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狼少女が好きすぎた魔力最強高校生が、魔物の世界で認められるまで頑張ります。【GREENTEAR】  作者: ほしのそうこ
本編一章 狼少女の嘘 【Forest dragon Source=Aira】
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11話‐1 純潔・祈り・苦悩

「終わりましたよ、敦さま。目を覚ましてくださいな」

 くすくすと小さく笑いかける声が、俺の鼻先をくすぐっている。深く深く眠っていたような気がするのだけど、まぶたを上げてみると目覚めはとても軽やかだった。


 狭い場所……そうだ。ここは、ツリーハウスを建てた大樹の。これまた立派で部分的には山なりに盛り上がっている根、それによって生まれた空洞をさらに掘りこんで作ったスペースだ。根と根のすき間からかろうじて射し込んだ一筋の日光が、視界をふたつに裂いている暗がりの中。かつ、小屋の中で集団で休むのと比べると、どことなく温かく包まれているかのようなこの場所。下は土に、上は木に手厚く守られて、寝心地がいいような気がする。


「――ちょっと待て、なんで俺は眠ってたんだ? こんな非常事態に」

 そう、今はこんな呑気な思考をしている場合じゃなかったんだ。


 十日くらい前。月に一度の船がエメラードに着いた。船には少なくとも五、六人以上の魔物が乗り込んで、この島に上陸した。というのが浜辺に住む仲間、ドワーフのオルンからの報告だった。

 エリス達が言うには、ソースを狙う魔物はエメラードに来てすぐにこちらの拠点を襲撃したりしない。何せ一世一代の博打を打ってるようなものだから、数日は下準備や様子見をするのだと。


「エリスの指示ですよ。足手まといだから寝かしつけておくように、とのことだったので。僭越ながらわたしの力をほんの少し使わせていただきました。敦さまも、本当は不安に思うところもあったから、わたしの能力が滞りなく働いたのですよ」

 すっかりくつろいだようなサクルドの態度に、彼女の言う通り、目の前の脅威はすっかり去ったのだろうと感じられる。


 俺は魔術壁はもう問題なく扱えるし、軽めの攻撃魔術もいくつか習っている。が、いわば今回は初の実戦となるはずだったわけで。それがこわくない、緊張しないなんてことはよほどの自信家でもなければありえないだろう。

「その自信家も、過去のソースにはひとりおられましたけれどね。常日頃から言動の面白い方で、ベルやライトによくいじめられて」

「その人、最後はどうなった?」

「――長生きされて、とても素敵なお爺さまになられましたよ」

 意味ありげな、返答までの間と表情に、何となくサクルドは嘘をついているような気がした。


 ともかく、わざわざ起こされたのだからもう外へ出ろってことなんだろう。身を起こし、膝立ちになってもなお動きにくい空間から、何とか抜け出そうと試みる。


 出口からたっぷりと入り込む、森の中の日向。その中心に、柔らかな影がティアーの後ろ姿を形作り陣取っている。


「敦……起きたんだ」

 振り返って声をかける彼女の表情には、疲れが見える。

 大変な時に、ひとりで眠りこけていた自分の不甲斐なさを、痛感した。


「いやー、こいつは大猟だなぁ」

 なんておどけているライトにも、他のみんなにも、ひと仕事終えたという達成感などない。

 外へ出ると、その場を支配していたのは、ただただ疲労一色だった。

 おそらく手首足首を縛ってあるのだろう、数えてみると六人もの魔物が地面に転がされている。



 遠目だから定かではないが、よほど体力を消耗したのか座り込んでいるヴァニッシュ。その横に立つエリスは気を抜かない厳しい視線で辺りを見回している。

 昼間から激しく動かされて豊もベルもしんどいだろうな。そう思い、どこか肩を落とすような姿勢で立ち尽くしている豊の方へ向かおうとしたら。


「おーい、お弟子ちゃんやーい」

 手首足首を縛った魔物達を引きずって、ベルがのんびりとした歩調で豊の前に立つ。魔物の中には地面に顔を擦っている者もいるのだが、目を覚ます様子はない。ベルの能力は相手を眠らせるのに特化しているとかで、彼らはベルが許さない限りもはや決して目覚めることはない。そして、彼らはこれからベルに残らず血をいただかれるのだから……実質、彼らが生きて動くことはもうないのだろう。


「なんだよ」

 お弟子ちゃんというのは豊のことだ。ベルは何故か、他人を名前で呼ばない。ライトとエリスは付き合いが長く深いせいかその限りではないが。きっと、これから俺の背が伸びたとしてもずっとおチビと呼ばれるんだろうな。


