#5
「先月、お嬢様からいただいたチョコレートを本人の前で捨ててしまった私に罪がございますので。できるだけ手作りのものを贈りたくて。奥様、試食になってしまいますが、召し上がりますか?」
「ええっ!? いただいていいの!?」
「左様でございます。本日のティータイムで提供するものですので」
「わぁい! はじめての直くんお手製スイーツだー!」
奥様がそこまで喜ぶとは……
そういえば、彼女は午後のティータイムは紅茶だけで済ませることが多く、手作りのスイーツを出したことがなかった。
俺はてっきり、奥様はスイーツが苦手なのかなと思っていたが、ここまで喜ぶとは思わなかったから。
「昼食や晩餐も美味しいけど、直くんはスイーツも作れるなんて。有紗ったら、幸せ者ね!」
彼女が答えた通り、お嬢様はスイーツも好き。
無茶振りが多いところはネックなことがあるが、食べることが好きなのだ。
先月の今頃、二人は一生懸命だったのかもしれない。
本当に彼女らの努力を踏みにじってしまったのだ。
「直くん、さっき「自分に罪がある」と言ったわよね。有紗に素直に伝えたらいいじゃない?」
「数日前、私の恋人からも同じようなことを仰られました。「後悔したくないのならば、素直に伝えて、謝れ」と」
「流石、直くんの彼女さんね。……って、何時からつき合っているのかしら?」
「今年のバレンタインが終わって一週間くらい経った頃からなので……つい最近です」
「直くんの年齢だと恋人がいてもおかしくないかもしれないわね」
「ええ。ですが、私とお嬢様は歳の差がございますので。お嬢様が嫌でなければの話です」
俺とお嬢様の歳の差があるのは事実だ。
彼女の年齢は二十歳前後に対して俺は二十六。
この時点で最低でも六歳は離れている。
「有紗はすっごく喜ぶと思ったわ。彼女が執事として一番懐いていたのは直くんだから。でも、おつき合いしたい人を決めるのは貴方の意思だから仕方がないわよね」
奥様もそう思っていたのか。
お嬢様に懐かれているとは知らなかった。
俺は中学時代からずっと由佳のことが気になっていたから。
彼女への思いが重たかったり、重すぎてしまったのかもしれない。
俺は今まで他の女性から告白されたとしても全て断ってきた。
表社会と裏社会を行き来している自分を理解してくれる、或いは同業者の女性とつき合いたいと――
半分は酒の力ではあるが、自分から告白し、互いにキスも交わしている。
由佳に伝えたように毒が盛られたりしている可能性がある。
彼女には伝え忘れて(恥ずかしくて言えなかった)しまったが、ずっと引きずっていたつき合いすらしていない由佳とお嬢様の思いの割合。
それが俺がお嬢様たちが作ったチョコレートを捨てた理由――
ピピッ。
まるでオーブンから「カスタードプリンの蒸し焼きができたよ!」と告げられているようだ。
「あら、できたのかしらね?」
「カスタードプリンは完成まで時間がかかります。あら熱を取って冷蔵庫で冷やさなければなりませんので」
「ううっ……食べられるまでに時間がかかるのね……」
「ええ。なので、難易度が高く、敬遠されやすいのです」
「私、部屋で待っているわね」
「畏まりました」
奥様はキッチンから出ていく。
あら熱が取れたタイミングを見て冷蔵庫に入れて冷やす。
彼女の反応次第でマドレーヌのみは避けたいところだが、お嬢様は例え失敗したとしても召し上がってくれるのだ。
「その間に後片づけをしなければ……」
ティータイムが終わったら晩餐の準備をしなければならない。
そして、ホワイトデー前日と当日の行動プランを練らなくてはな。
◆◇◆
あれから一時間以上経過――
後片づけをし、冷蔵庫からカスタードプリンを取り出す。
竹串を使い、プリン型から外し、皿に乗せて完成。
「やっと完成した! 久しぶりだが、いい感じにできた」
紅茶とカスタードプリンをワゴンに乗せ、奥様の部屋へ向かうが、玄関ホールにその姿があった。
「直くん、ここでいいかしら?」
「ええ。出来立てをお持ちいたしました」
「わぁ、美味しそう!」
「どうぞ召し上がってくださいませ」
彼女はカスタードプリンを口にする。
「流石、直くん。やっぱり手間がかかっているわね。美味しいわ」
「お褒めいただき光栄です」
「あとは直くんと有紗のすれ違いの解決だけね」
「はい」
カスタードプリンは美味しいと仰っていたので、結果オーライだ。
あと解決していないものはお嬢様と俺の問題だけ――
2026/03/25 本投稿
※ Next 2026/03/25 書き上がり次第更新予定。




