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鍵師のおしごと  作者: ちさここはる
EP2:ギャングの金庫依頼編
15/27

第15話 自称弟子鍵師への仕事要請

 あの一件から、数日が経った。

 


「…………(知っている天井だ)」

 


 寝起きに天井を確認することが日課になった。


 今日も依頼者に拉致されない、平穏な一日を願って起き上がる。ルームシューズを履いてベッドから下りた。


 オレは背伸びをして大欠伸をする。小鳥が歌う中、大きな雑音にオレは額を抑え込んでしまう。

 


「…………(ああ、……もぅ)」

 


 エッカが【自称弟子】を名乗って居座り始めた。王族直属の鍵師という自信(プライド)をオレが折ってしまった日からだ。


 たまに帰って来る子どもたちからは冷ややかな視線で見られた。ロリや巨乳好きだとか、誤解もいいところで甚だしい。

 


「異世界人の女に興味ないだけですからぁ」

 


 頭を掻いて面倒事は嫌だなと、リビングに行けば想像以上だった。

 


「こりゃあ。どういうことだぁ?」

 


 一気に頭が覚醒したオレの驚きの声に、全員が振り返った。大型の異種属たちが白い警備服に袖を通しているが、元、【カッコー】のギャング集団の手下たちに間違いない。


 なら、トムもいるはずだが――いないようだ。

 


「トムさんっ、どこですか! これは一体、何の嫌がらせなんです!」

 


 オレの声を聞いたエッカが、手下たちを掻き分けて、ぬっと現れた。

 


「師匠、お客様がお見えです!」

 


 見下ろされることには慣れたが、毎回、豊満な胸が顔に押し付けられて、心臓に悪いんだ。


 どうしたらいいのか、と手が震えていてしまう。ここでエッカの胸が離れてくれたことで、新鮮な空気を吸い込める。この事案が恒例になりつつある。

 


「客っていうのは――」


「あたくしよ、クボヤ鍵師。お久しぶりです」

 

 

 電話をした後、ミリアルデイア政府とアンブリア=ジーノの動きは迅速だ。


 まずは大型車両(トラック)の荷台から降りると、不審な団体が身動きせずに立ち尽くしていた。


 明らかに、オレたちを待ち伏せしていた光景を、今も覚えている。夜中ではなく、朝だったこともあって異様な光景でもあった。


 周りに隣家がなくて本当によかったって、あのときほど思ったことはないよ。

 


「ええ、お久しぶりです」

 

「少し、やつれたかしら?」

 

「いえ、変わりないですよ」

 


 目を擦るオレに「師匠! お客様の前でだらしないですよぉ!」とエッカが頬を大きく脹らませた。


 そうは言われても、オレが招いた覚えのない客人だ。どうして、こんな朝早くからなんで来ているんだよ。


 少しは、こっちの迷惑を少しは考えてくれないかな。

 


「クボヤ鍵師ぃ、酒はないのかなぁ」

 


 トムの声が聞こえた方を向けば、上半身はタンクトップで上着の警部服を肩に羽織っている。


 髪からは水滴が落ち、制服を濡らしていくのが見える。肌も茹っていて、真っ赤になっている様子にオレも呆然だ。その後の言葉にも絶句してしまう。

 

 

「朝風呂のあとは、酒しかないよなぁ」

 

「まったく、トム隊長ったら」

 

「閣下。浴室に異常はなく、お湯も入れ直して適温です。どうぞ、入浴されて下さい」

 


 胸に拳を置き深くお辞儀をするトムに、アンブリアも「そう、分かったわ」とエッカが案内をして浴室に連れて行く。


 オレの理解力が追いつかない、どういう状況なのかが分からない。ただ、トムを見る限り、不満そうな態度じゃない。

 


「上手くやっているみたいですね」

 

「そりゃあ、食い扶持を失くすようなヘマはしないよぉ」

 

「前のギャング時代と今の警護の仕事で、何か変わりましたか?」

 


 トムは手下たちに外で待機するように命じたことで、全員が外に出て行く。いつものリビングに戻った。


 十畳程度でキッチンとテーブル。食事用のテーブルに一人掛け用の椅子が四脚。そして、三人が座れるソファー、一台。その横に暖炉だ。

 


「馬鹿だなぁ、仕事内容から違うってんだよぉ」

 


 ごろんと濡れた髪のまま、ソファーに寝そべった。足を組み顔は天井を見つめている。


 椅子を彼に向けて、オレも座ることが出来た。顔が天井から、横のオレに向けられた目が細める。

 


「契約書のコピーを送ってやったじゃないかぁ、見てないってのかなぁ」

 

「破格の条件でしたね」

 

「上出来だよぉ」

 


 苦笑に顔が歪んだことに「紹介した甲斐がありました」とオレも笑い返した。

 


「それで今日は朝から、何か用事だったんですか?」

 


 ここまで総出で来た以上は、何かがあるだろうと、オレはトムに聞けば、がばりとソファーから起き上がった。

 


「お前の弟子だよぉ」

 

「エッカさんが、どうかしたんですか?」

 

「エルフの王族直属鍵師って肩書きは本物だってことさぁ」

 


 腕を組んでオレは首を傾げた。この状況はどう繋がるのか。線と点が噛み合わず唸ってしまった。


 答えの出せないオレに彼も「酒は?」と要求したが、そんなもの、この家の冷蔵庫の中にはない。


 オレとエッカは飲まない。


 呑む派である子どもたちは、帰って来たときに買って来るだけで、行く前日に飲み干してから行くから、何も残っていない。


 オレは顔を横に振ってないことを報せれば、トムは憮然と表情を曇らせた。

 


「エルフの王族からさぁ、要請があったみたいなんだよぉ」

 


 要請という言葉に、彼女も鍵師だと思い出した。


 

「仕事ですか?」


「そいつぁ、閣下に聞いてくれよぉ」

 


 どんな金庫なのか。オレの心が弾んで顔が緩んでしまったのか、バレたようだ。



「師匠なんだぁ、一緒に行けばいいじゃなぁい」



 彼からも背中が押される。

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