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狼少女が好きすぎた魔力最強高校生が、魔物の世界で認められるまで頑張ります。【GREENTEAR】  作者: ほしのそうこ
本編一章 狼少女の嘘 【Forest dragon Source=Aira】
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12話‐3 始まりの記憶

 ライトとの約束の、当日になった。今日は雲ひとつない快晴なので、夜になればまごうことなきまん丸の月が拝めることだろう。


 午後の、エリスの魔術指南が終わった後。俺はひとり、夕食用の火を焚いている。今日の夕食調達を担当するライトと、どこへ行ったか知らないがティアーはいない。

 俺の護衛にはヴァニッシュがついているが、火おこしポイントである広場の中央からはやや離れた、ツリーハウスの大樹の根本に狼の姿でうずくまっている。そんなヴァニッシュの傍らには何をするでもないエリスが控えている。


 ここのところのヴァニッシュは、いつもこんな感じだった。ただでさえ物静かな男ではあるが、活発に動いているところをしばらく見ていない。まあ、襲撃もなく平和だからっていうのもあるから悪いことじゃあないのかもしれないが……。


 後ろ手に何か隠しつつティアーが帰ってきた。

「前に約束してたものを採ってきたの。これ、崩れやすいから気をつけてね」

 何かをやり遂げたような満足げな笑顔で差し出したのは、緑色の果実だった。表面はでこぼことしていて全体に白い亀裂と黒い斑点がみられ る。人間の島のそこいらの八百屋・果物屋では扱っていない、つまりは見覚えのない果物だった。


「エメラードでしか採れない果物だよ。あたしが知ってる限りじゃとっておきのオススメなんだ」

「とっておきかぁ。ありがとな、ティアー」

「えへへー、どういたしまして!」

 エメラードでないと食べられないとか、とっておきとか、一体どれだけのものなのか楽しみだ。


 夕食を終えると、ライトが食休みをしたいと言って寝転がり、その瞬間にはもう盛大にいびきをかき始めた。ティアー、ヴァニッシュ、エリスはツリーハウスの小屋で就寝し、入れ替わりに起床した豊と世間話をしながら俺は待つ。


「さー行くか!」

 眠った時と同じ唐突さで、ライトが勢い良く身を起こす。月が天辺に届く少し前、といった頃合になっていた。

「ちょいと遠出をするんで、おいらの背におぶされ。そんで、持ってく実は敦にまかせていーかい?」

「ああ。いいんだけど、けっこうな量だな」

 ライトは、彼が魚を獲る時などに使う、背負うタイプの籠いっぱいに果実を詰めた。俺はその頂上に、ティアーから贈られた、たったひとつの実をそっと乗せる。


「紹介したい奴がいるんでな、その手土産さ」

「ライト、もしかして何かたくらんでないだろうな」

 疑わしげな表情で、豊がライトをうかがっている。

「まさかまさか。何を根拠にそんなこと」

 けらけらと軽い調子で笑い飛ばすライト。うん、確かにこれは何かたくらんでるリアクションだ。


「わざわざ満月を選ぶっていうのが何かきな臭い。満月は月からの魔力が最も強くなって、それを苦手とする魔物もいるんだよ。そういうのを狙ってるんじゃないのか、と思ってな」

 俺にもわかるようにと配慮してのことだろう、豊は詳細に指摘する。

「それは行ってのお楽しみさ。心配しなくても、おいらがいる限りソースに手出しはさせないって。それくらいは、このタイタンのライトを信用してくれるだろ?」

「――まあ、な。危険がないならそれでいいさ」

 最強の戦闘種族とうたわれる、巨人族。その名を出されては、誰もが頷かざるを得ない。豊も大人しくそれにならった。


 ライトの動きは、以前かつがれて移動した時と比べてかなり俊敏になっていた。今にして思えば、あの時はただ適当に走っていただけなのだろう。今は、同じ走るのでも旋風のように駆けていた。木々の隙間をすり抜けるように走り続けるが、背に乗せた俺がさらに背負う籠の中の果実はひとつとしてこぼれ落ちない。 時折、岩やがけといった障害物を一足跳びに軽々と超えていく。

 時には夜の森の上へ跳び、木々の波を風を受けて眺める一瞬もあり、空を飛んでいるような錯覚をした。刹那的に流れていく、海のような夜の森の風景に見とれていると、目的地に着いたらしい。


 ライトが立ち止まったのは、傾斜のある崖の真ん中。そこにぽっかりと開いた穴ぐらに俺を下ろすと、すかさず俺の背中側にでかい体を滑りこませる。俺の背丈でも天井は近く、当然ライトには小さすぎる穴の中、彼は両手のひらと両膝を地面に付ける。

「よお、サリーシャ。久しぶり」

「まったく……ライトは本当に、しようのないやつだね」


 月明かりの射し込むぎりぎりのところに進み出てきた人影がある。最初に見えたのは、青い肌の足。そこでまさか、と思ったらそのまさかだった。


 俺がエメラードに来て最初に、ソースとしての俺を狙ってきた魔物……青い肌にぼろぼろのローブをまとった老婆、ブラック・アニスだった。


「また来たのかい」

「また来たのさ。わかってたくせにぃ」

「それも人のぐったりしてる時にさ。気分の悪い言い様はやめとくれ」


 不安に思うよりも先に、ライトと彼女との空気を察する。ブラック・アニス――名前はサリーシャ、なのだろう――の態度から、彼女がこの訪問を迷惑がっているらしいとわかる。


