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鍵師のおしごと  作者: ちさここはる
EP2:ギャングの金庫依頼編
12/25

第12話 蛮行の報い

【カッコー】のギャング集団の頭を助けること。犯人を引き渡すこと。以上、この二点の条件で――守護神は金庫を開けてくれた。

 


「《トムを助けて、犯人を渡す。ということを、金庫の守護神に約束したんです》」

 


 オレの言葉に女神は押し黙る。


 何か言ってくれたっていいんじゃないか。異世界で名前を知らない絶対的な存在にして、名前を聞けば跪いて触れ伏すほどの存在じゃないですか。


 肩から降り立って横に膝をついた。それから、トムを見据えてオレの耳に女神が顔を寄せ、息を吹きかけて囁いた。



『その男に救う価値があるというのか? あるというのなら――』


「《どんな悪党でも、殺されていいはずがないじゃないですかっ!》」

 


 沸きだった頭が一気に冷えて、全身に鳥肌が立ってしまう。でも、今――こいつは何を言った?

 


「《エルフの魔法を、使えですか》」


『自然魔法というのは命の源だ。生命力に溢れた魔法の中にいる、今が、最大のチャンスだ! さぁ、唱えろ! 私の名前をっ! 愛しい人っ♡』



 ちゅ、っとオレの頬に口づけをして女神は消えた。一か八か。やるしかない。

 


「《カッ○○○ドルの名において命ず!》」

 


 オレは何もない目の前で、鍵を差し向けて大きく回した。



「え! 何をしているのよぉうう!」



 エッカが状況を飲み込めずに、目を瞬きさせ見つめている。エッカが口にしようとしたときだ。



『生命よ、繋がれ』



 か細い声が祈りを治癒の神が唱えて、トムを癒しているのが分かった。


 あまりに膨大な力が放出されていたのか、防御魔法が内部の神業に耐え切れず破裂をしてしまう。


 

「う、お!」


「っきゃ!」



 中にいたオレたち、倉庫内のミジルとギャング集団たちも風圧によって、身体が吹っ飛んでしまう。


 床に大きく頭をぶつけたのか視界が大きく揺らいだが、トムはどうなったのかと、上半身を持ち上げて辺りを見渡した。


 全員が床に倒れ込んでいて、至る場所から呻き声を上げているじゃないか。ああ、エッカも同じだ。


 オレは確認のために勢いよく立ち上がったこともあって、ぐわぁんと眩暈が起こってしまう。


 耳鳴りもしたが、そんなことよりも、目的の人物はどこにいるのかと見渡す。

 


「…………(とむ、はどうなった、んだ?)」

 


 遺骸が在った場所には見つからない。ダメだったのかと俯いたオレの耳に、低い口調が倉庫に響き渡った。

 


「ミジルちゃあぁアんンん」

 


 倉庫内の空気が変わる。若手たちの表情は喜びの色を浮かべ、泣いて抱き合うが、真逆に表情が強張る人物もいた。



「僕を殺すなんて、どういうつもりだってんだよぉう」


「ぉ、おやじぃ」



 襟首を引っ張って金庫の中からひっくり返った男。その彼が、笑みを浮かべて金庫の上に立っていた。倉庫内の全視線がトムに向けられる。


 細身で低い身長、頬のこけた小さな顔にかかった長い白髪を、指先で頭に掻きあげる仕種をする。


 二重で勝ち気なオレンジ色の目が真っ直ぐ、ミジルを見てほくそ笑み、レンズがひび割れた眼鏡を、手品のように取り出してかけた。


 彼が身動きする度にミジルの身体が小刻みに震えて、顔面蒼白で信じられない、という表情になっている。



「今まで、世話をしてやったってのによぉう、あんまりなんじゃねぇのかなぁ?」


「お、俺は悪くないぞ、親父が悪いじゃないか!」



 トムとミジルが言い合う様子に「大丈夫かい? エッカさん」と目を回している彼女に駆け寄った。


 ギャング集団間の抗争は敵対勢力同士で解決をしてくれと思うが――無理だろう。


 声に反応した彼女も顔を振る、ゆっくりと上半身を持ち上げてオレを見た。



「ど、どうなったんですかぁ」


「貴女のおかげで、トムは生き返りましたよ。今、ミジルとバチっている状態です」



 ひょい、とエッカが二人を見る。周りの若手たちが二の足を踏んでいることも分かった。


 どっちについて手を貸せばいいのか、判断できないことが分かる。


 一触即発な空気の重さに逃げ出したいが、オレにはしなければいけないことが――残っている。



「…………(あーりゃりゃ、こーりゃりゃだな)」



 明らかになった真犯人を、守護神に差し出すことだ。



「…………(悪者だから殺していいということにはならない、って言ったのはオレだ)」


 

 差し出すという行為、悪者は死んでもしょうがない、を肯定している。犯人が守護神に殺されることを承知しているんだ。



「…………(偽善者だな、どうにも)」



 このままエッカと一緒に逃げることは可能だろうが、そうは問屋が卸さない。


 エッカが巻き添えを喰らってしまうかもしれない。回避するためには約束を守らなければならない。



「…………(悪役(サイアク)ったらないな)」



 だが、誓いを立てたのは――オレだ。



「僕を殺したのは、若頭のミジルなんだっぜェえ!」

 


 トムがミジルを指差した瞬間、若手たちが一斉にミジルを睨みつけた。

 


「そのクズ野郎について行く奴はいるのかなぁア!」

 


 標的になったミジルの口が大きく吊り上がる。銃をトムに向けたことで、若手たちの武器も差し向けられ銃撃戦が起こった。


 オレも咄嗟に立ち上がり鍵を強く握り、また何もない前に向けて差し込んで回した。


 

「《施っっっっ錠っ!》」



 総ての武器を閉めた。どんなにトリガーを引いても無駄だ。高性能な武器が子供用の玩具でしかない。


 全員がオレを恐怖と怒りの顔色で見つめてこられたって、もう遅いんだ。

 


「クボヤ鍵師ぃイイイ!」

 


 オレの地面に溜まっていた黒い涙が大きく盛り上がり、倉庫内が闇に覆われる。

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