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狼少女が好きすぎた魔力最強高校生が、魔物の世界で認められるまで頑張ります。【GREENTEAR】  作者: ほしのそうこ
本編一章 狼少女の嘘 【Forest dragon Source=Aira】
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12話‐2 始まりの記憶

 シュゼット、俺、エリスと続いて小屋に入ると、あぐらをかき、うろんな目つきでこちらを眺めている豊に迎えられた。この時間は豊も眠っているはずなんだけど。


「何しに来たんだよ、シュゼット」

「そう邪険にするものではない。私がそなたにうとまれるようなことをしたか?」

「してないけど、なんっかこの前会った時から、妙な空気を感じるんだよな。あんたから」

「そうかい。ヴァンパイアの感覚も曇ったものだ」

 しれっと流しながら、シュゼットは適当に腰を下ろす。一応気を使っているのだろうか、豊からやや距離を取った、窓の近くを選んだ。


 魔物が魔力を回復するためには太陽光の恵みを受けるのが一般的だが、ヴァンパイアを含め少数派は月光の加護により魔力を補給する。その理由は、太陽光の魔力が月光のそれより遥かに強すぎて、かえって肉体に負担をかけてしまうからだという。

 しかし、月光の魔力には太陽のそれとは異なったある特質がある。何でも、神竜の一体である月光竜ムーン=セレネーには未来視があったとかで、その加護を強く受ける夜の魔物には危険を察知する能力が一般よりも優れて備わるのだという。


 もちろん、月光竜のように未来そのものを完璧に見られえうわけじゃない。虫の知らせ程度の予知。ベルがそういったことをしてみせたのは一度や二度ではなかった。 五百年に渡ってヴァンパイアとして生きてきた彼女と豊ではまだその能力にかなりの開きがあるけれど、豊のいう「いやな空気」とやらは軽視していいものではな いだろう。

 ……そう思いながらも、俺個人としてはシュゼットに対して妙な印象は少しも感じていないので、判断に困るところだった。


「けれど、本当に今日はやましい用事はないのよ? そろそろ敦にも魔物名が必要だと思って、シュゼットにはその協力を頼んだだけだもの」

「俺の? ……そういや初めて会った時、オルンがそんなこと言ってたっけ」

 あれからもう、ひと月半経ってしまったので、すっかり忘れていた。


「でも、随分経ったからどうして魔物名が必要なのかは忘れちゃったよ」

「魔物名はね、魂の式を解析し、本人の魔力に程よく刺激を与える式を組み合わせたもの。いわば個人に特有の呪文と同意ね。けれど、魂の式を視認するのは夢幻竜の能力で、彼の死後は夢幻竜を補佐をする夢魔達の特権となった。だから今回のように新たに魔物名を命名するにあたっては、夢魔の協力を仰ぐ必要があるのよ」

「シュゼットは不死鳥だろ? 夢魔じゃないじゃん」


「私の左眼は、ゆえあって夢魔より移植されたものだ。あまり愉快な経緯ではないが」

 シュゼットはあからさまに機嫌悪く、そう吐き捨てる。そうさせるだけの経緯があったってことだろうか。

「夢魔に借りを作ると返す手間もあるから、シュゼットには以前から協力してもらってきたの。今回も同じ」

 一連の話を聞いていて、不意にティアーのことを思い出した。彼女は俺が深く考えずにつけた名前を大切にしてくれているが……。


「ティアーにも本当の魔物名があるのかな」

「さぁ。それに関してはティアーが、かたくなになって口を閉ざしているものだから」

「え、なんでまた」

「敦にもらった名前があるから、古い名前なんていらないんだと」

 その台詞の最中に大きくあくびをして、眠気の限界が来たらしい豊がこてんと倒れた。壁の方を見て、俺達に背を向ける形だ。まぁ、豊は寝相が悪いから、眠る前に気を使った態勢だってその内意味をなさなくなるだろうが。


「エリス。私も早いこと済ませて帰りたいのだが」

「シュゼットも、もう少し外へ出た方がいいんじゃない? 食事の時しか外へ出てこないなんて健康的とは言えないわね」

「用もないのにうろつくか」

 投げやりに反論するシュゼットに、エリスは肩をすくめる。

「わかった、早く済ませましょう。敦、あなたの楽な姿勢でいいから座っていて。余計な動きはしないように」


 そう指示されたので、俺は膝を立てていた足をあぐらをかく姿勢へ変えた。その間にエリスは、彼女がいつも右足に巻いている皮をほどく。皮は広げると、ポニーテールを縛っている白いバンダナを広げたのと同じ正方形になった。

 シュゼットはよつんばいになって、俺ににじりよってくる。その距離があんまり近すぎて思わずたじろぐが、「動くなと言っただろうが」とシュゼットに釘を刺される。

 最終的に、シュゼットはその鼻が触れるんじゃないかという至近距離から、一心に俺の胸の真ん中を睨み据えている。


「エリス、準備はいいか」

「ええ。始めて頂戴」

「始めるぞ」

 そう宣言すると、シュゼットは右目だけを閉ざし、呪文と思われる言葉を呟き始めた。その呪文を聞き取るエリスは、皮に人差し指で魔術式を描いていく。


 ――全ての作業が終わるまでには、俺が想像していたよりも遥かに長い時間が費やされていた。考えてみれば、人ひとりの魂の式がそんな単純構造をしているわけもなく。その解析のために模写をするとなればそれだけの時間がかかるのも道理。動くな、と前もって注意されたのも頷ける。


