夢
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
私の作品が電子書籍化しました!
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高台の草むらに敷いた布の上、食べ終えた木皿を並べながら、五人はどこか名残惜しそうに空を見上げていた。
澄み渡る青空の下、緑の草原のなかに遠くグリンシーの赤い屋根が点々と連なり、風に揺れる草の匂いと誰かの笑い声が心地よく混ざり合っている。
セオンの隣でナトリが大げさに満腹を訴え、アルカが茶目っ気たっぷりに突っ込み、アカギは風に吹かれて知らぬ顔。ハルナはそんな様子を目を細めて見ている。
どこか家族のような、穏やかなひとときだった。
「ちょっと風に当たってくる」
そう言ってアカギが席を立ち、高台の縁のほうへと歩いていく。
「あ、それなら私も」
釣られるようにハルナも立ち上がり、アカギのあとを追っていく。そんな様子を見ながらセオンはぼんやりと呟く。
「やっぱりハル姉はアカギのこと好きなのかなぁ……」
「さぁな。そもそもハル姉みたいな貴族と俺たち奴隷じゃ釣り合わないだろ」
両手を頭のうしろで組んで仰向けに寝転びながらアルカが言う。
「ふぅん……俺たちってことは、やっぱりアルカもハルナお姉ちゃんのこと好きなんだ」
「だ、だだ、誰があんなブス!」
ナトリの流すような横目にアルカは飛び上がる。
「なぁんてな、誰かさんの真似だ。なっはっは」
そしてアルカはすぐに大きく笑い飛ばした。
「でも、正直言って好きだぜ? 当たり前じゃねぇか。俺たち奴隷とも分け隔てなく接してくれるし、優しいし、とびっきりの美人だしな」
「お肌も綺麗で、スタイルも抜群だもんね~?」
ナトリはいたずらな顔で言う。
「そうそう……って、オイ!」
三人はまたそこで軽やかに笑った。
「でもま、もし俺たちのなかでハル姉を射止める可能性があるとしたら、それはやっぱりアカギなんだろうな。なんと言っても俺たちのまとめ役だしさ」
「そこはアタシたちより二つも歳上なんだし仕方ないよ~。……あ、でも、アタシから見たらセオンもアルカも素敵だよ?」
「なはは。サンキュー、ナトリ」
「ハル姉が十九歳で、アカギが十八歳……悔しいけど、あの二人、お似合いなんだよなぁ」
セオンが膝の上で頬杖をつきながらため息を一つ。
「そういう意味でも、セオンはもっと現実と向き合うべきなのかも……なっ!」
そう言ってアルカはセオンの身体を強く叩き、その衝撃でセオンはナトリのほうへ倒れ込んだ。
「うわっ!」
「きゃっ!」
ナトリに覆いかぶさるように倒れたセオンは地面に腕を突き立てながら赤くなった顔で硬直した。そしてその腕の下になったナトリもまた同じく顔を赤くして動かない。
「な~はっは! それじゃあ若いお二人さん。ピクニックのあと片づけはこのアルカさんが任されといてやるぜ」
アルカはわざとらしく言ってその場を立ち上がる。それでもセオンとナトリはしばらく見つめ合ったまま身動きが取れなかった。
セオンとナトリが二人で見下ろすグリンシーの草原には風が絶え間なく吹いていた。遠くには古代の遺跡が霞み、どこか異文化の風情を醸し出す。
しかしそんな風景も二人にとっては見慣れたものだった。
「いつ見てもいい景色だよねぇ~……子どもの頃にみんなしてグンマー軍に捕まって来て、もう故郷の景色も思い出せないくらいだけど、ハルナお姉ちゃんのおかげか最近はここがアタシたちの故郷なんだって思えちゃう自分もいるんだ」
「それは僕も同じ気持ちだよ……本当に恵まれてる、僕たちは」
「奴隷だけど、不自由はないもんね」
「そうそう。まだ幼くて生きる術のなかった僕たちに仕事を与えてくれている……グリンシーの人たちはみんなそんな感じだった、今だって」
