#3
まるで刑事ドラマの事情聴取ような重苦しい雰囲気の中、軽快な音楽をかけながら配膳ロボットが料理を運んできた。
その音楽と共に『お料理を届けにきました。受け取ってください』と女性の機械音が繰り返しアナウンスされている。
「食べながら話しましょう」
「そうだな」
そのロボットから料理を手分けしてテーブルに乗せ、スープとドリンクはセルフサービスのため、各自で指定の場所に取りに行った。
由佳は未使用のフォークとスプーンを使用して「うーん……このくらいかな……」と素のような口調で言いながら大まかにサラダを取り分けている。
その場面もとても可愛らしく見えた。
◆◇◆
感情を抑えるべく、黙々と食べ進める俺たち。
「――捨てたチョコレートの量はどのくらい?」
ようやく落ち着いたのか彼女から問いかけてきた。
「……半分くらい……」
「それはどういう理由で捨てたのかしら?」
「由佳からすると言い訳に聞こえるかもしれないが、聞いてほしい」
「ええ」
それはバレンタインデーの前日に材料の購入の様子を勝手に尾行したが、危険なものを買っている様子はなかった。
チョコレートの製作過程は自分の眼で見ていないため、毒が盛られたりしている可能性があると思い、二人が作ったチョコレートを捨てたと由佳に素直に話した。
「ち、ちょっと……準備段階からそこまでしていたのね……せっかく頑張って作ってくれたのだから捨てるなんて確実にないわよ。何か特別に手を施された様子は? 容器の装飾とか、中身の量が少しだけ多かったとか」
入っている量や特別に手を施されたもの?
あっ、これは心当たりがある。
「俺が受け取った容器にはクマのシールが貼ってあった。他の屋敷の人間は何も印がついていない透明な容器だった気がするのだが……入っていた量は分からないからなんともいえない」
「もしかしたらクマのシールの容器こそ、特別仕様だったかもしれないわ」
彼女の口から「特別仕様」という言葉が出てくるとは思わなかった。
何故、お嬢様はその特別仕様の容器を俺に!?
ありえないだろう……
いや、彼女は俺のことを思って特別なのかもしれないが……よく分からない。
「話を戻させていただくけれど、作って渡してくれた本人がいる前で捨てるのはかなりショックよ? 貴方のそういう行為がデリカシーに欠けているの!」
「そ、それは……」
やはり由佳に突っ込まれてしまった……
デリカシー。
繊細さに欠ける、相手への配慮が足りないという意味――
その意味は自分にも分かっていたにも関わらず、そのような行為をしてしまった自分が本当に馬鹿だ。
「じゃあ、女性は何が好きなのか教えてくれないか? 食べ物とかもらって嬉しいものとか」
俺が問いかけると彼女はうんうんと頷き、口元を少し緩める。
「女性はスイーツが嫌いな人はいないと思うわ。ホワイトデーのお返しするならば、マシュマロとグミ以外ね」
「何故、マシュマロやグミ以外?」
由佳が言う通り、女性はスイーツが好きな人は多い。
俺は今まで意識していなかったということもあり、知らなかったが、「ホワイトデーの贈り物には意味が込められている」らしい。
「マシュマロとグミを渡すと『私は貴方のことが嫌いです』という意味になるみたい。もし、何かお返しとしてプレゼントするならば、マカロンのような見た目が可愛らしいものや、マドレーヌやフィナンシェ、プリンがおすすめよ!」
「渡すものによって意味が違うのか……」
「ええ。マドレーヌなら『貴方と仲よくなりたい』という意味。無難を求めるならば、フィナンシェやプリン」
「焼菓子だったら俺にも作れるな……」
それは午後のティータイムの時や来客時のおもてなしとして作る機会があり、毎回好評を得ている。
難易度が高いと言われ、敬遠されがちのプリンを作ることも酷ではない。
「直は器用な方だものね。でも、くれぐれも毒は仕込まないように」
「それは分かっている」
「例え、私がチョコレートでもなんでもいいけれど、作って渡したとしても相手が口にするものだから余程ではない限り毒を入れることはしないわ。きっと貴方が仕えていたお嬢様もそうしていたはずよ。それと……直が後悔したくないならば、彼女には素直に伝えて……謝りなさい」
優しくもあり、冷徹な言葉。
彼女はお嬢様の気持ちとかすでに読めているのではないかというくらい。
「ふふっ、絶句ね。私から言えることはそれだけ」
「今日、君に話してよかったよ。ありがとう」
「私は吉報を待っているわ」
「はい」
俺たちがつき合いを始めるまでにかなり遠回りしてしまったが、深刻な愚痴でもなんでも、最後には互いに笑い合える関係だ。
由佳に話を聞いてもらって胸の痞えがようやく下りた気がした。
2026/03/25 本投稿・誤字修正
※ Next 2026/03/25 17時30分頃予約更新にて更新予定。




