#1
【作者より】
拙作は「すれ違いの原因は彼女から受け取った感謝チョコ。(https://ncode.syosetu.com/n4665ls/)」の続編です。
なるべくその作品の内容を理解してから読むと楽しめるかと思います。
三月――
今月もすでに十日ほど過ぎているにも関わらず、俺、来栖 直と仕えているお嬢様の富永 有紗とのすれ違い生活は続いていた。
今は奥様……彼女の母親に仕えているのだが、日を追うごとにお嬢様のことが心配になっている自分がいる。
もうじきホワイトデーのお返しものを準備しなければならない時期になるが、どうしてもその気分になれない。
女性は何が好きなのか、男性に何を求めているのかなんて全く分からない。
「はぁ……難しいな……」
泊まり番が明け、貴重な休日なのにも関わらず、部屋の机に額をつけて悶絶し、現在に至っている。
悩んだ挙げ句、何も出てこない。
屋敷の女性陣に訊いてみたらいいのではないかと思うところではあるが、例の一件が原因で距離を置かれているのだ。
原因を作ったのは俺だから仕方がない。
内部ではなく、外部の女性に訊いてみるしかないな。
俺はスマートフォンを手に取り、電話帳アプリから数少ない女性を探し出し、電話をかけた。
『はい。神永です』
「もしもし、来栖です」
電話をかけた人物は神永 由佳。
彼女は俺の恋人だ。
『直からいきなり電話してくるなんて……どうかしたの?』
「今日、何処かで会って話したいことがあるのだが……空いている時間は?」
由佳が『少し待っていただけない?』とカタカタと物音を立てる。
『私、今日は非番だから何時でも大丈夫だけれど、貴方の都合を考えて夜の方が……』
「俺も偶然にも休みなんだ。泊まり番明けからの休みだから夜じゃなくても構わない」
『あら、珍しいわね。たまにはお姉様のバーの時間帯ではなくて、ランチを提供している時間帯にお邪魔したいわ』
「だが、姉さんのところはちょっと……」
『えっ? 今、お姉様と姉弟喧嘩でも?』
「いや、ちょっと違うのだが……」
ゆ、由佳さん? どうしてこうなる!?
俺と姉さんは不仲ではないので否定した。
ここ最近は執務が忙しく、依頼を受けたり、情報を得るために姉さんに連絡を取ったりしていないので、裏の仕事をしていないことは事実だ。
「実はお嬢様のことで……」
『これは長くなりそうね……』
「だから、由佳。会って話がしたい。できれば姉さんがいないところで」
『分かったわ。今回は私がご飯屋さんを予約する番ね。場所もきちんと共有するから待っていなさい』
「はい。お願いします」
電話が切れ、室内は静寂に包まれる。
彼女はこの前、姉さんのバーで再会して久し振りに会話をした。
お嬢様と俺がすれ違い生活を送っていることは由佳はもちろん、姉さんも知らない。
あれか彼女から予約してくれたレストランの場所の位置情報が俺のスマートフォンに共有された。
◇◆◇
わたくし、富永 有紗はバレンタインデーが過ぎた頃から専属の執事だった来栖との関係が崩れたまま、あっという間に過ぎ去っていく――
彼には絶対に裏がある。
わたくしは時間が経つにつれてそう思うようになっていた。
来栖がわたくし以外に気になっている女性がいるならば――
彼はメイドとわたくしが作ったチョコレートを捨てていたということは……そのチョコレートに毒が入っていると思われたのかしら?
それとも、わたくしよりその女性のことを強く好意を寄せていたのかしら?
どうしてわたくしは自分の感情で動いてしまうの……
そのようなことを思ってはいけないのは分かっているのに……
来栖以外の執事はわたくしの無茶振りは全く聞いてくれないのが、ネックになっている状態。
彼が作ってくれた食事やスイーツが恋しいと感じ始めた時――
「来栖が作ってくれたご飯……食べたいな……」
来栖との主従関係を戻したい。
それが今のわたくしが彼に伝えたいことはそれだけ――
2026/03/25 本投稿
※ Next 2026/03/25 7時30分頃予約更新にて更新予定。




