートは、俺がティアーを想うのなら早くその気持ちを伝えろ、と言っていた。あれは、大切な人が、いつもまでも当たり前に生きて側にいてくれるとは限らない。そう教えてくれていたんだ。


 結局のところ……俺は最後まで、ティアーに何も返してやれず、みすみす死なせてしまったということだ。


 故人に執着しすぎると、亡霊の魔物に変じさせて現世をさまよわせることになる。そう聞かされていたから、俺は死を覚悟して姿を消したティアー、ヴァニッシュのことを考えない、平静な振りをして過ごした。

 ふたりの魔力が完全に消滅したと、ベルは俺に直接報告してくれた。いつも通り、明るいとはいえない質の笑みを浮かべながら。


 ティアーもヴァニッシュも――俺が何も知らなかった頃からずっと、俺を守ってきてくれた。そんな彼らの気持ちを無碍には出来なくて、だから俺は彼らを失ってなお、ライトから体術、エリスから魔術の指導を受け続けた。それでも、ずっとエメラードにいる気にはなれなくて、次の船で人間の島へ帰還したのだった。


 目覚まし時計を見ると、まだ正午にもなっていない。目当ての時間までが遠すぎて、うんざりする。

 こういう時って、どんな風に時間を潰していたんだっけ。そんなことさえ、今の俺には思い出せなかった。

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