「これで、終了ね。ふたりとも、お疲れ様」

 エリスの言葉と同時に、俺は力尽きて後ろへ倒れこんだ。シュゼットはというと数時間もよつんばいでいたというのにけろりとしたもので、すんなりと立ち上がると、

「まったく、これしきのことでダウンするとは、人間の肉体とは不便なものだな」


 エリスとシュゼットは、完成した俺の式を挟んで協議している。模写をしたからはい終了、というわけではなく、俺に最適な魔物名を見つけ出すためにここからの熟考が必要になる。長ければ数日とかかるこの作業に、エリスはこれかから取り掛かってくれるという。まさかそんなに手間がかかるんだと思っていなかっ たので、俺はエリスと、とりあえず今日手伝ってくれたシュゼットへ感謝を述べて、ツリーハウスを後にした。


 思いっきり体を動かした後のそれとは正反対の、気持ち悪い体の疲れを引きずって、下の広場へとやって来た。そこにはライトと、昼食の材料を持ち帰ってきたらしいティアーと。

「おう、お疲れさーん」

「お疲れー、どうだったー?」

「意外と疲れたよ……あれ、ヴァニッシュ?」

 肉を焼く火の傍らで、こっくりこっくり、居眠り寸前の体の揺らし方をしているヴァニッシュ。俺の呼びかけにびくりと大げさに体をひきつらせる――完璧に、授業中に寝ていて教師に起こされた時のそれだ――その姿はいつもと見慣れないものだった。


「その、耳としっぽ、どうしたんだ」

 銀色の毛並みをした大きな耳としっぽが、人間の姿をしたヴァニッシュに現れている。指摘すると、ヴァニッシュは照れたようにうつむいてしまう。

「あっははー、油断してたろーヴァニッシュ!」

 その笑い声と同じ豪快さで、ライトがヴァニッシュの頭を数回叩くと、これまたヴァニッシュが珍しい表情を見せる。んー、と呻いて目を瞑り、眉をのたうたせている。たぶん、本気で痛かったんだろう。


「そうだ、ライト。ちょっといいかな」

「お? なんだい、敦」

「実は、かなーり前からライトに教えてもらいたいことがあったんだ。いつでもいいから少し時間を作ってくれないか?」

 ベルがいると、特訓以外でライトを俺に拘束するのは何故か気が引ける。別にライトとベルは特別好き合ってるとかではなく、単に昔なじみの仲間というだけなのだが。自分でもそのわけはわからない。


「いつでも? おいらの都合でいいんかい?」

「ああ、もちろん。頼んでるのはこっちなんだし」

「そーだなー、……じゃあ次の満月まで待ってもらおうか。せっかくだから晩酌にでも付き合ってくれや」

「じゃあそれで。つっても俺は酒を飲むわけじゃないけど……」

「何だよ、エメラードじゃあ人間の決まりなんか関係ないだろー?」


 人間の島では成人こそ十八歳だが、喫煙と飲酒は二十歳まで法律で禁止されている。とはいえ、高校生ともなれば隠れてやってる連中も少なくない。

「法律とか関係なくて。父さんがさ、昔、言ってたんだよ。俺の二十歳の誕生日にふたりきりで飲んで語るのが、父さんの昔っからの夢なんだってさ」

「へぇー、そいつはうまいこと言ったもんだなぁ、おまえの親父は」


 ライトの言う通り。今にして思えば、俺が隠れて悪さをしないように、父は先手を売ったんじゃないかと想像も出来る。「父さん、自分の子に男の子が生まれたら、二十歳の誕生日にサシで飲むのが子供の頃からの夢だったんだー」なんて言われて、その夢をあえてぶち壊しにするようなことをおいそれと出来るだろうか。少なくとも俺には無理だった。


「うわぁ、おじさん、そんな素敵なこと言ったんだぁ」

 ティアーは父と面識がある。その父がそう言った場面を想像して、目を輝かせている。

「それじゃあ、お酒の代わりにあたしが敦の分のお夜食を探してくるよ」

「う~ん……手間かけさせてごめんな」

「いいのいいの、あたしだっておじさんにはお世話になったんだもの」

「父さんも母さんも、ティアーにとても感謝してるんだ。俺達が家を出た夜にそう言ってた」

 俺ひとりだったら、いくら必要だからと言ってもエメラードになんて簡単には行かせられない。でも、気心の知れた彼女が側にいてくれるっていうなら、きっと心強いんだろう。両親はそう言って俺を送り出してくれた。


「そっかぁ……おじさんもおばさんも、何だかもうとっても懐かしいや。元気にしてるかな」

 思いがけず懐かしい話題になって、俺もティアーもしみじみとしてしまう。……ここだけの話、彼女に告白して撃沈したばかりのわが身には、思い出話は優しいだけではなかったけれど。


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