突然の訃報
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
私の作品が電子書籍化しました!
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グリンシーの村はずれ、小高い丘の上に建つハルナのお屋敷は周囲の自然と調和するようにたたずんでいる。
淡いクリーム色の石造りの外壁に蔦が優雅に絡まり、赤褐色の屋根が夕日を柔らかく反射している。大きなアーチ状の窓が並ぶ外壁からは屋内の暖かい光がほのかに漏れ、玄関前には整えられたハーブの花壇と小さな池が静かな雰囲気を醸成していた。村の素朴な家々とは一線を画す気品あるたたずまいながら、どこか人を優しくもてなす温かみを感じさせるお屋敷だった。
そしてセオンたちの部屋はハルナの住むお屋敷の敷地内に建てられた小さな小屋だ。本当はハルナがセオンたちにもっと上等な住まいを与えるべきと強く主張していたのだが、ほかの奴隷たちとの待遇の差が目立つことやセオンたち自身が固辞したこともあって簡素な物置のような住まいが彼らの部屋となっていた。
村に着く前から兵たちの姿に不穏な気配を感じ取っていたセオンとアルカは、グリンシーに着いてもその足を止めることなく一目散にお屋敷に向けて飛ばしていた。
そして二人がお屋敷前に着いたとき、門の前ではハルナと兵たちが口論を繰り広げているような状態だった。
「だから! もっと兵をよこせと言っているだろう!」
馬にまたがったままハルナを見下ろす男が傲岸な口調で言い放った。
「ですから! グリンシーとしましてもこれ以上の負担は……」
ハルナは必死に抗論するが、立場上苦しい状況は誰の目にも明らかだった。
「奴隷でもなんでもいい! 使える者はなんでも差し出せっ!」
「そんな……」
ハルナが言葉に詰まって視線を逃がしたとき、その目は駆け寄るセオンたちを捉えたようだった。
「セオン! アルカ! こっちへ来てはダメッ!」
ハルナの叫びに険しい顔を見合わせたセオンとアルカであったが、だからこそ余計にと二人は駆ける足を速めて、すぐさまハルナをかばうように馬に乗った男の前に立ちふさがった。
「セオン、アルカ……来ないでと言ったのに……」
ハルナは泣きそうな顔で二人を見ていた。
「ハル姉が困ってるのに見ないふりとか無理に決まってるよ」
「そうだぜハル姉。なんなら俺たちがこのいけ好かねぇ野郎をぶん殴ってやろうか」
「二人ともやめてっ!」
セオンとアルカが意気込むも、それを静止しようとするハルナ。
「な、なんで俺たちを止めるんだよハル姉……」
出鼻をくじかれたとばかりに力のやり場を失ったセオンたちが混乱していると、馬上の男はにんまりと嬉しそうな顔をした。
「おんやぁ~? さっそく徴兵に応じる若者が二人……ということかな?」
「ち、違いますっ!」
ハルナは蒼然とした顔を見せつつもセオンたちを背後に押しやって前に出た。
「この者どもは私の……私の、ど、奴隷です! 私的な所有物ですので、お渡しすることはできません!」
そう言い切るハルナは拳を強く握り、震えていた。だがそんな様子を見抜いているとばかりに馬上の男は鼻で笑う。
「ふん、奴隷か。ならば話は早かろう? 私の護衛をせよ、とひとこと命じれば済む話なのだから」
「できません。この者どもには与えられた仕事が山のようにあるのです」
「仕事? 困ったものだ……この非常時に、そんな理由で……」
馬上の男は苦言を並べながらハルナやセオンたちを睥睨していた。そしてそんななか、馬上の男の装飾品を細目で見ていたセオンが不審に眉をひそめた。
「あの、おじさん……その首飾り……どこで?」
それは勾玉が三つ並んだ首飾りであり、出兵する前にアカギが身に着けていたものと瓜二つだった。
そしてそれに気づくなりハルナもハッとして口元を隠した。
「おじさん……? 奴隷ふぜいが、この私をおじさん呼ばわりだと……?」
「も、申し訳ございませんオンド様。この者は奴隷ゆえ教養もままならず、とんだご無礼を……この者には私から後ほどきつく罰を与えますので、どうかご容赦を……」
そう言ってハルナはセオンの頭を抑えつけるように下げさせ、自身もまた一緒に頭を下げた。
「ふん、まあいい……おい奴隷。発言を許す……先ほどの問いの真意を答えよ。お前は何ゆえそのような質問をしたのか」
馬上の男オンドの問いにセオンは一瞬戸惑い、ともに頭を下げたままのハルナを見た。すると目を合わせたハルナは余計なことは言うなとばかりに小さく首を横に振って見せた。だが、それでもセオンは制止を振り切るように顔を上げた。
「僕にはその首飾りに見覚えがあります……アカギという、この村から徴兵された男が持っていた物とそっくりなのです」
するとオンドはまた鼻で笑った。
「こんなさびれた村の男が? 私が身に着けるような高価な物を……? にわかには信じられん話だが」
「アカギは、それを人からもらったものだと言っておりました」
「なるほどなぁ……これほどの物を……なぁ?」
オンドは顎髭をさするように何かを考えるそぶりをしながら話を聞いていた。そしてその卑しい視線は小さく震えるハルナにも向く。
「もしかしてその者は、お前と同じ奴隷だったりするのかな?」
「はい……アカギもまた、奴隷でありました」
「ほうほう……そうかそうか……」
そこでオンドはピンときたとばかりに邪な笑みを浮かべた。
「ふっふっふ……やはりあの男のことであったか……」
その言葉にセオンたちは震えた。表情をこわばらせ、頬が痙攣するのを必死に堪え、心臓の高鳴りを悟られまいと誰もが静かに深く息を吐きだすことだけに集中した。
