遭遇
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
私の作品が電子書籍化しました!
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数日後、アカギはセオンたち仲間に見送られ、ほかの志願兵とともに発っていった。またここへ帰ってくると簡単なあいさつだけを済ませて、朝露の残る草原の道を無言で歩いていく。その姿は隊列のなかに紛れていくうちにだんだんと霞み、やがて霧の向こうへと溶けていった。
それでも残されたセオンたちの暮らしはそれほど大きく変わらなかった。来る日も来る日も二人で杭を回し続け、時たま徴兵されたぶん人手が薄くなったところを穴埋めするように狩りに連れ出されることがあるくらいだった。
その日もあいかわらずセオンたちは杭をひたすら回していた。
「ねぇアルカ。そろそろアカギも戻ってくるかな?」
「ははっ! あいつがそんなに簡単に逃げ帰ってくるような奴かよ。アカギはな、やると言ったらやる男だ。となれば箱根レッドに選ばれるまではノコノコ帰ってこねーよ」
「そっか~……そうなると、きっとそう簡単には戻って来れないよね……」
「だな。きっと今頃はキーリュの防衛線を守るどころか、トツィギの奥底まで深く攻め込んでるはずさ」
「ちょっとアルカ? トツィギは僕たちの生まれ故郷なんだよ?」
「あ、そっかスマン。ちょっとこの頃、色々と考えさせられちまってよ」
「うん……それは僕も同じなんだ。僕たちはいったい、どちら側の人間なんだろうって」
「ったくよ~……偉い奴らが戦争なんかしなけりゃよ~……」
アルカは不満を口にしながらも淡々と杭を回していた。
「ところでさ。アカギが向かったキーリュってどんなところなのかな?」
「さぁな。俺もグリンシーのすぐ隣の領地ってことくらいしか知らない。だけどグンマーとトツィギの県境がそこにあって、いっつも両軍が衝突してるって話だぜ?」
「もし、もしさ……トツィギにキーリュを突破されでもしたら、僕たち、わりとヤバいことになるんじゃないかな?」
「そりゃあグリンシーは遮るものも何もない草原だからな……仮にキーリュを抜かれでもしたら一気に敵の大軍が押し寄せてたちまち崩壊するだろうぜ? でも、だからこそアカギたちがしっかりと守ってくれてるんじゃねーか」
「だ、大丈夫かな……」
「大丈夫だって。聞いた話じゃあキーリュは深い霧を生む天然の要害だっていうからな……加えてグンマーにはバスバスターもそろっているんだ、絶対負けねーって」
「そうだといいけど……」
「なんだよ煮え切らねーな……アカギを信じてねーのか?」
「そうじゃないけど……」
「じゃあいったい何が不安なんだよ?」
「だってさ……戦力差は明らかなんだよね……?」
「そうさ? ま、難しいことは知らんけど、少なくともまわりの人はみんなそう言ってる。バスバスターの戦闘スーツだって五色全部がグンマーにそろってるんだから、この戦力差はそう簡単に覆ったりしないだろ」
「じゃあ、なんでトツィギはそんなに絶望的な戦いに挑んでくるの? 戦争って、勝ち目がなくても自分から仕掛けていくようなものなの?」
「だから、難しい話は俺にだってわかる訳ないだろ?」
「僕はただ、心配なんだよ……」
そう言って杭から手を離してうなだれるセオンを見て、アルカは一つため息をついた。
「ま、アカギを連れていかれて不安になるのはわからんでもないけどな……」
アルカは呆れた顔で杭を離して後頭部をかいていたが、やがて黙って踵を返す。
「やめだやめだ。そんな暗い顔して仕事どころじゃねーよ……最近はいっつもじゃねーか。おいセオン、ちょっと昼休みには早いけど、今日は外に出かけるぞ」
「えっ!? ちょっ……出かけるって、いったいどこに?」
「石集めに決まってんだろ!」
「えぇ!? 仕事は? サボっていいの!?」
「ダメに決まってるけど、このままじゃ辛気臭くてたまんねー……だからこれは作業の効率化を考えた作戦であってだな……頼むから、これで気分を切り替えてくれよ?」
「で、でも……仕事を放り出してあとでハル姉に怒られないかな……」
「いーや、ハル姉ならむしろセオンを気分転換に連れ出しなさいって言うに決まってるね!」
仕事を放り出してズンズンと大股で歩くアルカの背中を追ってセオンも歩き出した。
木々の間を縫うように草木が踏みしめられたけもの道が続き、土の匂いと湿った苔の感触が足元に広がっている。
セオンは腰の袋を揺らしながら小石一つ一つに目をとめ、静かに歩みを進めていた。
枝の隙間から差し込む陽が時折きらりと石の表面を照らし出し、まるでそれを声として受け取っているかのようにセオンは手にとって耳を澄ませたりしていた。
両側に高い岩肌が並ぶ細い道を抜けてさらに奥へ奥へと進むセオンの背中を見続けるうち、アルカの表情は徐々に不安に覆われてきていた。
「おーいセオン、そろそろ引き返そうぜ……? 久しぶりの石集めに夢中になるのはわかるが、だいぶ険しい山道になってきたし霧も出てきた……この調子じゃ隣のキーリュまで辿り着いちまうよ」
「あはは。キーリュは南東の方角だよ。僕たちは今、北東に向かってるんだから平気さ……って言うか、そもそも歩いてそんなに早く着くような距離じゃないしね~」
