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狼少女が好きすぎた魔力最強高校生が、魔物の世界で認められるまで頑張ります。【GREENTEAR】  作者: ほしのそうこ
本編一章 狼少女の嘘 【Forest dragon Source=Aira】
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5話‐1 魔物の中の人間

「敦、起きて。アクアマリンが見えてきたよ」


 部屋の隅、布団も使わず壁に身体を預け眠っていた俺にティアーが声をかける。

 船の旅は想像以上に暇を持て余し、結局寝る以外にできることはなかった。最初こそ海の風景はもの珍しかったものの、あまり変わりばえしないからすぐ飽きてしまった。


「もう暗いじゃないか。電気つけないのか? あ、豊がまだ寝てるからか」

 太陽はすっかり沈み、部屋のあかりもついていない。そのおかげで、このまま何事もなかったように眠りに戻ってもいいような気になってしまう。


「あたし達の居場所を隠す、気休めみたいなものだよ」

「あー、そうか。夜にあかりがある部屋なんて目立つよな」

 ただでさえ、客は俺達だけ。船員も何人かいるだろうが、港に着くっていうのに自室で休んでいるようなのはいないだろう。


「あかりがなくたって、あたし達がこのあたりにいるっていうのはバレバレなんだけどね。ソースの魔力を嗅ぎ分けられないような魔物はいないから」

「他の魔物の魔力と違うものなのか? 量がけた違いってだけで、質は変わらないのかと思ってた」

「ううん。魔力自体は、神竜だろうと魔物だろうと、人間だってみんな同じ。基本的に魔力って垂れ流しのままで、隠したりごまかしたりするのってすっごく難しいんだ。それで、ソースの魔力はその量がけた違いだから、遠くにいてもどこにいるかすぐわかっちゃうんだよ」


「それって……もしかして狙おうと思えば簡単なんじゃ」

「言いにくいけど、そーいうこと。ま、おかげであたし達だってすぐ敦のこと、見つけられたんだけどね」

 俺を守ってくれていたティアー達を呼び、俺を殺してもかまわないと考える連中もまた呼び寄せる。迷惑といえば迷惑だし、ありがたいといえば――いや、結局はソースの力がすべての原因なんだから、やっぱり迷惑と考えてもいいのかな。


「でもさ、それならなんで俺が生まれてすぐに殺そうとしなかったんだろう。その方が手っ取り早いんじゃないのか?」

「それがねぇ、ソースの力は持ち主が大人になるまで目覚めないんだよ。人間側の指導者になってほしくて託される力なんだから、子供が持っててもしょうがないでしょ。確か、たいてい十五歳前後くらいに発現するって聞いたよ」

 フェナサイトの制度上の成人年齢は十八歳だが、それとは関係ないんだな。当たり前といえば当たり前か。あくまで現代感覚の成人であって、昔はもう少し幼い頃から一人前に生活しなければならなかったはずだし。


「ソースが目覚めた時と死んだ時って、あたし達魔物にはすぐわかるんだよ。アクアマリンにいても、エメラードにいても。それだけ強力で、特別な力なんだ。ソースがどんな生き方を選ぶかによっては、戦いの始まりと終わりの合図にもなるし」

「いくらソースだからってひとりの人間にそんな大それたことができるかな」

「できますよ、もちろん」


 いつの間にか、胸元にサクルドが現れていた。状況にもよるが、彼女が出ている時は首から下げている小瓶を外すことにしている。どうせ話をするなら顔を合わせていた方が話しやすいからな。

「人間は結託して生きる生物ですから。過去のソースの中には、人間を先導して魔物と闘おうとした方がおられました。残念ながら当時は人間の敗北に終わり ましたけれど、正直、今のフェナサイトの技術力はあなどれるものではありません。たとえば敦さまが同じように行動された場合、結果は変わるかもしれません」


 フェナサイトの技術力と言われても、庶民レベルの生活をしている俺達にはその手の情報は、興味をもって自ら関わろう調べようとしない限りあまり入らない。政府に近い機関やら研究所やら、極秘で特殊な仕事をしている人々にしか知りえない。緊急時のために、ある程度は魔物に対抗できる兵器の類を準備しているだろうとまことしやかに囁かれてはいるものの、表向きは魔物に対して完全屈服を宣言している立場上、公言はできないのだろう。


