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狼少女が好きすぎた魔力最強高校生が、魔物の世界で認められるまで頑張ります。【GREENTEAR】  作者: ほしのそうこ
last そして、世界は今日も続いている
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貴様を夢魔に任命するにゃ!

2023年、エブリスタにて番外編を連載しました。番外編イコール「本作品の大事な部分全ネタバレ」を含むため、なろうには投稿出来ないと思います(した方がいいのかすごく迷っているのですが・・・)


(追記 別作品ではなく、本作品の間に挟む形で番外編もほぼ掲載しました。

センシティブな表現をなろう版では削除しています)


13話「銀のかけら」直後の話です。

 目覚めたつもりで、ほわぁ~っとあくびをしたら、周囲は暗闇一色だった。




 そもそも、目覚めるっていうこと自体がおかしいなと後から思い至る。オレはたぶん、もう死んだはずだった。あれ? 生前は常に苦しかった呼吸が今はなんともない。あくび、だって、そういえば生前はとてもじゃないが出来なかったなぁ。息が詰まって死ぬ思いをするからなるべくしないように気を付けていたんだ。




「起きたようだにゃあ」


 真っ黒な空間で尻餅をつきながら、目の前の人を見上げる。見上げる、といっても相手……彼らは小柄な子供だった。ひとりは前髪の片方だけ長く伸びて片目を隠した黒髪。前髪が長い割に後ろはすっきりとした短髪だ。頭から黒い猫の耳、尻からも黒いしっぽが生えていてひょろひょろと揺れている。黒いパーカーとショートパンツで、肌色以外の部分は暗闇に溶け込んでしまいそうだ。




 黒いネコの右手側には、ほとんど鏡写しにしたような白い少年が立っている。こちらは逆に、黒い空間でその白さが強烈に浮かび上がる。




「後ろのネボスケもとっとと起こしたらどうだニャ」


 ちょっとだけイライラしたような調子で、白いネコが声を出す。後ろというので振り返ると、銀色の髪で黒いパーカーの少年が倒れている。寝顔はなんだか悲しげで、確かに早めに起こしてやる方がいいかなと思わされる。




「おーい、もしもーし……」


「……うぅ」


 銀色の彼は呼びかけるとあっけなく、目を覚まし身を起こす。やはり夢のなかで泣いていたのか、幼子みたいにべそをかいた顔で目元を手の甲で拭う。




「いつまでも座り込んでないでさっさと立つにゃ」




 この状況がなんなのかよくわからなくて、オレは思わず銀色の彼と顔を見合わせる。向こうも知らないのだろうと表情からうかがえるので、諦めて立ち上がることにする。




「うっ……こいつら、十二歳からもうデカいタイプの奴らにゃ」


「ムカつくニャ~」




 オレ達の背が高めであると同時、向かい合う彼らの背が低めなんだと思う。オレ達は頭ひとつ分くらい、ネコ達を見下ろしていた。




「いつまでも気にしていても仕方ない、本題に入るとするニャ」


「そこの黄色いの。貴様を我が父、夢幻竜シェイド=ジオに代わってナイトメアとして任命するにゃ」


「はぁ。なにゆえに……」


「貴様は父の『金のかけら』に十年の時を生かされた。あれは無条件の施しではないのにゃ。使った以上はその恩を返すにゃ」


「もっとも、ナイトメアとして務まらぬ軟弱者ならそのまま次なる転生へ回してやっても構わんニャ。貴様には適性が認められたからこその任命ニャ。有難く思うが良いニャ」




 適性とはなんぞや……と訊ねてみた。何せ、今のオレは生前のその十年? とやらが曖昧だ。どうやら、外見が十二歳に変えられた影響が記憶を曖昧にしているらしい。今はまだ思い出せないオレの生きた十年、何かと苦難の中にいながらもオレはそれを誰にぶつけるでもなく粛々と生きたのだと。




「貴様の性質は我が父の司る『安息』を体現しているにゃ。ナイトメアとして安息に尽くす適性を認めるにゃ」


「安息に尽くす、か。悪くないかもしれない……」


「見上げた心意気、それが適性ってものだニャ」


「つまり、そこに立つ銀色のみたいな弱腰には不適格ってことにゃ」




 認めるも認めないも、結果的にオレはやってもいいと思わなくもないだけで、勝手に適性を判断された挙句に不適格だと睨まれるのは理不尽だろう。しかし、銀色の彼はすっかり萎縮してしまっている。気の毒に。




「これだから銀のかけらは嫌いにゃ~。どうしてこう、受け身な奴ばっかりにゃ?」


「銀への誹りは我が父への侮辱ニャ。それ以上は許さんニャ、黒いの」


「なんにゃ~? やるにゃぁ~? 白いのぉ~」


「望むところニャぁ~」




 ネコらしく、ふしゃーっと威嚇しあって一触即発になる。話が進まないので今はご勘弁、と進言したら、彼らにとっては職務が第一とのことで場は収まった。




「ナイトメアになる以上、我々の事情を知らないでは何かと不便なので教えてやるにゃ。我々は夢幻竜様の神器。この白いのは『影竜シェイド=シロ』」


「黒いのは『影竜シェイド=クロ』という名ニャ」






 本来、神器というのはそれぞれの神竜が自らの羽を切り落として作ったもの。しかし、夢幻竜だけは例外で、二対の神器を作り出した。クロの方は夢幻竜自身の羽だけで作ったもので、影……すなわち実体がなく、夢幻竜本人以外には触れられない。シロの方は、白銀竜が羽を一枚分け与えて形を持ったため、夢幻竜以外にも使用可能だという。




 同じ「夢幻竜の神器」でありながら、クロとシロが不仲なのは、敬愛する神竜がそれぞれ別だから張り合ってのことだった。そんな仲で気の遠くなるような歳月、共に仕事をしなきゃいけないなんて大変そうだな。




「貴様らの外見を十二歳にしたのは、我々が話しやすいようにしたまでにゃ。我が父、そして我々夢魔は目に見える情報を操作するのは容易いにゃ」


「元の姿にも簡単に戻せるニャ」




 シロがそう宣言すると同時、オレと銀色の彼は本来の姿に戻った。と、同時に、記憶も徐々に戻ってくる。




「ヴァニッシュ……」


「……フェイド?」




 お互いの名前も、これまでの十年も、その少し前も。思い出した。そうとなったら早急に、確認しなければならないことがある。




「オレはナイトメアになったそうだが、ヴァニッシュは……」


「そいつにはナイトメア、サキュバス、インキュバス……どの種の夢魔も無理ニャ」


「それはわかる、無理すぎるってことは……」


「運用したいというなら、貴様の影の中に飼って使い魔としてこき使えば良いにゃ」




「ヴァニッシュが、それで良いと言うなら……」


「……良い、それで。フェイドを手伝いたい」


「しかし、使い魔だぞ……」


「……使われるのは慣れている。俺はワー・ウルフだから、むしろそれが落ち着くくらいだ」




 そう言うなら、遠慮なく手伝ってもらうことにしよう。ということで話がまとまったところで、また十二歳の姿に戻された。記憶はもう定着したのか、今度はなくなったりしなかった。

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