「くっそー! さっきまで落ち込んだ顔してやがったのに、いざ石集めに来た途端に活き活きとしやがる!」
「付き合ってくれてありがとう、アルカ!」
「くっ……ま、まぁ仕方ねーな……」
少し照れたように紅潮した頬をかきながらアルカは黙ってセオンのあとを歩いた。
それから二人はしばらく岩肌の荒い山道を登っていた。
ふと立ち止まったセオンの背中に気づかず、うしろから追ってきたアルカがぶつかりそうになる。
「お、おいセオン、急に立ち止まるなよ……」
「シッ! アルカ静かに……前に誰かがいる」
前方を見つめたままアルカを手で制して、セオンは耳を澄ませた。
「誰かって……こんな山奥に俺とセオン以外の人がいるわけ……って、マジかよオイ!」
セオンのうしろから前方を覗き込んだアルカも、その人影を見るや否や急に口を閉ざして草木の茂みに腰を落とした。二人の視界の先にはたしかに人影があったのだ。
「お、おいセオン……誰だよあいつら……」
アルカは小声で耳打ちをする。
二人が見つめる先にいたのは武装した四人の大人たちだった。彼らの服は上等ではないものの布の服であり、手には精錬された鉄の槍を持っている。
「僕だって知らないよ……でも、山賊や狩人の類じゃないことだけはたしかだと思う……グンマーじゃあんな精錬された槍や布の服なんか滅多にお目にかかれないからね」
「おいおい……まさかこんなところでトツィギ兵とでも言うんじゃないだろうな……冗談じゃねーぞ……? キーリュの天然要塞はどうしたんだよ? まさか陥落したのか……?」
「違うよ。人数もそう多くないし、方向もまったく違う……たぶん別動隊か何かだと思う」
「ちょっと待てよ……じゃあこれ、そのまま放置してたらグンマー軍が……アカギがまずいことにならねーか……?」
「変なことは考えないでよアルカ。僕たちに何かできるわけないでしょ……? 相手は本物の兵士、しかも人数だって僕たちより多いんだ」
二人は荒くなる呼吸を抑えるように胸を押さえていた。
「それに相手の目的だってわからないし、味方だってあえてあの人たちを泳がせている可能性もある……僕たちみたいなイレギュラーな存在が接触していいことなんかないって」
「で、でもよ……考えてみたら俺たちも元はトツィギの人間なんだぜ……ここは素直に名乗り出れば無事にトツィギに保護してもらえるんじゃねーのかよ……」
「それは現実逃避だよアルカ……僕たちは今明らかにグンマー人の格好をしているんだし、生まれがトツィギであったことなんて証明できないでしょ……? しかも情報が少なすぎる。思い込みで判断するのは危険だよ……なにより、仮に今ここで僕たち二人が保護してもらえたところでグリンシーにいるナトリはどうなるのさ」
「う! そ、そうだった……すまんセオンの言うとおりだ」
二人は静かにあとずさりを始めた。
「このまま黙って引き下がろう……急いでグリンシーに帰って、ハル姉にこのことを報告するんだ」
「わかった……慎重に帰ろう。セオン、くれぐれも物音を立てるなよ……?」
そうして歩んできた道を引き返していたときだった。
パキンと渇いた音を立てて割れる枝の音がやけに大きく一帯に響いた。
「誰だっ!」
刹那、前方の兵士たちが全員殺気立ち、セオンたちが潜んでいる茂みのほうを睨みつけた。
「まずいセオン! 見つかった!」
「待ってアルカ! 落ち着いて!」
セオンは慌てふためくアルカの口をふさいで静かにさせると、息を殺して気配を絶った。
「物音がしたって、山には僕たち以外の動物だっているんだ」
「そ、そうだよな。す、すまん……」
セオンの思惑どおり兵士たちが殺気立ったのは一瞬で、彼らはまたすぐに警戒を解いた様子だった。
「ははは、どうせただの動物だろ」
「ここは敵地なんだ、俺たちも気が立っているんだろう……ここで少し落ち着こうや」
そんな声が聞こえてきてセオンたちは安堵のため息をつく。
そして同時に敵兵が目の前にいるという緊張感に表情がこれ以上なくこわばっていた。
「聞いたか? セオン、確定だ。あいつらトツィギ兵だぜ?」
「そうだね……やっぱり状況から考えて、キーリュを迂回してきた別動隊なんだよ」
「そいつはやべぇな……早くグリンシーに戻らねぇと……」
そして二人が再びあとずさりを始めたときだった。
「気を緩めるのもいいが、ここが敵地であることを忘れるのは命取りだぞ」
トツィギ兵たちのなかで一人だけ槍ではなく杖を持った人物がおもむろにその杖を高く掲げて何かを口にしだしたのだった。
「念のため原創術で辺りを探ってみるとしよう……原始の息吹、万象を抱く淵源となりて我が望みしものを映し出せ! ワイルド・サーチ!」
するとその杖を持った兵を中心に妙な気配が放射線状に放たれ、瞬く間にセオンたちを含む周囲一帯を飲み込んだ。
すると間もなく杖を持った兵の表情は一気に血の気が引いたように青くなり、即座にまわりに向かって叫んでいた。
「違うっ! 敵兵だ! さっきの茂みに人間が二人潜んでいるぞっ!」
お読みいただきありがとうございます。
拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化です!
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