「兵器に限らず、民間企業が開発した家電等も、魔物側からすれば大した発明なんですよ」

「そうだよね。手で洗えばいいものをちょっとでも手間を惜しみたいってだけのために、莫大な時間と労力かけて機械化しちゃうなんてさ」

「いやいや、その労力と時間はとっくに還元されてるんだからいいじゃないか。一部の人が死ぬ思いで頑張ったことが、後世の全ての人間にとって便利な暮らしを授けてくれたんだから、こんなにありがたいことはないって……」

 冗談めかして言ったつもりだったが、ふと思い至る。もしかして、人間を先導して闘ったというソースも、そんな心境だったのだろうか。

 もしも人間側が勝利していたら、今のように魔物に対して一方的にへりくだる必要はなかったかもしれない。そう思ってサクルドを見ると、その表情で肯定しているのが明らかだった。


「そういや、ヴァニッシュは?」

「甲板に出て、見張り役。やっぱり、今はヴァニッシュが一番頼りになるから。ここもあたしだけじゃ心もとないから、豊にも起きててもらうよ」

 俺を起こしたのも、万が一誰かにここまで踏み込まれてしまった時に、眠りこけていられたら邪魔だからだろう。


「豊ー、夜だよー。アクアマリンに着くよー」

 昨夜の様子のまま布団の中で眠っている豊を、ティアーが揺り動かす。二十四時間近く眠ったのだからさぞ満足だろうと思いきや、まだ寝足りないような面持ちで、身体を起こしはしたものの目を開けようとしない。

「おはよう。相変わらず寝起きがだらしないんだから」

 あ、そういえば学校でもよく寝てたよな、なんて懐かしいことを思い出した。


「あー……おはよう。つっても、もう夜だよな……」

 二の腕で目をこすった後、豊はようやくすっきりと目を開ける。

「……豊、なんか目が変じゃないか?」

 サクルドのあかりがなければ、気がつかなかったかもしれない。昨日まで俺と同じ黒目だったのに、深みのある緑色に変わっていた。

「ああ、これか」

「豊は目に出たんだね」

「どういうこと?」

「魔力には色があってね、ダムピールからヴァンパイアになるとそれが目か髪にあらわれるんだ」

「髪じゃなくて良かったよ。伸ばさなきゃならないから面倒になる」

 目の色が変わっただけで、顔の全体的なイメージまでかなり変わったように見えるのが不思議だ。髪の色が緑で、かつそれを長く伸ばしている豊の姿を想像すると、申し訳ないがちょっと笑える。あまりにも似合わない姿だったから。


 豊は部屋の外、扉の前で見張る役。サクルドはあかりが目立つと良くないと、姿を消した。ティアーはというと、険しい表情で固く目を閉じている。そうして集中した方が、魔力の気配だか何だかを察知しやすいのだそうだ。

 そんなわけで、窓の丸い形で外から死角になる位置を利用して向かい合わせ座っているものの、会話もなく静かな時間が流れていた。


 アクアマリンの港に着き、船はしばしの休息を得る。とはいえ、船員達にとってはかえって忙しい時間になるんだろうけど。

 窓から姿を見せるなというので、限られた視界で港の雰囲気を探ってみる。しかし、昨夜のフェナサイトの港と変わり映えしないので何だか物足りない。

 ――アクアマリンの、人間からの物資への依存度は高まる一方です。

 音ではないサクルドの声が届く。

 ――ここに住む魔物達の暮らしぶりも、人間的でもあり魔物的でもあり、その境界があいまいになってきています。魔物としての自尊心を持ちながら、人間の生活様式に慣れつつある自身に、迷いを持つ者も少なくありません……。

 憐憫の言葉を聞く一方、俺は見た。昨日、トイレで嘔吐していた船員が貨物車を動かす姿。前方に手を振ったかと思うと、車を降り、走ってきた女性らしき人と抱き合う場面。

 距離があるため、指先ほどにしか見えない小さな光景。しかしながら妙にインパクトがあって、この時はサクルドの言葉をすっかり聞き流してしまっていた。

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