そしてそんな様子を睥睨するオンドは、そこでようやく興が乗ったとばかりに馬から降り、セオンたちの顔を覗き込んだ。
「やはり気が変わった……わかっているなら特別に話してやろうか、あの男の最期をなぁ」
わざとらしくニヤリと三人を挑発するように笑うオンド。
「いやあ。あの男ときたら、奴隷のくせに似つかわしくない物を持ちよってな……この私がもらい受けてやろうというのに頑なに拒む……どうしたものかと思って男の話を聞いてみれば、大切な者に貰った物だなどと嘘をつくではないか……」
「う、嘘だなんて……そ、それでアカギをどうしたと言うんですか……!」
「嘘までつくとはますます怪しいと調べてみたところ、その男は元々トツィギの生まれで、なんとスパイとしてこのグンマーに潜伏していた者だと判明した……それで男の戦いぶりを観察してみるに、たしかに倒したトツィギ兵にも頑なにとどめを刺さぬではないか……」
「そ、そんなことでアカギに濡れ衣を着せたのか……!」
「いいや? それでも決定的になったのは、奴がトツィギ兵を裏から手引きしていたということよ……そのせいでキーリュの防衛線は著しく乱れ、私たちは撤退を余儀なくされたのだ」
「て、撤退……!? キーリュは陥落したということですか?」
「いいや? それでもあと数日は保つかもしれんがな……とはいえ、私たちはグンマーのなかでも誉れ高き首都マヴァエシに住まう高級貴族……あんなところでむざむざと命を差し出してやることはできぬのだ」
「に、逃げ帰ってきたのか……! 自分たちだけ、戦場を捨ててっ!」
「私の命はほかの者とは比べ物にならんのだよ」
「それで、アカギは、アカギはどうなったんだ……!」
「あぁ、あの裏切り者のスパイか……? あいつはな……本来であれば軍法によって裁かれるところではあったが、その前に裏切りに気づいた味方の兵によって背中から槍で貫かれていたよ。仕方あるまい? 戦場は混乱を極めていたのだからな……くっくっく……」
「き、きさまぁ……!」
セオンは目を血走らせ、震える拳を強く握っていた。
「そう睨むな、これは不幸な事故だったのだ……しかし気の毒に。今のですべて理解したぞ? あの奴隷がなぜあのように高価な装飾品を持っていたのか……そうかそうか、その相手がまさか、この村の貴族だったとは……」
ハルナはただ言葉を控えて震えていた。
「恋人がなくなり、さぞや傷心しているだろうに……しかも、その恋人にはスパイの容疑すら掛かっている……そこで、どうだろうか? 今日はもう日も沈む。私たちも今日はこの村に泊まって明日の朝に発つことにしよう……なのでその間、私の部屋でゆっくりと話でもしようではないか……そうすれば少なくとも彼のスパイ容疑については私の思い違いであったとわかるかもしれない……ふふふ……」
そこでまたオンドの顔は卑しくゆがむ。
「わかるかな? 私が、恋人を失ったお前を可愛がってやってもよいということだ……」
そしてオンドの卑しい手がハルナの身体に伸びようとしたときだった。
「てめぇ! ふざけんじゃねぇっ!」
怒髪天を衝く形相となったアルカが拳を握ってオンドに殴りかかっていた。
「ダメッ! アルカッ!」
即座にハルナは声を上げたがその制止も間に合わず、アルカの拳はオンドに向かっていた。しかし結果的にその拳がオンドに届くことはなかった。
「ぐはぁっ!」
次の瞬間にはアルカの身体は地面に打ちつけられていた。オンドのそばに仕えていた従者が素早く両者の間に入り込んでアルカの巨体を投げ飛ばしていたのだ。そして制圧とばかりにアルカの眼前に突き付けられる槍の切っ先。
「おやおや……さすがは奴隷、短絡的な……」
オンドは余裕の表情で地に伏していたアルカを見下していたが、その表情は次第に疑いに変わってくる。
「ん? そういえばおかしい……お前たちが持っているその服や槍、よく見ればそれはトツィギ兵の物ではないか……なぜ奴隷のお前たちがトツィギ兵の服や槍を持っているのだ?」
その言葉の意図を汲むなりセオンとアルカは一瞬ですくみ上がった。
「こ、これは……さっき山で敵兵に遭遇したときに……!」
セオンは必死に訴えかけるが、オンドの表情がすでにその言葉を受け取るつもりはないと告げていたせいか、続く言葉は出てこなかった。
「ふむ……これは弱りましたなぁ……ここの貴族が飼っている奴隷たちはみなスパイの疑いがあるようではありませんか……これはもう、一人くらい見せしめに殺しておくしかありませんかねぇ……」
「ま、待ってくださいっ!」
ハルナは目をつぶって叫んだ。それはオンドに許しを請う姿勢であり、伏せた顔はただただ唇を強く噛みしめていた。
オンドはいやらしい顔でハルナを見下ろす。
「ふむ……あなたがどうしてもこの者たちの誤解を解きたいと言うのであれば……私の部屋でつまびらかにお話を聞くこともやぶさかではありませんがね……?」
そうしてオンドの手が再び無抵抗のハルナへ伸びようとしたときだった。
「お、お待ちくださいオンド様! た、大変でございます! そ、空をご覧くださいっ!」
そんな側近の男の声が聞こえたかと思えば、グリンシーの上空には恐ろしい竜のような巨大な影が浮かんでいた。
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拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化です!
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