「例によって、用が済んだら帰るからよ。いつものあれ、頼むわ。ほれ、敦」

 口調こそ和やかなものの、ライトは明らかに威圧的で、サリーシャに命じている。言いながら、俺に指でジェスチャーしつつ何事か伝えようとしているので、 俺は背負っていた籠を下ろした。その解釈は正解だったらしく、ライトはいくつか果実をつかむとサリーシャの足元へ転がす。


 やれやれ、と心底かったるそうな彼女の動作に、俺は思わず過去の確執も忘れて同情したくなった。

「手短に済ませてもらえるように祈るとするよ。ほれ、いつもの」


 やはり満月の光にさらされるのを避けているのか、暗がりからサリーシャが投げてよこす。ライトが受け取ったそれは、くすんだ頭蓋骨だった。大きさ、形からして、人間か人型の魔物の骨なのだろう。


 思い出すのは、俺を狙って現れたサリーシャと対峙した時。彼女は言っていた。かつて口にしたソースの骨を、今も持っていると。


「こいつはおいらの知る限りでの、最初のソースだ。名前はいずみ。苗字は聞かされてないし、持っていたかどうかも確かめてない」

「俺がライトに何を訊こうとしてたのか、わかってたんだ」

「ソースのことだろ? あるいはベルとおいらがどうして、ソースの手助けなんて得のないことしてるのか興味があるってことか。こういう流れになるのは毎度のお約束なんでな。ベルかおいらかだったら、おいらの方が訊きやすいっちゅうのはわからんでもないし」

 してやったり、と言わんばかりに、しかし彼にしては静かに、ライトは笑う。


「でもな、これからするのは聞くも涙語るも涙……ってほどじゃあないが、おいらが語るにはちょいと涙のお話なんでな。酒の勢いでもなけりゃあやってられないのさ。涙と言っても悔し涙の方だがね。いわゆる若気の至りってやつか……なー、いずみ」

 ライトはサリーシャから渡された頭蓋骨を、左手で自分の目の高さに持ち上げ、右手で頭頂部を撫でてみせる。その横顔は、いつだってにぎやかで仲間の中心にいた彼と同一人物とは思えないくらいに――孤独だった。


 サリーシャは奥深くに引き込んでしまったので、俺とライトはとりあえず洞窟の出口に並んで腰を落ち着けることにした。

「今日は見事な満月だなぁ。どーよ、いずみ。ひさかたぶりの月明かり、気持ちいーだろ! あっはっは」

 ライトの太股の上には、サリーシャから渡された頭蓋骨がある。彼は時折、その頭のてっぺんをやさしく、まるで綿毛に触れるようにささやかに撫でてみせる。


「おいらが最初にエメラードを出たのは、生まれて五十年経つか経たないか、って頃だった。ちゅーことは今から五五〇年くらい前、てことになるかね」

 もはや自分でもうろ覚えなのか、ライトは右拳で自身の頭をぽくぽくと打ち、顔をしかめながら話している。


「その頃はまともな船なんざなかったもんで、島を出るには手間暇かけて、強~い海の生き物を手なずけたのさ。アクアマリンかフェナサイトか、どっちかの島に着くまでひとり乗せて泳いでもへばらないくらいのガタイのいい奴をな」

 命がけなのに、それはそれで楽しそうだな、なんていい加減なことを思う。


「エメラードを出たっつっても、特に目的があるわけじゃあなかった。単純なことさ。ここは今と変わらない、退屈だったんだ。日が昇ったら起きて、適度に食って、日が沈んだらまた眠る。魔物同士の争いはなく、適当に交流しつつ、基本は我関せず、さ。特に巨人族ときたらエメラードの山むこう、集落にこもって 出ようともしない。神に次ぐ、地上最強の生物とうたわれたのは神話時代のこと、どいつもこいつも目に生気がありゃしない」

 やれやれとごちて、ライトはついでとばかりにここまで運んできた実のひとつを割った。その動作からは、ほんのかすかにやるせなさ、というか哀愁を感じた。


「でも、退屈になったのは戦わなきゃならないような相手がいなかったからじゃないの?」

「そうさなぁ……当時のアクアマリンは荒くれの魔物の溜まり場で、奴らは気まぐれにフェナサイトへ集団で赴いて悪さをしては帰ってくる、人間にとっては暗黒そのもので平和なんて夢想だにしない世の中だったぞ。ただ、エメラードにいる分にはその限りじゃあなかった」

 随分と軽く言ってくれるものだが、そりゃあ確かに人間にとっては生き地獄だったことだろう。普通に生きてて、気まぐれに大量虐殺されるなんてとんだ世の中だ。


 ……でも、今の人間の世の平和なのは、そんな時代の積み重ねの結果なのだろう。俺達が何かしたわけじゃないのに、過去の人達の死にもの狂いの戦いが、俺達に安息の島を与えてくれた。その戦いの頂点にあったのが、セレナートが今も大事に守っている遺体の女性がソースとして生きた時代――だったかな、確か。


「おいらもな、適度に刺激のある場所にいたいと思っただけだから、とりあえずエメラードを出てアクアマリンにでも行こうか。そう思っただけだったのさ。ところが潮の流れの読みを間違えて、たどり着いたのがフェナサイトだった……おい敦、それ、貸してみ」

 話を中断して、ライトは俺の抱えてる、ティアーの渡してくれた果実を指す。俺は素直に、それを渡した。


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