そこでまたしばらく会話が止まる。二人の間には言葉のない穏やかな気持ちの会話が成り立っているようですらあった。
「ねぇ……セオンってさ、何か『夢』とかないの?」
ナトリが静かに語り出した。
「夢?」
「あんなところに行ってみたいとか、こんなことをしてみたいとか、そういうの」
「……そんなの考えたこともなかったな。だって僕たちはグリンシーを離れられないし、生きていくだけでわりと大変だし」
「うん……そうだよね……」
ナトリは顔を伏せる。
「ナトリは?」
「ん?」
「ナトリは何か夢とかないの?」
「アタシ? アタシは……」
ナトリはひと目セオンを見たあと、すぐに視線を落とした。
「……なんにもないんだ。だから、その、代わりに誰かの、セオンの夢を応援したいなって思って……」
「僕の?」
「うん……」
二人はまた会話に詰まったが、重苦しい雰囲気にはならなかった。むしろそんな空気を払拭するようにセオンは顔を上げる。
「そっか……それじゃあ夢がないだなんて言ってる場合じゃあないよね」
するとナトリは嬉しそうに顔をセオンに寄せる。
「ホントに!? ホントに何か夢があるのっ!?」
「う、うん……何もないわけじゃないよ。ただ……」
「ただ?」
セオンは少し顔を赤らめて身を引きながら続ける。
「わ、笑わないでくれる……?」
「笑わないよっ!」
ナトリはさらに身を乗り出して迫った。セオンはそんな彼女から視線をそらしながら頬を染めて答えた。
「僕の夢は……世界中の石の声を聞くこと」
「石の……声? よく話してくれる不思議な話?」
「そう……。アルカはいっつも気のせいだって笑うけど、たしかに僕には聞こえるんだ。いつの時代のものかもわからない、誰のものかもわからない、そんな記憶のようなものが」
「うん……知ってる。セオンいっつも真剣に言ってるもんね。アタシ、セオンが嘘をついてないってわかってたよ?」
「ありがとう、ナトリ」
「ううん。セオンこそ教えてくれてありがとう。アタシ、全力で応援するからね!」
ナトリはにっこりと微笑む。
「よかった! セオンの夢が応援できるような素敵な夢で!」
「そ、そうかな……?」
「そうだよ! だって同じことをアカギやアルカに聞いてみなよ。絶対にこう言うよ? 『ヒーロー!』って。なにそれ? ヒーローってなによヒーローって。まったく男の子は……」
「あはは……たしかにあの二人なら言いそうだねぇ」
「奴隷から成り上がるにはヒーローになるっきゃねぇ! 俺がヒーローになって世界を救ってやるんだ! ってね。アタシからすれば、あーハイハイわかりましたーって感じ」
「そ、そこまで言ったらかわいそうだよ……ほら、今はグンマーとトツィギで戦争をしているんだし、ヒーローになって世界を救う、つまり戦争を止められるなら、それは何よりもすごい夢なんじゃないかなぁ」
「そうかな~? アタシから見ればセオンの夢のほうが立派だけどな~?」
「えっ!? 僕の夢はただ石の声を聞くことだよ? どう考えたって戦争を止めるほうが……」
「ううん、そんなことないよ? だってセオン、世界中の石の声を聞くって言ったもん」
「言ったけど……?」
「世界中のって言うからには、グンマーもトツィギもだよね? でもそんなこと言ったら戦争してる今の情勢が続く限り無理に決まってるでしょ? と言うことはつまり、セオンの夢は世界を平和にしたその先にある夢ってことなの!」
「う、う~ん……さすがに僕もそこまで考えていたわけでは……」
「いいの! だって案外そういう人が本当に世界を救っちゃうすごい人になるのかもしれないんだから! ヒーローがゴールじゃダメなの。セオンの夢はあくまで世界中の石の声を聞くこと! でもその途中で、ちょっとついでに世界を平和にしちゃうの! でっかい夢は無限大!」