「これ、アンタにあげる。お裾わけ」

 眠っている魔物のひとりを適当極まりない動作で投げてよこす。

「お裾わけ、って言われても、なぁ」

「ひとり分の血でしばらくは何もしないで暮らせるわよ。アンタが何もしないでもコイツはアタシの中に収まるだけ。結果は同じよ。ま、もう渡しちゃったんだし、無駄死にさせるかどーすっかはアンタに任せるわ。んじゃー、おっ先ぃ」

 左手に魔物を引きずり、右手でひらひらと手を振り、ベルは姿を消した。


 豊はうつぶせにぐったりと横たわる魔物を見下ろす。割と大柄な男の魔物だ。髪は痕跡も残らず剃ってあって、首から下は暗幕のような重苦しいローブで覆われている。こう言うのは何だが、てるてる坊主みたいで情報量の少ない感じだと思う。

 たっぷりと悩んだのだろう、やがて豊は男を背負うと、ベルの向かったのとは逆の方へ歩いていった。


「敦……靴も服も、もうぼろぼろだね」

 いつの間に側にいたのか、ティアーがそう呟いた。

 上はティーシャツ、下はジーンズを三着ほどで着回しているせいか、いくら洗っても追いつかないような薄汚れた有様ではある。しかし、服はまだまだ持ちそうではあるのだけど、靴の方は布が裂け底は擦り切れてしまっている。

「そうだなぁ。もう、ティアー達みたいに裸足で歩いてもいいものなのかな」

「エメラードには、人間が噛まれたら危険な虫や蛇もいるので、やめた方がいいと思いますけど」

 危険や正体不明な出来事が去ると、割とあっけなく姿を消してしまうサクルドが、今回はまだ俺の頭の周りをちょろちょろと浮遊している。


「靴ならあたし、頼れるあてがあるんだよ。すぐに貰ってきてあげるから待ってて」

「ティアー、だけでなく、あなた達! まだ油断はしない方がいい、今日のところはあまりここから離れないようになさい!」

 エリスが声を張り上げる。取り乱した、というわけではなく、あわよくばすでに姿の見えないベルと豊にも声が届くようにという配慮だろう。


「で、あてとは誰のことかしら、ティアー? 出かけるなら行き先を前もって教えておくこと!」

「ええっと、ボーンのところ。帰りにセレナートにも声かけてこようかな」

「よろしい。それ以外の寄り道は禁止よ」

「ティアー、無理はしないで、なるべく早く帰ってきてくれよ」

 というか、ティアーはひと月前に単独行動をしているところを襲われたんだ。心配するなっていう方が無茶だろう。


「うん……みんな、心配してくれてありがとね」

 少し照れるように笑いながら、ティアーは駆けていった。一応、急いでるってことなんだろうか。


 ……でも、急いでいるのなら狼に戻っても良さそうなものだけど。そういえば、しばらくティアーの狼の姿を見ていないような気がする。以前は眠る時、必ず狼に戻っていたのに、いつの間にかそれさえしなくなっていた。


「さぁて、敦、あなたも。今日はもう小屋に入って、落ち着いて過ごしなさい……と、言いたいところだけど」

 言いながら、エリスは、彼女がこれまでに見せたどのような表情よりも厳しく、俺を見据える。そのまま、折れるんじゃないかとたまに本気で心配になる、華奢な人差し指をツリーハウスに向ける。

「大事な話があるの。とりあえず、上へ」


 ツリーハウスの小屋は、俺達にとってほとんど寝るための場所でしかない。強い雨が降って外へ出られない場面を除いて、日中はずっと外にいるからだ。そもそも日が出ている間、ベルは小屋の中で眠っているのだ。ただでさえ気分の上下動が激しい彼女のこと、睡眠を邪魔しようものならどんな仕返しをされるものだかわかりゃしない。

 だから、木々の天井の上に太陽が陣取り青空の広がる時間から小屋の中で、エリスとサクルドとの三人ぽっちでいるというのは珍しい場面だった。


「で、大事な話って?」

「簡潔に言うと、性教育よ」


 腰を下そうとしたところでそんな単語を投げられて、思わず膝が崩れ落ちる。

「そりゃあまた、随分と唐突な」

「よくわからないけれど、人間はこういう話を人前で懇切丁寧に語ろうとするのを嫌うと聞くわ。だから、周りに他の者を置かずに済むタイミングを狙っているのよ」

 なるほど、何でよりによってこんな慌ただしい時に……と思ったものだが、逆に今日だからこそというわけか。


「それで、エリス先生? その性教育とやらは具体的にどういったもので」

 彼女の言う通り、下ネタとしてなら人間も公然とその手の話もするけど、性教育として至極真面目に話すのは確かに、何となく気まずい。俺自身、気恥ずかしさからつい茶化すような言い方をとってしまっていることに気がついた。


「まず、魔物の性交は人間のそれとは違い、単純な繁殖のための行為よ。愛情の確認といった、感情の問題とは無関係。ちょっと外へ出て、ライトから話を聞いてきなさい」

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