ナトリはキラキラと期待している目でセオンを見ている。
「あはは……そ、それじゃあ僕、少しでも夢に近づけるよう、頑張るよ……」
「うんっ! アタシもすっごくすっごく応援するっ! 夢は一人で見るより、みんなで見るほどいいって!」
ナトリは眩しいくらいの笑顔をセオンに向けていた。
「今はまだ、その夢を叶えるためにどうしたらいいかなんてわからないけど……」
「大丈夫! もう少し大人になればきっと道は拓けるって!」
「そうかなぁ? ……でも、あえて言っておくけど、現実は厳しいよ。まず奴隷はずっと奴隷のままだって言うし……」
「そう? アタシには、あのハルナお姉ちゃんがアタシたちをこのまま奴隷にしておくってほうが考え難いんだけどなぁ~……」
「たしかにそれはそう思う……」
「でしょ!? だからさ、アタシたちはいつかくるそのときに備えて、冒険の準備をしておこうよ! 地球の果てまで目指せ! 冒険だ!」
「ぼ、冒険って……?」
「世界中の石の声を聞きに行くんでしょ?」
「そ、そうだけど……ねぇ、いいのかな? 僕たち奴隷だけど、夢なんか持ってもいいのかな?」
「いいに決まってるでしょ!? じゃないとアタシが困っちゃうもの! セオンの夢はもうセオンだけの夢じゃないもーん!」
「ナトリは本当にそんな夢でいいの? だって、ナトリには石の声が聞こえないんでしょ?」
「それはそうだけど……でもアタシは信じてるもの。石の声は本当にあるんだって」
「ホントに!?」
「うんっ! きっと大昔の人がアタシたちに何かを残そうとしたんだよ、きっと!」
「そうなのかな……?」
「そうだよ! 人間って、たとえその人が死んでいなくなっても、次の世代に何かを伝えて、その知識や技術を積み上げていくものでしょ? そう考えたら大昔の人だって、たとえ絶滅寸前にまで追い込まれたとしても必ず何かを後世に残そうとするはずだよ!」
「不思議だな……ナトリにそう言われると、本当にそんな気がしてくるよ」
「ううん? 意外とこれは真実かもしれないよ? だってセオンが話してくれるのは普通では考えつかないような知識や技術……そんなことばっかりなんだもん!」
「そ、そうかな?」
「だから案外、世界を変えていくのはセオンみたいな人なのかもしれないね!」
「そ、それはちょっと飛躍しすぎてるような……」
「いいの! だって、夢は大きく持ったほうがいいに決まってるもの!」
「あはは……じゃあ僕も、ちょっと夢を大きく考えてみようかなぁ……」
「そうだよ、そうしなよ~!」
ナトリはセオンを鼓舞するようにまた屈託のない笑顔を見せた。
「おーい、セオン! ナトリ! そろそろ帰るってよ!」
そこへ後方からアルカの大きな声が響く。二人が振り返ると、そこにはピクニックの片づけを終えたアルカやアカギ、ハルナがそろって手を振っていた。
「それじゃあアタシたちも帰ろっ! でも、セオンの夢はみんなには内緒だよ? この将来の冒険の約束はアタシとセオン、二人だけの秘密にするんだから!」
立ち上がって振り返り、人差し指を立てながらいたずらな顔を向けるナトリに、セオンは少しはにかんで頬を赤らめていた。
お読みいただきありがとうございます。
「でっかい夢は無限大! 海○戦隊ゴーカイ○ャー♪」
「地球の果てまで目指せ ボウ○ンジャー レディゴー♪」
いい曲ですよね~!
実はこの4話にはリュウソ○ジャーからも影響を受けた箇所があります。
わかりますか?
さて、拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化です!
下のほうに表紙とリンク貼っておきますね!
よろしくおねがいします!










